(10)藤原清定

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 ツガル邸で一泊してから目的だった書類を預かって、再びフジワラ領へ。

 ツガル領と違ってフジワラ領には転移装置はそこまで多く配置されていないので、飛んだ先はタマモの屋敷がある禁足地の中になる。

 転移装置がある場所からすぐにタマモの屋敷へ向かったが、その時にはすでに是行はいなかった。

 もしかすると図々しく一泊している可能性も考えていたのだけれど、さすがにそれはタマモが許さなかったらしい。

「――その顔を見ると上手く行ったようだの」

「この委任状で、ある程度の権限を持たせてもらえたからね。少なくとも門前払いということにはならないと思うよ。それよりも話の展開によっては悪い方向に進む可能性もあるけれど、本当にいいんだね?」

「仕方なかろう。最悪、清定と是行がどうにかなったとしても、御家のお取り潰しまではいかないだろうからの」

 七つの御家の一つであるフジワラ家を完全に潰してしまうとヒノモトへの影響が大きすぎるので、誰もフジワラ家自体を潰してしまうことは考えていない。

 

 一応タマモの許可を得たので、一時間ほど滞在してからタマモの屋敷を後にした。

 禁足地から再び稲荷神社(本社)へ行って、神職たちへの挨拶もそこそこにフジワラ家の本邸がある町へと向かう。

 ツガル邸は日本家屋風の大きな屋敷だったのだけれど、フジワラ家の本邸はそのままお城になる。

 フジワラ家の本邸は元の世界でいうところの玉縄城辺りにあるが、これまでの歴史や地理的に考えて作られているというよりも完全にタマモの禁足地に近いからという理由で置かれている。

 

 それだけ代々のフジワラ家がタマモのことを重要視してきたことの証拠でもあるのだけれど、さすがに御家の一つの本拠地だけあって町としても十分すぎるほど発展しているように見えた。

 厳しい冬は雪に覆われるムツと比べても発展しているように見えるのは、やはり地理的優位からくるものだろう。

 ただかつての日本の関東と同じように広い湿地ばかりで、周辺地域はそこまで開発が進んでいるようには見えない。

 もっと手を入れれば肥沃な土地が手に入るだろうにと考えてしまうのは、かつてこの地に来た時にも同じようなことを考えたからだろうか。

 

 そんな感傷もそこそこにして、いつものように馬車を使って町に入ってすぐに宿を取ってこれからするべき行動を話し合うことにした。

 といっても子供たちは御留守番になるので、違う部屋でハロルドやヘリと共にお勉強タイムだ。

「――予定通り明日はゆっくり休むとして、城に向かうのは明後日でいいかな?」

「いいんじゃない? 手続きがどれくらいで終わるのかもわからないのよね?」

「そうね。いくらお父様の推薦状があるとはいえ、本物かどうかを確認するのにも時間がかかるでしょうから下手をすれば半日は待たされるかもしれませんわ」

 アンネリの確認に、アイリが頷きながら予想を立てていた。

 アイリの言うとおりに直弼の直筆の推薦状があるとはいえ、こちらの身分は一冒険者でしかないのでそうそう簡単に当主に会えるはずもない。

 いくら直弼の実の娘であるアイリがいるといっても、それは変わらないだろう。

 むしろすんなり会うことができた直弼の方が、普通ではなかったといえる。

 

 ――と、そんなことを考えていたのが嘘のように、フジワラ家当主である清定との面会は意外にすんなりと手配された。

 具体的にはどうせ長くかかるからと受け付けてくれた人の勧めもあって宿に戻ろうとしていた道中に、その受付が慌てて追いかけてきたのだ。

 小一時間ほど待つことにはなるが、城にスペースを用意したのでそこで待たれるようにと。

 一時間程度であるならわざわざ宿に戻るほどでもないことから、案内に従って用意されたという部屋に入ることとなった。

 

「さて。これだけ早い対応ということは、もともと予想してあったのか……」

「二つ分の御家の署名があるからこその対応だと思われますわ」

「それもね。あとはアイリがいることも少なからず影響しているんじゃない?」

「それは……どうでしょうか。ないとは言えませんが、あまり関係のない気もしますわ」


 いずれにしても、清定との対面は迫っている。

 今回の面会で一気にことが進むとは思っていないが、できることなら清定が是行に同調しているのか、もしくは別の目的があって動いているのかくらいは探れないかと考えている。

 たとえ具体的なことへの言及がなかったとしても、表情なり態度なりを見てわかることもあるはずだ。

 さらにいえば、次の面会の約束を取り付けられれば上出来と言ったところだろう。

 

 こちら側のメンバーは、アイリとアンネリの二人とラックとクインの眷属になる。

 普段から交渉ごとに出ることが多い眷属二人は勿論のこと、アイリやアンネリも令嬢としての教育はしっかりと受けているので不足はないはずだ。

 もしかすると俺が一番の不安要素かもしれないなんてことを考えていると、護衛と共に清定が部屋に入ってきた。

 ユグホウラのことに関しては明らかにしていないので、立場としては下になるこちらが立って出迎えた。

 

 一通り簡単な挨拶を済ませてあちらから席に座るように勧められてから、本題へと移った。

「さて。タマモ様に対する是行の行動についてと聞いておるが、相違ないか?」

「はい。間違いありません。あれだけのことをしておいて、どういう意図があるのかと聞いておきたいのです」

「どうもこうも、タマモ様はヒノモトにとってなくてはならない存在。であるがゆえに、挨拶は必要であろう?」

「そもそも当人が会う必要はないと考えていてもでしょうか?」

「これは異なことを。会うのが嫌なのであれば、そもそも面会を拒絶すればよろしいのではないか?」

 優男と言われてもおかしくはない秀麗な顔でわずかな笑みを浮かべている様子を見ると、耐性の無い女性であれば一撃で落ちたかもしれないなんてことを考えてしまった。

 幸いにしてこの場にいる女性たちは、そんなことに惑わされるほどに世間知らずでもなければ対人経験が浅くはないのでコロリと行くということはなかった。

 それにしても対面で話している清定を見ていると、是行の行動に対してタマモがどう考えているのか知らないように感じる。

 

 付け加えるとタマモとフジワラ家の関係性を考えれば、是行からの面会は簡単に断れないことは理解しているはずだ。

 にもかかわらずこの物言いということは、実際に是行がタマモの屋敷でどういうことをしているのかさえも知らない可能性もある。

「お言葉ですが、タマモ様がフジワラ家からの面会依頼を簡単に断れるとお思いですか?」

「む……」

「さらにいえば、ご当主様はタマモ様の屋敷内における是行様の振る舞いをご存じない様子」

「……どういうことか?」

「分かりやすいところでいえば、タマモ様の友人だと紹介されたにも関わらずいつまで経っても相手をしないとかでしょうか。今回のようにツガル家の娘であるアイリがいるにも関わらず、です」

 こちらが説明をすればするほど、清定の眉間にしわが寄って行くことがわかった。

 それを見れば清定は、是行がタマモの屋敷で行っている振る舞いについては知らなかったということが分かる。

 

 もっともこれに関しては、知らなかったでは済まされない。

 実際にタマモが「迷惑している」と感じている以上は、何らかの処分が下されてもおかしくはない。

 それを理解しているのか、清定はすぐに結論を出すことはしなかった。

 当たり前だがあちらとしては、俺たちが嘘をついている可能性も考えなくてはならない。

 二つの御家の署名が入った委任状を持っている以上は嘘をついていることは考えづらいが、それでも身内を疑うことになる以上は自身で動かなくてはならない。

 そのことはこちらも理解しているので、すぐに結論を出すように求めるつもりはない。




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m(__)m

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