(9)ツガル邸へ

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 タマモと別れたあとは、屋敷の近くにある転移門を使ってツガル家の屋敷に向かった。

 情緒も何もない帰還になってしまったけれど、今回は時間が勝負になるので悠長に船で戻っている場合ではない。

 それに転移門を自在に使えるというのは相手の意表を突くという意味でも、かなり優位な方法だと考えている。

 もっともここまでしてもフジワラ家が全く動かない可能性もあるのだけれど、それはそれで構わない。

 今まで勝手に『問題なし』だと判断していたことが、問題が大有りの行為だったと認識してくれるようになれば、それだけでもタマモにとっては良いことだといえるから。

 俺たちがタマモのもとを訪ねていたことがフジワラ家当主にどう伝わるか分からない以上、こちらはできる限りの対応をするだけである。

 

 半月も満たずに戻ってきた俺たちを見て直弼は驚いていたが、アイリから話を聞いて怒りを通り越して憤ってさえいた。

 ヒノモトにとってタマモが重要であり、その守護者でもあるフジワラ家がそのような体たらくでどうするのかと今にも怒鳴り込みに行きそうな勢いだった。

 さすがに今にも駆けだしていきそうなのはアイリが止めたが、その怒りをみればフジワラ家がいかに常識外れなことをしているかが理解できるだろう。

 父親の怒りを止めたアイリは、そのままどうせなら他の家も巻き込んでしまおうと提案していた。

 その提案に乗った直弼は、すぐさま通信具を使ってどこかへと連絡を取っていた。

 七つの御家はユグホウラが譲った通信具が備え付けられていて、現代日本でいうところのホットラインのようにそれぞれの家と話ができるようになっているそうだ。

 

 直弼が、どこの家と話をしたのかまでは聞いていない。

 むしろ一つだけではなく、複数の家と話をしたのではないかと思えるくらいに長い時間話をしていた。

 当たり前だが七つの御家といってもそれぞれに立場と関係性があり、藤原是行の行動に対して何も言わない家もあるはずだ。

 この辺りは複雑な政治も絡むことなので、俺たちが余計な口を挟む必要はないだろう。

 

 そんなことを考えながら直弼を待っていると、あからさまに満足そうな顔をして俺たちがいる部屋に入ってきた。

「もうしわけございません。お待たせしました」

「いえ。こちらが面倒事を持ち込んだのですから、いくらでも待ちますよ」

「あなたがそれを言うと逆にプレッシャーになるのですが?」

「あはは。気のせいってことにしておいてください。本当にそんなつもりはないですし」

「あなたがそんな性格でいてくれて助かりますよ。本当に」

 そんな軽口から始まったのも、直弼のことが信頼できているからだと実感できている。

 アイリの存在があったからというのも大きいが、やはり前回訪問した時のやり取りが生きているからだろう。

 もっとも是行という悪例を見てしまったたからこそ、直弼の存在がより際立って見えるのかもしれないが。

 

「それで向こうにも説明をしておきましたが、当面は様子見ということでいいんですね?」

「ええ。何よりもタマモがそれを望んでいますからね」

「うむ。確かにそれは重要でしょうね。甘いとは思いますが……過去のことを考えれば致し方なしでしょうか」

「ツガル家はタマモとはあまり関係性がないはずなのにちゃんとしていて、直接の関係があるフジワラ家があれってどうなんでしょうね」

「何を言っているのですか。我が家がタマモ様に対して畏敬の念を持っているのは、君のお陰でもあるのですが?」

「…………はて?」

 一瞬何を言われているのかわからずに、首を傾げてしまった。

「やはりり気付いておりませんでしたか。もしくは忘れているだでしょうか? とにかくあなたとの直接の付き合いがあった当代たちが、色々と話を聞いていたと残っておりますよ?」

「確かにちょくちょく話はしましたが……ああ、そうか。手記があったんでしたね」


 世界樹の精霊として生きていた時に、代々のツガル家の当主たちとも雑談混じりにタマモのことも話していた記憶はある。

 ただ本当に軽い話題のつもりで出していた話ばかりだったので、現在までそれが伝わっていることが驚きだ。

 もっとも以前来た時に代々伝わっている手記があるという話を思い出して、すぐに納得できた。

 ――と同時に、当時の生きた話を残せる手記を伝えていくことにした宗重たちには、非常に感謝したくなってきた。

 

 そんなことを考えていたせいか、微妙な表情になっていることに気付いた直弼が話しかけてきた。

「なにかありましたか?」

「いえ。タマモと会ったせいもあるのでしょうが、少し昔のことを思い出してしまいました」

「……宗重のことですか。当時は色々とあったようですね。まさしく存亡の危機だったと書かれておりましたよ」

「確かに見方によっては間違いではありませんが、時々思うのですよ。たとえユグホウラが手を貸さなかったとしても宗重ならどうにかしたのではないかと」

「……そうですか。キラ様がそうおっしゃるのであれば、そうなのかもしれませんね。ただ手記には『精霊様は気に入ったものを過大評価する悪癖がある』と書かれておりましたが?」

「宗重はまた、そういうことを……」

 晩年の宗重は、俺に対してそのセリフを何度も口にしていたが、それをそのまま手記にも書いていたらしい。

 まさか五百年の時を超えてそんなことを指摘されるとは思っていなかったので、何とも複雑な心境になってしまった。

 

 こちらの想いを察したのか、あるいは同じように昔のことに想いを馳せていたのかは分からないけれど、直弼は十分に時間を置いてから口を開いた。

「――いけませんね。少し話がずれ過ぎましたか。一応、三つの御家に連絡をいたしましたが、一つがこちらに完全に任せると言ってくれましたな。残りは状況次第といったところでしょうか」

「そうなんですか。まあ、全部に断られなくてよかったという感じでしょうか?」

「そうですな。連絡の取っていない他の家は、そこまで我が家と繋がりがあるわけではないので控えましたが……タマモ様の扱いを聞いて憤慨しそうな家は一つ心当たりがあります」

「あれ? それじゃあ、なんで……ああ、そっか。繋がりが薄すぎて暴走しそうかどうかが見分けがつかないということですか」

「そういうことですな。今はまだ穏便にということでしたので、控えておきました。ことと次第によっては、そちらに連絡することも考えております」

「うん。それでいいんじゃないでしょうか」

 今勝手に動かれて、フジワラ家が断絶なんて事態になってしまっては目も当てられない。

 周囲からの圧を掛けられても変わらないようであればタマモの態度も変わるかも知れないので、それまではできる限り大きな騒動にならないように動くことに決めている。

 

 その後は細々としたことを打ち合わせてからツガル邸で一泊することにした。

 話をすることがあったということもあるのだけれど、あるものを待っていたということもある。

 そのあるものというのは、直弼が連絡を取ってくれた他の御家の内、こちらの行動に賛同してくれた家の当主が書いた委任状(のようなもの)だ。

 当然直弼にも用意してもらったその二つの委任状を使って、フジワラ家の当主と話をすることになる。

 

 その結果がどうなるのかは今のところ分からないけれど、少なくともフジワラ家の現当主である清定が何を考えているのかくらいは見抜きたい。

 それに合わせて眷属の諜報部隊を使って探りを入れてもらっているが、どういう結論になるのかは今のところ分かっていない。

 諜報部隊でもっとも苦手な分野が人の心を探る事なので、こればかりは仕方ないと諦めて直接対峙するのが一番の方法だと考えている。




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m(__)m

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