(8)呆れる一同
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是行がこちらを見ていたのは、時間にすれば数十秒もなかっただろうか。
その上で彼がどういう行動をするのかに注目していたのだけれど、結果とすれば無難な挨拶をしただけで終わった。
冒険者だからといって特にこちらを見下すわけでもなく、さりとてタマモの知人だからといって特別な扱いをするわけでもない。
想定されていた中では一番無難で、かつ一番厄介な対応だった。
これで愚か者と言われるように突っかかって来れば一番簡単に終わったのだけれど、残念ながらそうは問屋が卸さなかった。
そういう意味では是行はむしろやり手なのではないかと思わせる展開ではあったのだけれど、その後がよろしくなかった。
是行の興味は完全にタマモに向いていて、こちらを完全に無視し始めたのである。
これでこちらも盛り上げるように対応をしていればこちらの対応も変わったのだろうが、そのことが今後の対応を決める決定打となった。
いつまでもこちらに話しかけることのない是行に、ついにタマモが限界を迎えて話を打ち切って一度退出するように促した。
さすがにタマモに強く言われれば無視することはできないのか、是行は渋々といった様子で部屋を出て行く。
その際にチラリとこちらを見てきた視線は憎々し気だったように見えたが、一瞬のことだったので錯覚だったようにも思える。
とにかく是行が出て行った部屋の中では、一同が揃って盛大なため息を吐いていた。
「タマモ様が苦労なさっている理由がよくわかりましたわ」
そう真っ先に口火を切ったのがアイリだったことから、どれほどストレスをためていたのかが分かる。
昨日の緊張した様子は、今のアイリには全く見られなかった。
「そうであろう? こちらが止めなければいつまででも話し続けるからな、あれは」
「あ~、タマモ。アイリが言いたいことはそっちじゃないよ。多分。こちらを無視して話し続けていたことが問題だって言いたいんだよ」
「む? ああ、そっちか。あれにとっては当たり前のことだから、つい忘れておったな」
「あれが当たり前か。これは想像以上にひどいね。現当主は、よくあんなのを送り込んできているなあ」
俺が実感を込めてそう言うと、眷属たちも含めたこちらの関係者の全員が深く同意していた。
貴族が傲慢な態度を取ることはシーオでもよくある事だけれど、あそこまであからさまな態度を取る貴族は中々に珍しい。
一応こちらは大切な友人だとタマモ本人から紹介されているのにも関わらず、挨拶を除けばほとんど言葉を交わすことなくずっと自分の望む相手と話し続ける始末。
そんな人物がトップに立てば、耳障りの良いことだけをささやく者だけを傍に置くことになりかねない。
そうなってしまうと独裁国家まっしぐらだろう。
将軍位を置いている国家体制が独裁国家ではないのか、という突っ込みは横に置いておくとして。
「タマモ様の興味を引くためだとしても、あれはひどすぎますわ」
呆れを通り越して怒りさえ見え隠れしているアイリが、ため息交じりにそう呟いていた。
「アイリ。ちょっと質問なんだけれど、是行のことを直弼に知られたらどんなことになると思う?」
「それは勿論、各当主に働きかけて……」
俺の問いに答えようとしたアイリは、途中でハッとした様子になって顔を上げた。
「うん。まあ、その辺が落としどころじゃないかな」
「既にアイリに知られていることを利用して、フジワラ家の当主に釘を刺しに行くのね。上手く行くと思う?」
「さてね。当主が柳に風でまったく動こうとしないならそれはそれでいいんじゃない? 今度こそ直弼に知らせてたら、各家に働きかけるよね?」
「それは間違いなくそうするでしょう。これで次期将軍位の候補が一人減るわけですから」
是行がタマモに迷惑をかけている。その事実が知られれば、他の七家は待ってましたとばかりに追い落としにかかるだろう。
それだけヒノモトにおいてはタマモの存在感が大きいというわけだが、それでも候補の一人が減るだけのことに過ぎない。
候補が一人減ることになるフジワラ家はともかく、他の家にとってはヒノモトの今後の運営という点においても大した痛手にはならない。
今のところ次代の将軍位候補はそれなりの数がいるので、一人減ったところで問題にはならないのである。
「――そんな感じになりそうだけれど、タマモはどう?」
「フジワラ家自体が残るのであれば、我としてはなにも言うことはないな。そなたの好きにするといい」
「さすがにそこまではいかないよ。というか、他の六つの家も今更フジワラ家を潰そうなんてこと考えないんじゃないかな?」
「間違いありませんわ」
俺の推測を、すぐにアイリが肯定してくれた。
ヒノモトの土地を七つの御家が治めてその中から統治をする将軍を決めるという形態で、ここまでそれなりに上手く機能している。
七つの御家の内一つが無くなってしまえば、曲がりなりにも安定している統治が揺らいでしまいかねない。
一度安定が崩れてしまえばまた戦国の世に戻りかねないので、各家もフジワラ家自体をなくそうとする方向には動かないはずだ。
「それにしても少し疑問なのですけれど、フジワラ家の当主は何故動かないのでしょうか?」
アンネリがそんな疑問を口にすると、皆の視線がタマモへと集まった。
「さてな。我には人の心までは見通せないから分からないの」
そう答えたタマモの表情がわずかに沈んだように見えたため、それ以上を追及する質問は出てこなかった。
長年見守ってきた家の人間が、自分を良いように利用しようとしているこの状況は、タマモにとってかなり複雑な想いが沸いて来るのだろう。
それでもなお当主を追い落とそうとしないところを見る限り、どれほど強い想いを持っているのかと察することができるだけに下手に揶揄うこともできない。
もしかするとこれまでの長い間に幾度も経験してきたのかもしれないけれど、それはそれで寂しすぎる。
フジワラ家の現当主がどういう人物かは分からないが、できればタマモのその想いだけは届いて欲しいと思わざるを得ない。
「あんな人物を送り込んでおいて、タマモの不興を買うということを全く想像していないとは思えないけれど、どっちにしても厄介だね。そう考えると」
「どちらも……ああ、そういうことね」
俺の言いたいことが伝わったのか、一瞬首を傾げたアンネリがすぐに頷いていた。
「是行のあの性格がわかっていたとしても分かっていなかったとしても、どちらにしても厄介ということですわね。確かに言われてみればその通りですわ」
「こんなことをしてもタマモはフジワラ家から離れることはないと分かっているのか、それともどちらでもいいと考えているのか。その問題もあるからな」
「さすがにタマモ様との繋がりが切れていいと考えているとは思えませんが、今のところその可能性も考えざるを得ませんわ」
こう考えると色々な厄介ごとが出てくるが、是行と現当主の目的が全く一緒だとは限らないだけに色々と考えておく必要がある。
まさか他家の介入が全くないと考えているわけではないだろうが、あまりにも隙があり過ぎるようにも見える。
ただフジワラ家にどういう思惑があるにせよ、こちらはやるべきことを着実に実行していくだけだ。
この後は軽く話しだけしてタマモとは分かれた。
どうせ是行のところに行ってもまともな話は聞けないと分かっているのと、呼んでないのに何をしに来たといわれそうだったので別れの挨拶すらしていない。
結果の報告をするためにタマモとはまた会うことになっているので、今はやるべきことをやろうと行動に移るのであった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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