(7)藤原是行
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< Side:キラ >
タマモとの会食では、子供たちも参加して思ったよりも賑やかになった。
大人組の緊張も大分ほぐれていたようで、味を全く感じなかったという感想を聞くことがなかっただけでも進歩したといえるだろう。
ちなみに狐たちが用意した食事はちゃんと人族用のものになっていて、一流の料理人が用意したといわれても遜色がないものだった。
もっとも使われていた食材が魔物のものに偏っていたのは、ご愛嬌といえるかもしれない。
その分普通の人族が食べるのには難しい最高の食材が使われていたのは、タマモの眷属たちが容易にそれらの魔物を狩れるからだろう。
食材がいい分そこまで繊細な味付けはしなくても誤魔化せるとも言えなくもないけれど、そもそも流通が発達していないこの時代、この世界でそこまで要求するほうが間違っている。
そんなこの世界の食事情は良いとして、タマモ主催の食事会も無事に終わり、問題の次の日を迎えていた。
この日は、朝からタマモに『お願い』された問題の人物に会う必要がある。
とはいえタマモ曰く、俺自身はただその場にいるだけでいいそうで、何もしなくてもいいというのは楽だといえる。
もしかすると口を挟みたくなって黙っていることのほうが苦痛になるかも知れないけれども、そうなったらそうなったで無理に黙っておく必要もないと考えている。
タマモから聞いた話でその人物のイメージが悪い方向に固まってしまっているけれど、もしかすると想像よりも悪くはない……それはないか。
基本的に人好きなタマモがあそこまで嫌がる人物なので、よっぽどのことだということは考えなくとも分かる。
そんなことを考えながら色々と想像をしていたら、ついにその人物が来たという報告を一技が持ってきた。
聞いていた限りではかなり自由人、悪くいえば自分勝手な人物だと聞いていたのだが、きちんと約束の時間は守るようではあった。
一技に連れられて目的の部屋に入ると、そこではタマモだけが待っていた。
「あれ? タマモ一人?」
「うむ。奴は後から来るな。というか、まだ玄関まで来ていないぞ」
「参道を歩いているとかそんな感じか」
「そうだな。しかも大量の『お土産』を持ってな」
「うわ~。わかりやすい」
何が目的でそんなものを持ってきているのか考えなくても分かるだけに、げんなりとしてしまうのは隠せなかった。
これにはタマモは勿論のこと、話を聞いていたアンネリやアイリも同じような顔になっていたので、誰からも批判めいた言葉は来なかった。
脇に控えているクインや一技も同じような顔をしていたので、ここまで同じ空気を共有できたことは良かったことなのかもしれないとも思う。
タマモに会いにやってきた人物というのは、藤原
大量のお土産を持って何をしに来るのかといえば、ご機嫌伺い兼次代の将軍位をどうかよろしく――といったところだろうか。
どちらかといえば後者の方が目的だろうというのが、タマモの見立てになる。
わかりやすく自らの欲を隠さない人物であるけれど、別にこの時代では珍しいことではないどころか周囲には頑張っていると見られているところが厄介といえるところだろう。
ちなみに時代の将軍位を決めるのは七つの御家が推薦した人物から選ぶことになっているけれど、そこにタマモが口を挟むことは滅多にない。
この『滅多にない』というのが厄介で、これまでの長い歴史の中で何度か口を出したこともあるそうだ。
タマモは現在のヒノモトの基礎となる政治形態を作り出したといわれている中心的存在で、そのタマモが将軍位に口を出すという影響力は計り知れないものになる。
だからこそ是行は、日参……とまではいかないもののかなりの頻度でご機嫌伺いに来ているというわけだ。
タマモの立場で相手をするのが面倒なのであれば、最初から出入りを不可にしてしまえばいいと思わなくもないが、そうもいかない事情もある。
タマモとフジワラ家の関係は、現在のヒノモトができる以前からの関係――というよりもユグホウラができる前から続いている。
だからこそ、その直系である是行を排除すると色々なところに影響が出ることは目に見えて分かることだ。
一応タマモとしては、現当主を通して苦言を呈したこともあったそうだが、あまり効果は出ていないとのこと。
これにはフジワラ家から将軍を出したいという思惑も絡みあっているようで、フジワラ家との縁は切りたくないと考えているタマモは見事に板挟みに合っているといったところだろう。
俺からすればそんなところとはさっさと縁を切ってしまえばいい……と思わなくもないけれど、タマモの過去のことを知っているだけに口に出して言うことはしない。
タマモの抱えている『想い』を大事にしたいと考えているのは、当人だけではなく俺も同じだ。
タマモには軽口を叩いていたけれど、そのためならばいつでも自分が矢面に立っても問題ないとさえ考えている。
是行は、眷属の一人に案内されながら俺たちのいる部屋に入ってきた。
こちらに視線を向けて『誰だ』と一瞬だけ不快そうな表情になったものの、すぐにタマモに視線を向けて頭を下げた。
「タマモ様。お久しぶりでございます」
「ほんの半月ほど前にも来たと思うけれどねぇ。それで今回は何の用かの?」
「何の。某、タマモ様の御為であれば、日参することも厭いませぬ」
「こちらにも都合というものがあるからそれは止めてくれるかの。それで、要件は?」
あからさまに不機嫌といった様子になっているタマモだったが、是行はそれに気づいているのかいないのか、全く表情を変えずに話を続けている。
「タマモ様に会うためであれば、特別な要件などなくとも会いに来ますぞ」
「そなたもそうであろうが、我もそこまで暇ではないのだがのう」
タマモから遠回しな嫌味が飛んだこともどこ吹かず、是行は笑顔のままこちらへ視線を向けてきた。
「こうしてお会い出来るだけでも某は嬉しいですからな。――ところで、こちら方々は?」
「ああ。我の大切な友人の一人でな。久しぶりに友好を深めておったところだ。そちらの女子はそなたも会うたことがあると聞いておるぞ?」
「……はて? 覚えがございませぬが、どちらのお方でしょうか?」
「是行様。お久しぶりでございます。私は、ツガル家当主直弼が娘の愛莉でございます。話に聞いたところによれば、私がまだ小さかったころにツガルにまでお越しいただいたことがあるとか」
「あ、ああ。確かに某が若かった頃に、ツガルを訪ねたことはある……が、そうか。そなたがあの女子か。随分と大きくなったものよ」
遠い昔のことを思い出そうとしてる様子の是行だったが、本当に覚えているかどうかは怪しいところがある。
何しろ会ったことがあるといってもアイリが三歳になるかどうかの頃のことで、対面時間は十分にも満たなかったらしい。
アイリ自身も全くそのことは覚えておらず、両親から話を聞いて辛うじて覚えている程度だった。
何とも言えない微妙な空気が漂う中、是行の視線は俺から外れることはなかった。
恐らく是行も俺がタマモにとっての『大切な友人』であることに気付いているのだろう。
わざわざタマモが断言していることからぞんざいに扱うつもりはない……のかもしれないけれど、是行自身がどういう態度で接するべきか決めかねているといったところか。
しかもツガル家の直系の娘であるアイリを連れているということが、より事態を複雑にしている。
これから先、是行がどういう態度を取るかでこちらの対応も変わって来る。
出来ることなら罠に引っかかる獲物のように簡単に行ってくれればと考えているのは、是行を除いた皆の共通した考えだろう。
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※どこかで聞いたことのあるような名前が出て来るので、一応定番の「アレ」やっておきます。(今更感)
当作品は創作であり、実在の人物あるいは歴史上の人物とは一切の関係はございません。
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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