(6)言い訳する乙女
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< Side:アイリ(愛莉) >
初めて会った時から驚かされ続けておりますが、今日がその頂点になるのではないかという予感がしています。
誰に驚かされているかといえば、勿論キラ様のことですわ。
我が国であるヒノモトにおいて、タマモ様の存在は絶大であります。
たとえ七の御家であったとしてもタマモ様を前にすれば頭を下げるべきであり、そもそもそうそう簡単に会えるような相手ではありません。
それにもかかわらずキラ様は、お友達同士と言った様子で気楽に話しかけておりますわ。
私などは、今にも倒れそうなくらいになっているというのに……その理由にキラ様の態度も含まれていることは気付いているのでしょうか。
いえ。そもそもお二人の関係性を考えれば、これくらいは当然だといえるということは十分に理解しておりますわ。
キラ様が元世界樹の精霊だと考えれば、むしろタマモ様のほうが気安く接しているといえるのかもしれません。
ですが今を生きる私たちにとって世界樹の精霊はあまりに遠い存在であり、やはりタマモ様に対してという思いが先に立つのは致しかたないこと。
しかも今のキラ様は一冒険者でしかないといわれてもおかしくはない立場なので、私が倒れそうになるのは間違っていないはずですわ!
そんなことを内心で言い訳しても、タマモ様の前で醜態をさらしたのは紛れもない事実。
しかもご当人に心配までさせてしまって、言い訳のしようもありません。
それにしてもキラ様。早く慣れるしかないって、随分と突き放された物言いをされますわね。
確かにそれしか言いようがないことも理解しておりますが、それにしてももう少し言い方というものが……ないですか。確かにそうですわね。
――緊張を強いられるお食事は、どうにか無事に乗り切ることができましたわ。
キラ様は相変わらず気楽に接していましたが、あの光景をお父様が見れば顔を青くして食事も喉を通らなかったに違いありませんわ。
一応味を楽しめるくらいに緊張しなかった私を褒めてほしいくらいですわ。
……さすがに言葉を交わすことはできませんでしたが。
それにしても――と、ふとお二人の会話している様子を思い出しながらふとある疑問が思い浮かんでしました。
周りを見れば、私と同じように疲れた様子を見せているアンネリがベッドの上で休む態勢に入っており、並んで置かれたベッドの間にはクイン様がいつものように護衛をしてくださっております。
同じ部屋に女性しかいないこの状況に、チャンスではないかとクイン様にその疑問を投げかけることにしました。
「クイン様。何故タマモ様に対しては、何もおっしゃらないのでしょうか?」
その問いは、色々なものを飛ばしてのものでしたが、クイン様はその意図を理解してすぐに答えが返ってきましたわ。
「簡単な話です。タマモ様が主様に対して思いを募らせることなどあり得ないからです」
「それは、どういうことでしょうか?」
横で話を聞いていたアンネリも気になっていたのか、私よりも先にそう問いかけておりました。
「アンネリは知らないでしょうね。ですが、アイリは聞いたことがあるのではありませんか? タマモ様の『枝の子』はある人族との間に生まれた子であると」
「それは確かに聞いたことがありますが、ただの伝承の類かと思っておりましたわ。もしくは、あの……」
「構いません。『枝の子は世界樹の精霊との間に出来た子ではないか』という噂は、私も聞いたことがあります。聞いた時には笑ってしまいましたが」
「ということは、伝承のほうが正しいのでしょうか?」
アンネリの問いに、クイン様ははっきりと頷かれました。
その話だけでもヒノモトの多くの人たちにとっては驚愕の真実だったりするのですが、シーオ出身であるアンネリにはそこまで響いてはいないようでしたわ。
こういうところで地域差というものを感じたりするのですが、アンネリはあまり気にされていない様子です。
思えばタマモ様に対しての耐性も、アンネリの方が早くできていたようですわ。
これではいけませんね。世界樹の巫女として、もっと修行を積まなくてはなりません。
私がそんなことを考えていた間も、クイン様のお話は続いていました。
「――タマモ様のあの思いは、私にとっても尊敬に値するものです。キラ様と違って、戻って来るかも分からない者を長い間思い続けておるのですから」
「それは……私には想像もできませんね」
「そこまで難しく考える必要はありませんよ。人族には人族の生きる時というものがあるのですから。その中でどう思い続けるか、ということではありませんか?」
こう言っては失礼に当たるのかもしれませんが、こういう時にこそクイン様を始めとして世界樹の眷属の皆さまは長い時を生きてこられたのだと感じますわね。
今のように何気ない一言であるはずなのに、その言葉には時に真実が宿っているのではないかと感じることがあります。
そんなことを考えたせいなのか、また別の疑問が思い浮かんできたので話のついでに伺ってみることにします。
「ではタマモ様は良いとして、一技様には厳しく当たられていたようですが?」
私がそう言った瞬間、クイン様が厳しい表情になりました。
「あれは駄目です。あれは主様を惑わす類の者です」
「クイン。ちょっと怖いですよ」
「アンネリ。それからアイリも。油断してはなりませんよ。あれらは放っておくと、主様を惑わして横からかっさらっていくつもりで常に行動しています」
「ええと。こういっては何ですが、私たちとさほど違いがないように思えるのですが?」
「あなたたちは完全に奪うのではなく、共有しようという努力をされているではありませんか。それなら良いのです」
あっさりとそう仰ったクイン様を見て、やはり
共有することは構わないが、仲間内だけでの独占は許さないということですか。
特に施政者にとっては一夫多妻が普通の世界ではありますが、やはり人族は独占したいと思ってしまうもの。
それを全く感じさせないクイン様は、やはり人族とは違う生き物ということなのでしょうか。普段は全くそんなことは感じませんが。
――それにしてもクイン様もアンネリも、何故私が……その、キラ様に思いを募らせているという前提で話をされているのでしょうか。
確かにお父様からはそういう関係になってもいい――というよりもむしろ推奨するとまで言われておりますが、今のところそんなつもりはない……ですわ。
一応お二人にはそう言ってみたものの、返ってきたのは生暖かい二対の視線だけでした。
「アイリ。もう諦めましょう?」
アンネリ、諦めましょうって何ですかっ!?
「こういう女性のことを箱入り娘というのでしょうか?」
「クイン様。それは少し違いと思いますよ」
クイン様、私は別に箱(部屋)詰めにされて育てられてきたわけでは……あれ? 巫女の修行を始める前は、そう言われても仕方なかった状態だったような……。
と、とにかく!
私が鈍いとか、諦めるとか、そんなことはないのですわ! ……恐らく、きっと。
そう主張してみたものの、返ってきたのはやはり先ほどと同じような視線でした。
これ以上この二人に話しても埒が空きませんので、明日にでも子供たちのところに行っているヘリに相談してみましょう。
……ヘリから返って来る視線がこの二人と同じようになるのではないかという予感がそこはかとなくするのですが、きっと気のせいのはずですわ!
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タマモとキラの関係について、第三者(愛莉)からの視点を書きたかったのですが……。
乙女の(心の)暴走には勝てませんでした。
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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