(5)放置される三人

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 タマモが住んでいる屋敷は結構な山奥にあるので、あまり長時間過ごしていると帰るタイミングを逃してしまう。

 それを気にして案内を続けるタマモに言ったのだけれど、すぐに「ん? 泊まって行けばよかろう?」という答えが返って来てしまった。

 それはそれで嬉しいのでいいのだが、少し委縮してしまっているアンネリやアイリが気の毒だと思わなくもない。

 ちなみに子供たちは、体の小さい狐に囲まれてご機嫌だったりする。

 当然のようにタマモの眷属なので中身はとんでもない実力を持っていたりするのだけれど、子供たちは気付いているのかいないのか、全く気にする様子もなく一緒に歩を進めている。

 トムの顔が微妙に引きつっていたのは最初の内だけで、あとは一緒になって楽しんでいるので大丈夫なのだろう。

 アンネリやアイリ、そしてハロルドについては……この機会に慣れてもらうしかない。

 こうして一度会ってしまえば今後も来るように言われるのはわかっているので、来るたびに一々委縮しているようでは今後のためにもならない。

 

 スパルタという言葉が思い浮かんだがそれを振り払って、タマモの案内されるままに一つの応接室のような部屋に入った。

 その第一印象は当たっていたらしく、普段は上客を迎える際に使っている部屋らしい。

「――上客って、タマモが気を遣うような相手っているの?」

「何を言っておる。今も目の前に二人ほどいるじゃないか」

 そう言いながら向けた視線の先には、ラックとクインが普段通りの表情のまま立っていた。

「……なるほど。けれどそんな頻繁に来ているわけじゃないよね?」

「それはそうだが、そんなことを言いだしたらそもそもここには客などほとんど来ないぞ?」

 それじゃあ、応接室なんか要らないじゃないか――とはいえない。

 まさに来るかどうか分からないような相手のために用意しておくことも、タマモのような立場になると必要になって来るためだ。

 

「――それはいいのだが、そっちの三人はいいのか? 今にも倒れそうな顔をしているが?」

「うん。その原因になっている人が言うようなことじゃないよね?」

 タマモが指摘した三人は、大人組のことだ。

 子供たち、は難しい話になるだろうと別部屋で狐たちと遊んでいるはずだ。

「む? そうは言ってもな。特に威圧とかはしておらんぞ?」

「この五百年、タマモが頑張ったせいかだから仕方ないね。三人については物理的にどうかなっているわけじゃないから、このままで大丈夫だよ」

「そうか? お主がいいのなら、それでいいのだがな」

 小首を傾げていたタマモだったが、やがて納得したのか小さく頷いていた。

 ちなみに三人(主にアンネリ)がそんなーという顔をしていることに気付いていたけれど、こちらはやっぱり今後のためにも慣れてもらうしかない。

 

 そんな感じで昔話を交えつつ会話を続けていると、さすがにこの状況に三人も慣れてきたのか普段通りの表情になってきた。

 その様子に気付いていたであろうタマモが、このタイミングで少し困ったような顔になってこう切り出した。

「――なあ。キラ。少しお願い事があるんだが……」

「断る……!」

「早いな!」

「いや、だって。タマモからのお願いって、絶対面倒事じゃないか」

「それは認める。だがキラが入ってくれたほうが、手っ取り早くて助かるんだがな」

「うわ。手っ取り早いって認めちゃったよ。――けれどまあ、タマモに貸しを作っておくの面白そうだからとりあえず話だけは聞いておこうかな」

「うむ。……少し相談したことを後悔しそうだな。だがまあ、こちらから切りだした以上はここで止めるという選択肢はないかの」


 タマモは、そう前置きをしてから『相談事』について話し始めた。

 タマモがその話を進めるごとにアイリが表情を抑えることに苦労している様子が見て取れたが、そこまで無理して隠さなくてもいいのにと思わなくもない。

 とはいえ現在のヒノモトにおいてタマモの存在はシーオにおける守護獣以上の存在ともいえるので、気を損ねるととんでもないことになりかねないという『恐れ』もあるのだろう。

 そういう意味ではちょっと可哀そうなことをしているかなと思うのだけれど、今後も一緒に着いて来ることを考えるとやっぱり慣れてもらうしかない。

 

「――――というわけだ。そなたであれば、ちょちょいとどうにかしてくれるであろう?」

「簡単に言ってくれるねえ。今の俺は、所詮は一冒険者でしかないんだけれどね」

「それでいい。というよりも、むしろそのほうがいいであろう?」

「うわ。策士だなあ」

「うむ。そなたに言われたくはないな」


 わざとらしく悪い顔になって突っ込んでみたが、タマモからはカウンターが返ってきた。

 大人組三人は、タマモが俺に向かって『策士』だと断じたことにどういうことかと『?』マークを頭上に浮かべていたけれど、詳しく説明する気はない。

 数十年という単位でユグホウラという巨大な組織を動かしていたのだから、色々なことを考えないとやっていけなかったと心の中でだけで言い訳をしておくだけに留めておく。

 

「――とりあえず話はわかったよ。来るのは明日なんだよね?」

「そうだな。さすがに予定より遅れて来るなんてことはないと思うが……ないよな?」

「いや。それは俺には分からないし。しかし、タマモにそこまで言わせるってすごい人だよね。出来れば近づきたくないなあ……」

「そこは諦めてくれ。そなたのような者が近くにいてくれるだけで、随分とやりやすくなるからな」

「まあ、いいけれどね。だからわざわざ今日は泊まって行くようにと勧めたわけか」

「それもある。だが、やはり友とは出来る限り長く話をしていたいだろう?」

「そう言われると断れるに断れなくなるね。わかったよ。とりあえず明日までいるとして、少し休んでいいかな?」

「そうだな。キラはともかくとして、そちらの三人はゆっくり休んでもらったほうがいいだろう」


 タマモのような立場になれば尊大になっていてもおかしくはないのだけれど、意外にも(?)細かいところに気が付く性格で最後の最後まで三人のことを気にしていた。

 それに夜食までは時間があるので、それまでに話をしておいて彼らを落ち着かせるようにという無言の圧力もある。

 こればっかりは当人たちに慣れてもらうしかないのでどうしようもないと思うのだけれど、間を開けたほうがいいのは確かだろう。

 

 タマモも納得したところで話を終えた俺たちは、それぞれ用意された部屋に向かった。

 その後、すぐに一度みんなで集まって話をした。

 内容としてはこちらが皆をなだめるだけになってしまったけれど、その甲斐あってかどうにか三人とも落ち着くことができたようだった。

 ちなみに最後の最後まで恨みがましい視線を向けて来ていたのは、当然というべきかアイリだった。

 もしこれがシーオでの出来事であれば、アンネリやハロルドも同じようなことになっていたことはわかっているので、二人ともアイリに同調していた。

 うん。まあ、精神的に疲れただけのはずなので、今はこちらに当たることで落ち着くのであればそれでも構わない。

 

 とはいえこの後には会食が待っているので、折角落ち着き始めた精神が再び緊張を強いられることになる。

 とはいえ食事が喉を通らないというほどにはなっていないようなので、それには安心した。

 やっぱり人は一度慣れてしまうと、その後はどうにか対応できるだけの耐性はできるという考えは間違っていなかったようである。

 ちなみにその会食においては、さすがの育ちを発揮したお陰か、揃って無作法な真似をすることなく見事な作法を見せることができていた。




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m(__)m

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