(3)稲荷神社(本社)

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 ムサシの地にある港町について上陸してからは、元の世界の日本でいうところの鶴岡八幡宮がある場所へと向かった。

 こちらの世界では豪族という考え方が根付いていて元の世界ほど武士という階級が大きくなっているわけではないが、豪族がそのまま戦を行う武士としての形式は出来上がっている。

 ただしそこまで武士の力が大きいというわけではないので、鶴岡八幡宮という神社は当然ながら作られていない。

 ここで面白いのが武士の「武士の起点」としての神社は興っていないいないけれど、稲荷神社の総本山としての神社は建っている。

 それもこれもムサシの地に深く根付いているタマモが生活している場所が、ほど近い場所にあるためだ。

 タマモの生活圏はそのまま人の立ち入りが厳しく制限されていて一般の者は近づけないため、神社が作られたというわけだ。

 一周目だったときにはできていなかったのだけれど、世界樹の精霊が消えてタマモが表に出て来るようになってから人々への信仰が増えたそうだ。

 ムサシの地においてはユグホウラへの信仰以上にタマモへの信仰が強いことが、強い特徴といえるだろう。

 

 タマモへの信仰が強いだけに、あまり旅行という概念がないこちらの世界でも稲荷神社への参拝者は絶えず訪れている。

 そんな参拝者たちの目が禁足地への侵入を防いでいるともいえるので、だれかれ構わずタマモの元へ向かうことはできなくなっている。

 眷属や俺だけであればそれらの目をかいくぐって(主に眷属の力を借りて)タマモの下に向かうことも可能だけれど、それだとこの旅の意味がなくなるので選択肢としては最初から排除されている。

 それならばどうやってタマモの下まで行くのかといえば、今回はある意味で真っ当な手段を取ることにした。

 

 その真っ当な手段が何かといえば、ごく普通にユグホウラとツガル家からの推薦を貰って神社の関係者に通してもらったのだ。

 ユグホウラとツガル家の両方から推薦を貰えること自体が普通ではないのだけれど、そこはそれ。

 ここで出し惜しみをしても仕方ないので、しっかりと利用させてもらうことにした。

 その目論見は見事に上手く行き――というよりも少し行き過ぎたせいか、二つの押印が入った書状を見た神職たちはかなり驚く結果となっていた。

 

「――それにしても驚きすぎな気もするけれどね」

 神社の関係者しか通れない道を通ってタマモの生活圏に入った俺がそう言うと、同行者の中で一番事情に詳しいアイリがため息混じりに答えをくれた。

「普通、御家の押印を持った者がこのような少人数で動くことはありませんわ。それに加えてユグホウラの印まであるのですから、むしろあちらの対応の方が普通ですわ」

「そんなもんかね」

 いまいち実感が沸いてこなかったが、これは一周目の時に世界樹の精霊として各地を動き回っていたせいかもしれない。

 現にアイリと同じような立場にあるアンネリも、同意するような表情になっていた。

「御家というのは、下手をすれば公爵以上の力を持っているのよね? それならあの反応も納得できるわね」

「あ~。はいはい。ごめんなさいね。間違っているのは俺でしたね」

 二人から責められて少しやさぐれたように言ったけれども、これは九割がた冗談で言っている。

 

 俺が冗談で言っていることは理解しているのか、特に悪びれる様子もなく二人とも顔を見合わせてから少しだけ笑っていた。

「それにしても、タマモ様のご領域はこのようになっていたのですね」

「さすがのアイリもここに入るのは初めて?」

「当たり前ですわ。恩家の娘ということもそうですが、世界樹の巫女だとしても簡単に入れるような場所ではありません。基本的にここに入れるのは、タマモ様に招かれた者だけですわ」

「なるほどね。そうなってくると基本以外で入れるような事態がどういう事態なのか、逆に気になって来るな」

「そうですわね。一つはユグホウラからの使いだと分かる場合で、もう一つはヒノモトが荒れそうになった時……と聞いておりますわ。それ以上のことは詳しくわかりません」

「ユグホウラはともかくとして、後者はよくわからないね。ヒノモトの危機だ~、とかいって訪ねて来る人なんてたくさんいそうだけれど」

「確かに昔はいたそうですわね。ただし、そんな輩はタマモ様の配下に『処理』された――と伝わっておりますわ」

 その『処理』を行うのが誰か、心当たりがあり過ぎるだけに思わず納得の表情になってしまった。

 

 そんなことを考えていた俺の顔を見て何かに気付いたのか、アンネリが探るような視線を向けてきた。

「何か心当たりがありそうな顔をしているわね」

「まあね。というか、そもそもタマモとユグホウラが関係性があることは昔から知られていたはず。当然両者で情報のやり取りをしているわけだから、国内の状況が分からないはずがないんだよね」

「そんな相手に、自分の言葉一つで騙せると考えて近づくわけか。なるほど確かに簡単に処理されてもおかしくはないわね。あっちでも似たような事例は沢山あったみたいだからね」

「そう。やはりシーオでも同じようなことは起こっていたのね」

「人族のやる事だもの。……こう言うと残念に聞こえるけれど」

「ヒューマンだ、エルフだと言ってもやることが似通って来るのは何故なんだろうね」

「……止めましょう。そんなことを考えても答えは出ないわよ」

 思わず出てしまった言葉に、アンネリはきっぱりとそう言いきってしまった。

 

 この世界にはヒューマン以外の種族は沢山いるわけだが、政治ということになるとやっていることはほとんど変わらない。

 むしろ人族が固まって何かをしようとすると、何かの争いは必ず起こる。

 この世界を争いの全くない世界に――なんてことを考えるつもりもないけれど、少しうんざりしてくることも確かだ。

 とはいっても、念仏を唱えるようにただただ「世の中に平和を!」と言い続けても意味がないというのが、俺自身の考えでもある。

 

 そもそもこの世界は魔物が出てきて人族は常に脅威にさらされているので、武力がない世界をなんてことを考えること自体が意味がないともいえる。

「今こんなところで、答えが出ない議論をしても意味がないのは同感。そもそもこれから行こうとしているところ自体、力の権化が体現しているようなところだしね」

「――あら。そういう意味ではあなたも同じでしょう? むしろ母を超えているのではありませんか」

 俺の言葉に誰よりも返してきた女性の声は、アンネリやアイリのものではなく、ましてや眷属のものでもなかった。

 

 突然現れた新しい声に、全員の視線が声が聞こえた方に集まった。

 そしてその視線の先に一人の妖艶な美女が立っているのが見えて、俺を除いた人族組全員が警戒態勢を取った。

 そんな動きを抑えるように前に出た俺は、少し懐かしい気分になって突然現れた美女に話しかけた。


「あまり驚かせないでくれないかな、一技」

「あら、ごめんなさいね。でも、あなた方はそこまで驚いていないでしょう?」

「それはまあ何回も同じことをされて、鍛えられているからだと思うよ」

「それはごめんなさいね。次からは別のパターンも考えないといけないかしら」

「いや。いらないから。それよりも君が来たってことは、案内してくれるってことでいいかな?」

「ええ。母も早く会えないかと楽しみにしていますよ。どれくらいあなたが変わったのかと」

「あ~。それはあまり期待に応えられる気がしないなあ……」

「確かに見た感じはあまり変わっているようには見えませんね。戦闘能力はともかくとして」


 一技がそう言うと、周りにいた眷属からの圧力が若干増した。

 一技もそのことに気付いていないはずがないが、ただ笑って「こっちよ」とだけ言って背中を見せて歩き始めた。

 こんなことで眷属たちが攻撃するはずもないと分かっていて、これも長い付き合いがあるからこその行動なのだろう。




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m(__)m

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