(2)成長
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ユグホウラが所有する帆船はこの世界では最高峰の速さで進むことができるが、さすがに現代世界の船ほどに早く進めるわけではない。
予定としては、青森から三崎にある港まで三日ほどかけて行くことになっている。
風を起こすなどの魔法を使ったりすればもっと早く進むこともできるそうだが、そこは敢えてゆっくり進むことを選択した。
今後船で長旅を繰り返すこともあるはずなので、今のうちに長い洋上の旅に慣れてしまおうという考えだ。
長い船旅に慣れてしまえば、一度に大量の物資を運ぶこともできるので何かと便利になるという思惑もある。
もっとも船を使うほどの大量な物資を運ぶ機会があるかは分からないので、船旅をすることの言い訳の一つになってしまっているのだが。
一言で言ってしまえば、俺自身が船旅が好きなのでできる限り船での移動をしたいというのが一番だったりする。
魔法で拡張してあるとはいえ馬車の限られた空間でずっと過ごしているよりも、大きな船である程度自由に移動しているほうが好みということもある。
そんなわけで船で移動中。
船に乗って一晩明けた昼前に、甲板で海を眺めていたらパタパタとオトが駆け寄ってきた。
「オト。船の上で走るのは危ないからやめなさい」
一応転落防止柵のようなものはついているけれど、揺れは現代の船ほどにはなっていない。
何かの拍子に高い波に乗った時に投げ出される可能性もあるので、不用意な行動をすると海に投げ出される可能性は常にある。
「ご、ごめんなさい! うれしくて、つい」
「何かあったの?」
「やっとできたんです! 教えてくれていた魔法が」
「おっと。そういうことか。それじゃあ、見せてもらおうか」
オトのテンションが上がっている理由が分かって、思わず笑みがこぼれ出てしまった。
今のオトは魔力操作の訓練をしながら新しい魔法を使えるようにチャレンジしていたのだけれど、その魔法が使えるようになったらしい。
緑の魔力を見ることができるオトに教えている魔法は、当然のように緑の魔力を扱う特殊な魔法になる。
緑の魔力を扱うのがドルイドだけではないことはアイリのような世界樹の巫女の存在で分かっているので、オトがドルイドになるかどうかは今のところはわかっていない。
オトに連れられて、子供たちが泊っている船室に入った。
ちなみに船室は一人で一室使えるくらいの余裕はあるのだけれど、オトとクファは敢えて揃って泊まっている。
もともと兄弟のように仲が良いということもあるのだろうけれど、何かあったら不安らしい。
そういう意味では大人の誰かが一緒にいるのが正しいと思うのだが、それはそれでちょっとと拒否されている。
そんな二人の船室に入ってオトが向かったのは、床の上に置かれた土の入った鉢植えだった。
その鉢植えの中で、何かの植物の芽がぴょこんと飛び出していた。
つい先日までは芽は出ていなかったのが今は芽が出ているということは、オトの魔法が上手く行ったことをきちんと示している。
そう。その芽は植えた種が自然に生えてきたわけではなく、オトが魔法で生やした芽ということになる。
「――うん。ちゃんと緑の魔力の影響が残っているね。オトがきちんと魔法を使って生やすことができたみたいだ」
「うん! だって、芽がニョキニョキって出てきたもん!」
どうやらオト自身は、自分が使った魔法によって芽が出て来るところをきちんと観察していたようだ。
「そうか。それじゃあ、もう一回できるかな?」
「も、もう一回……!? が、頑張ってみる!」
「オト、頑張って! 絶対出来るから!」
緊張気味に気合を入れるオトに対して、横から様子を伺っていたクファからの激が飛んでいた。
その声に押されるように、オトは集中するように一度目を瞑ってから目を開けて、真っすぐに鉢植えを見つめた。
そしてその鉢植えに向かって右手を伸ばすと、体の中で魔力を練り上げて植物魔法を放った。
結果、オトが使った魔法はおかしなことが起こることもなく、先ほどからあった芽とは別の位置に新しい芽が生えてきていた。
「うん。おめでとう。ちゃんと成功したね。繰り返しできるようになっているみたいだし、文句なしだね」
きちんと成功したことが嬉しかったのか、こちらを見て来るオトの頭を軽く撫でてあげた。
それが嬉しかったのか、オトの頬が上気してわずかに赤くなっていた。
鉢植えに植えた種を使って目を生やせるようになったということは、次の段階に進めるということを意味している。
この調子で進めて行けば、いずれオトも枝根動可の魔法を使えるようになるはずだ。
目標としては種がない状態で芽や根を生やせるようにすることになるが、さすがに今はまだ媒介なしに使えるようになるのは難しいだろう。
とにかくこれが緑の魔法を使えるようになるための第一歩であることには違いないので、今はそれを喜ぶのはただしい。
そしてオトと一緒になって喜んでいるクファは、アイリという明確な目標ができたお陰か、これまで以上に修行に励んでいる。
その甲斐もあってかぐんぐん実力を伸ばしていたので、この時点でオトも明確な成長が見ることができたのはホッと一安心といったところだ。
同年代の子供は、自分が置いて行かれたと感じると急激にやる気をなくす場合もあるので、少し心配していた。
勿論その逆のパターンもあるので、オトがどうなるのかは分からなかったのだが。
オトとクファが喜んでいる声が船室の外にまで漏れていたのか、大人組の三人とトムも部屋に入ってきた。
そして状況を理解したのか、それぞれ一緒になって喜んでいる。
勿論、子供たちほど感情を表に出して喜んでいるわけではなく、どちらかといえば見守っているというのが正しいのかもしれない。
とにかくオトもしっかりと成長してきているので、これからもきちんと出来る限り導いていくつもりだ。
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子供たちが成長を見せる中で、大人たちもただ船に揺られていたわけではない。
船酔いの問題があるので長時間同じような作業をし続けることはできていないが、そんな中でも各自やりたいことをやって過ごしていた。
そんな中でも一日一度は必ず集まって、話し合いの場を持つようにしていた。
「お父様から藤原家への書簡を預かっているようですが、ムサシに着いたらすぐに向かわれるのですか?」
「いや。その前に行くところがあるからそっちに寄るよ。直弼さんには後回しにしていいって許可を貰っているからね」
「ムサシの地に行くのに、当主を後回しにする用事ですか」
「そんなに難しく考える必要はないよ。一応ユグホウラの関係者としては、先にタマモに会っておく必要があるってだけだからね」
「……私にはタマモ様の名を気楽に呼べることのほうが信じられませんわ」
「あはは。昔からの付き合いだからね。人の身になって何だと怒られたら、その時はまた変えるよ。――タマモの性格だと何故変えたと逆に怒られそうだから元のままにしてあるだけだし」
意外に寂しがりやなところがあるので、タマモは距離を置くような態度を取ればすねるという確信がある。
何気にユグホウラの眷属を除けば一番付き合いが長かったので、ラックたちと同じように精霊だった時と同じ魔力だとすぐに気づいてくれるだろうとも。
タマモがいる場所については眷属たちが知っているので、迷うことなく着けるだろう。
会うのは久しぶりになるので楽しみなのだけれど、向こうもそう思ってくれると嬉しいなと船に揺られながらそんなことを考えていた。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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