第9章

(1)次に向けて

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 世界樹の進化の手助けをしている間、ムツ残留組は特におかしなこともなく平穏無事に過ごしていたようだった。

 予想外に日程が延びてしまったけれど、きちんと連絡はしていたので慌てるようなこともなくそれぞれがしっかりと自分のすべきことをしていたようだ。

 少し驚いたのは、ハロルドが主導して通常フィールドでの採取依頼などをこなしていたことだろうか。

 ハロルド曰く、「子供たちは座学だけだと飽きるので、比較的危険の少ないフィールドに行ってきました」ということらしい。

 その考え方は非常に同意できるので、よくやってくれたとだけ返しておいた。

 ハロルド自身も冒険者としての調子を上げてきていることもあり、自身の力を試してみたかったのだろう。

 ハロルドは以前から無意識のうちに魔力による身体強化ができていたのだけれど、それを意識的に出来るように指導したところ加齢による衰えを補うように身体強化を使うようになっていた。

 その結果、全盛期に近いくらいの動きができるようになってきたようだ。

 

 半月という少し長い期間空けてしまったけれど、それぞれに成長があったようなので嬉しくなってしまった。

 その勢いでダンジョンの探索を――と思ったのだけれど、少し浮ついている気がしたのでギルドで依頼を受けて子供たちが行ったように久しぶりに採取依頼を受けてみることにした。

 もっとも選んだ依頼は、近場で弱い魔物しか出てこないようなものではなく、少し危険な地域で採取できるものを選んだ。

 そして、その結果――。

 

「――参ったな。ここまで変わっているとは思わなかった」

「何をやっていたのかは分からないけれど、変わり過ぎじゃないかしら?」

 アンネリが少し笑いを含んだような顔でそう言ってきたのは、枝根動可の魔法を使って魔物を拘束しようとした結果ズタズタになったを見ているからだろう。

 幸いにして魔石は残っているからいいようなものの、下手をすればそれすらも裂かれていたかも知れなかった。

 明らかに世界樹の進化を手伝った影響が自分自身の魔法にも出ているようで、結果から見れば引いてしまうくらいに威力が上がっている。

「これでも抑えたつもりだったんだけれどね。思っていた以上に変わってて、びっくりした」

「何が変わればここまで一気に変わるのでしょうか?」

「今更気付いたのかと言われそうだけれど、体の中の魔力の通りが今まで以上になっているね。ドロドロの泥水だったのが清水になっているくらいに」

 少し大げさに言ってみたけれど、実際感覚としてはそれくらい違うといわれても違和感がないくらいに体内の魔力の流れが変わっている。

「泥水から清水って、変わり過ぎよ」

「私もそう思いますわ。どうすればそんなに変われるのか、ぜひご教授板だ行きたいくらいです」

「あ~。教えられるなら教えたいところだけれど、たぶん他の人が同じ方法を取るのは難しい……というか、俺も好きなタイミングで同じことは出来ないかな」

 俺の答えを聞いたハロルドを含めた大人組は、残念そうな表情になった。

 ちなみに子供組は、魔石の回収をしつつ素直に凄いと喜んで(はしゃいで?)いる。

 

 世界樹の進化の手伝いによる思わぬ副産物だったけれど、喜んでばかりはいられない。

 毎度毎度同じような結果になると必要な素材さえ得られなくなってしまうので、きちんと加減ができるようになっておかないといけない。

 結果論ではあるけれど、俺たちにとっては弱い魔物しか出てこない地域での採取依頼を受けておいて良かった。

 結局この日は魔法の威力を調整するための訓練で終わってしまったけれど、俺以外も各々の課題を見つけて採取なり討伐をしていたので結果的にいい結果で終わった。

 

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 ムツではそこからさらに十日ほど滞在して、ギルドの依頼を受けたりダンジョンに潜ったりした。

 ダンジョンの探索は一度だけ長期探索を行ったが、それ以外は日帰りだけで済ませている。

 ダンジョンに潜る目的は中で見つかる歪みの調査でもあるので、そこまで深く潜る必要はなかったのだ。

 ダンジョンでの歪みの調査に関しては他のプレイヤーも積極的に行っているようなので、俺はユグホウラが広い土地を有しているのでそちらの観察に重点を置くことにしていた。

 それでもダンジョンに全く潜らないというわけにはいかないので、他プレイヤーの世界と違いがないかを確認するくらいで済ませているというわけだ。

 

「――そうですか。もう発たれますか」

「ええ。ここでやるべきことは終わらせましたので。これっきりということはないと思いますので、ご安心ください」

「ハハハッ。これは失礼しました。顔に出てしまいましたか」

離れがたいというのは理解できますから、謝らなくてもいいですよ」

 そんなことを言いながらアイリに視線を向けると、当人は居心地が悪そうに立っていた。

 会話の相手である直弼は、年単位で巫女修行をしているアイリと離れて暮らしているのだけれど、やはり寂しいと思うようだった。

 

 この会話からも分かるとおりに、アイリは既にこちらの旅に同行することを決めている。

 こちらとしても歪みを見つけられる存在は貴重なのでありがたいことなのでいいのだけれど、出会った当初は渋っていたことから考えると大きな変化ともいえる。

 オトもそうだが特にクファにとっては巫女として先達が身近にいるというのは得難いことなので、アイリの同行を拒否するつもりは最初からなかった。

 今のところはヒノモトを旅する間はという条件が付いているけれど、やろうと思えばいつでも転移装置を使って移動できるのであまり意味のない条件だとも思っている。

 

 しばらく直弼とは会っていなかったのだけれど、こうして会いに来たのは翌日にはムツを発ってムサシ(関東)に向かうことを決めたからである。

 ヒノモトでは並ぶ家がないといわれるほどの大家である御家のうちの一つであるツガル家の当主だが、付き合ってみれば気持ちのいい御仁であることはわかった。

 これだけでもムツに来たかいはあったというべきだろう。

 他の六つの御家がどういう気風を持って治めているかはあまり詳しくは聞いていないけれど、直弼を見て少し楽しみになっている自分がいる。

 

 今回直弼を訪ねて来たのは本当にしばしの別れの挨拶のためだけだったので、一時間もかけずに別れることになった。

 直弼も当主であるので、忙しいのは間違いない。

 こちらも旅の準備は既に終えているけれど、慌しいのは間違いないのでそこまで長いができなかったという事情もある。

 もっとも一番長くいたいはずのアイリが終始居心地悪そうにしていたということも、早めに引き上げる理由の一つになったのだが。

 

 それはともかくとして、次の目的地はムサシの地になる。

 当初は陸路で向かうつもりだったのだけれど、巫女の修行場でより詳細な歪みの発生状況を知ることができたので、今回は海路で向かうことにした。

 太平洋という外洋に出て旅をすることになるので船がより揺れることも考えられるのだけれど、前のことを考えると恐らく大丈夫だと判断してのことだ。

 陸路を進むよりははるかに早く向かうことができるのも、この時代に船を使うことの大きすぎるメリットともいえる。

 

 余談ではあるが、月に一度は顔を見せると約束していたクランには既に顔を出していた。

 こちらは特に大きな変化はなく、今はまだクランの名前を使っての活動をしたりダンジョンに潜ったりと地道に活動をしていた。

 クランの名を上げるかどうかは完全にあの二人に任せているので、その辺りは好きに運営してもらって構わない。

 事務要員として送っている眷属からも定期的に連絡は来ているので、クランに関しては特に大きな問題も起こらないだろう。




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m(__)m

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