(20)色々な結果

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 世界樹の中で進化の手伝いをしている間は、貯まった魔力の塊をほぐしたり、魔力の流れが悪くなっている通りを良くしたりしていた。

 それらの処理が終わってようやく進化の終わりとなったのだけれど、長年続いたメンテナンス不足(?)は思った以上に影響があったようだった。

 進化が終わってようやく元の身体に戻った後で話を聞くと、半月という日数がかかっていたことがわかった。

 進化に時間がかかるのはわかっていたけれども、人の身体からそれだけの期間意識が離れて悪影響がなかったのか少し心配になってしまった。

 一応起きてすぐに体の各所に不具合がないかを確認してみたが、長い間寝ていただけの状態による筋肉やら各関節の動きが鈍っていたくらいでそれ以上の不具合は見つからなかった。

 とはいえ半月も寝たきり状態だったのは事実なので、しばらく激しい運動は控えようかと考えている。

 幸いにして魔物を相手にするときには前衛ほど激しい運動をするわけではないので、そこまで気にする必要はないと思う。

 それにもう少し歪みに関して調べたいことがあるので、体に対する影響が無くなるまでダンジョンに潜るようなことはない……はずである。

 

 世界樹の中から戻って目覚めた時は、初めの時と同じように根元に置かれたベッドの上で寝かされていた。

 すぐ傍にはアイがいて、すぐにこちらの様子に気付いて視線を向けてきた。

「――目が覚めた?」

「……う、ううん。あ、ああ~……。しばらく使っていなかったせいか、声がひどいね」

 ずっと使っていなかった口の中はカラカラで、声帯も思うように動いてくれなかった。

「水、用意してある」

「ありがとう」

 アイから差し出された水を受け取ろうと手を伸ばし――そうとしたところで、こちらもぎこちない動きしかできないことに気付く。

 人の身体ってこんなに不便だったかと思うくらいには、以前の精霊としての身体が懐かしく思えてしまった。

 

 アイからもらった水をゆっくり含んで嚥下すると、体の中に水がしみわたっていくような感覚に襲われた。

 一応眷属たちが口から水を含ませるようなことはしていたらしいが、それでも十分な水分が取れていたわけではないのだろう。

 それでも水を体内に入れて次に襲ってきた感覚が空腹だったことには、さすがに体に依存した生物だけのことはあると感心してしまった。

 寝たきりの状態だった人がいきなり起き上がるのは駄目だったかなと考えつつ、幸いめまいのようなものは感じなかったので数分後には立って歩けるくらいまでには回復することができた。

 

 目が覚めたタイミングはあと数分もしないうちに暗くなるという時間だったので、このまま一晩かけて回復させることにした。

 半月も経っていたので一晩位遅くなってもいいだろう――なんてことは考えていないのだけれど、体に変調を起こしている状態で会うよりは心配をさせないはずだろう。

 だったら眷属たちはいいのかと言われそうだが、進化に伴う体の異変は皆が経験していることなので人族であるアンネリたちほど心配はかけない――と思う。

 今回は人族であるはずの俺が世界樹の中に入って進化を行うというイレギュラー中のイレギュラーな対応だったので、いつもと違い過ぎるということはあるのだが。

 

 そういう意味では、世界樹の進化自体は眷属たちもこれまでの時間で成功していることはわかったていたけれど、俺自身が無事に(?)戻ってこれるかは一抹の不安はあったよう。

 とはいえ体に大きな変化が起こった様子もなく、世界樹の進化も過去に見てきた状態とほとんど変わらなかったことからそこまでの大事に至るとは考えていなかったそうだ。

 起きて来てからも長時間寝たきり状態だったこと以外の変化はなかったので、心配のほとんどはその時点でなくなっていたとのこと。

 これらの話は傍についてくれていた第一世代の眷属たちから直接聞いた話なので、他の眷属たちの間でもそこまでの大きな違いはなかったはずだ。

 

 ――というわけで眷属たちへの話は夜の間に済ませておいて、翌日の朝には転移装置を使ってダークエルフの里へと向かう。

 そこでは、半月の間もずっと資料の整理を続けてくれていたアンネリとアイリが待っていた。

 俺がいる間に行っていた整理でコツを掴めたのか、二人は思っていた以上にヒノモト各地で起こっている歪みの発生状況を綺麗にまとめてくれていた。

 あとからそれを知って驚くことになるのだけれど、会ってすぐはまずこれまでのことについて話をしなければならなかった。

 

 眷属は二人にはそこまで詳しい状況は話さなかったようで、ユグホウラでちょっと対処するべき事案が発生したとだけ説明していたらしい。

 ユグホウラの根幹である世界樹が進化しているなんてことは話せるはずもなく、そんな曖昧な説明になっていたようだけれどむしろそちらの方が納得できるだろう。

 俺も世界樹の進化のことについては話すつもりはなかったので、眷属の説明に合わせて難しい状況で対処におわれたと言い訳をすることにした。

 ちなみに世界樹の進化も『難しい状況の対処』であることには違いないので、完全な嘘というわけではない。

 

 二人と会う時には体の異変もなくなっていたので、その説明で納得してくれていた。

 そこから改めて二人から整理したことを説明されたわけだが、その結果を確認して驚いた俺を見て顔を見合わせてから揃って含みのある笑いをしていた。

 その笑いにどういう意味があるのかは分からなかったが、嫌な感じはしなかったので変に突っ込むことはなくそのまま放置しておいた。

 揃って同じ作業をしたことで共通意識を持つことができたのかは分からないが、距離を縮められたのであればそれに越したことはない。

 

 いなかった期間についての説明はそれだけで終わり、二人もそれ以上を聞いて来ることはなかった。

 もしかすると聞きたいと考えているのかもしれないけれど、こちらも敢えて触れるつもりはないので気持ちは分からない。

 俺がユグホウラに深く関わっている存在であることは二人とも知っているので、言えることと言えないことがあることくらいは理解しているはずだ。

 もし二人が無理やり聞き出そうとして来るのであれば今後の付き合い方も考える必要があったのだけれど、そんなこともなく安心している。

 

 そんなことを考えながら二人が整理した歪みに関する資料を見ていると、一つ大きく目につくデータがあった。

「――それにしてもやっぱりムサシ関東のデータは多いね」

「かの地は九尾の方がいらっしゃる土地になりますわ。かの方は歪みに関しての調査も多く行っているようで、そのおこぼれに預かっている状態です」

「ああ、いや。別に修行場の巫女たちを責めているわけじゃないんだよ。それを言ったらエゾのデータだって同じくらい集まっているじゃない」

「そう言っていただけるとありがたいです」

「うん。だからどっちがどうというわけじゃなくて、比較する意味でもちゃんとしたデータが揃っているというのは大きいかなって」

 

 関東と北海道のデータを比較できれば、準領域との違いも確認することができる。

 蝦夷に関してはしばらくの間世界樹が進化できなかったという出来事があったが、それでも比較する意味はあるだろう。

 それにムサシの地に関しては、長い間見守ってきた存在がいるので直接話を聞いて確認するということもできる。

 そのためにもまずはムツのダンジョンでの探索を進めてから、改めてムサシの地に向かいたいとそう思えてきた。

 それに加えて世界樹が進化したことによる影響もこれから出て来るはずなので慎重に見極めたうえで移動をしたいと、そんなことを考えるのであった。




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m(__)m

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