(18)異変?

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 ダークエルフの里にある世界樹の巫女の修行場での資料整理は、数日かけて行っただけの成果は上がった。

 俺たちは頑張って整理している間も他のプレイヤーの確認報告は続いていてそこでもまとめの裏付けは行われていたが、こちらの作業でもそれは認められる結果となった。

 付け加えるとすれば、エゾでは本州方面に比べてあからさまに歪みの出現頻度が増えていたけれど、それがこの世界特有のものかはわかっていない。

 精霊樹はあくまでも世界樹のアンテナ的な役目だと考えると、歪みの出現が低くなるのは何かの能力の差だと考えられる。

 精霊樹を世界樹の枝わけ的な存在だと考えると、普通に考えれば処理能力が低いはずの精霊樹の周辺の方が歪みの出現が低いのはおかしい。

 その辺りに何かのヒントがあるのだろうとは思うのだけれど、何せ他のプレイヤーに似たような存在が少ないので検証するのも難しかった。

 勿論同じように領土を持っている魔物プレイヤーはいるので、できる限り確認してもらうようにお願いはしておいた。

 というよりも例の報告が上がってから歪みの確認を進めているプレイヤーも多くなっているので、こちらのお願いは余計なことだったかもしれない。

 

 世界樹がある本領の歪みの出現が多くみられるのは、より多くのマナを吸収できる存在が近くにいるからなのか、あるいはもっと別の理由があるからなのかは議論が分かれている。

 当然そのことも掲示板には報告済みで、俺が見ている間も幾つかの推測が上がっていたけれどこれといった正解に結びつくようなものはなかった。

 もしかすると他の爵位持ちがいる領土を細かく見て行けば分かるかも知れないが、シーオを始めとしてヒノモトほどに巫女の存在が受け入れられているわけではないので確認は難しいかも知れない。

 さすがに個人で確認しようとすると年単位時で時間がかかりそうで、他にもやりたいことがあってすぐに確認に向かうのは断念した。

 

 もしかすると歪みは世界樹やダンジョンのような存在がマナを吸収する際に表に出て来る自然現象ではなんて意見もあったが、それは即座に否定されていた。

 理由としては単純で、だとするとダンジョンの周りも多くの歪みが確認できるはずだからというものだった。

 そこから分かるように、ダンジョンの周りにはあまり歪みが確認されないことがわかっていて、周辺から吸収しているのであればそこでも歪みは確認されるはずだ。

 それがないということは、ダンジョンは完全に中に侵入してきた者だけを対象にマナの処理を行っていることがわかる。

 

 というわけで調べれば調べるほど不可思議現象になってくる歪みだが、巫女の修行場で資料整理をしている時にふと気になる事実を見つけた。

「――アイリ。ちょっと質問だけれど、エゾに修行に来る巫女の数が定着したのってどれくらい前から?」

「何ですか、突然。それでしたら三百年ほど前になると思いますわ。今でもそうですが、世界樹様の元で修行をしたいという巫女は多数おりますから、それを制限する目的で決められていますわ」

「三百年前、ね。なるほど」

「何か分かったことでもありますの?」

「そうだね。ただ今調べていることとは外れるけれど……予想が当たっていると、ちょっと無視はできないかな」

 敢えて具体的なことを言わなかった俺に、アイリは顔に『?』を浮かべながら首を傾げていた。

 

 事が事だけに今見つけた事実は、周りで手伝ってくれている巫女たちは勿論、アイリやアンネリにも言うことはできない。

 そのため無言のままラックに目配せをしてから、資料がある部屋を出て二人だけになれる場所まで移動してきた。

「――他人に聞かれないための結界を張りましたが、どうされましたか?」

「ちょっと確認だけれど、莉愛(オーストラリア周辺)とか南極を完全制覇したのってどれくらい前のこと?」

「ああ、それでしたら百五十年ほど前になりますね。特に南極は環境に慣れるのが手間取りました」

「それはまあ、仕方ないよね。いくら冬の植物があるとはいっても、極地に完全に対応しているわけじゃないし。――って、それは良いんだ。それよりも、やっぱりそれくらい前のことになるのか」

「何か問題がありましたか」

「あの二人を呼んでいないから分かっていると思うけれどね。世界樹が、ちょっと異変を起こしているかもしれないね。――悪い方向に」

 俺がそう告げると、珍しくラックの顔色が変わった。

 

「今すぐにどうこうなるとは思えないから慌てなくても大丈夫。ただ、このまま放置しておくと必ず何かが起こる……かもしれないね」

「それでは、これから……?」

「うん。直接確認しに行ったほうがいいかも知れないね。今の俺の状態でどうにかできるかは分からないけれど、とりあえず行って確認しないと始まらないし」

「畏まりました。すぐに手配いたします。ですが、あのお二人は?」

「流石に連れて行けないかな。世界樹に直接関わることだし」

「では適当な理由をつけて、この場にいてもらうようにいたします。……あのお二人でしたら、ある程度気付かれるかもしれませんが」


 少し困った顔でそう言ったラックに、俺は笑いながら「それで構わない」と告げた。

 あの二人の察しが良いことは既に分かっていることで、今回もいきなり消えたことで何かしらに気付くだろう。

 しかも世界樹周辺の歪みについて調べていた最中のことなので、そこからある程度の推測もするかもしれない。

 そのこと自体は止められるようなことではないので、敢えて好きなようにさせることにした。

 

 そんなことよりも、今は世界樹で起こっている異変のことの方が重要だ。

「前に世界樹に入った時には気付かなかったんだけれどなあ……。何か見つかればいいんだけれど」

「前……? ああ、二度目の主が初めて戻られた時のことですか」

「そうそう。ただあの時は、以前とは違う戻り方だったのかもしれないけれど……今の俺がどこまでできるか」

「主に出来なければ、他の誰にもできないでしょう。それで世界樹に何かあったとしても、それはそういう運命だったと考えるしかありませんね」

「随分とあっさり割り切ったね。まあ上手く対処できなかったとしても、そこまで深刻な事態にはならないと思うけれどね」

 資料を見た結果から世界樹に何が起きているのかはある程度予想できているが、それは直接世界樹の命に関わるようなことではない。

 ラックの言葉が悪い考えに進み過ぎている気がしていたので、わざと軽い調子でそう返した。

 そもそも世界樹の命に関わるような事態になっているのであれば、眷属たちが全く気付かずに過ごすなんてことにはなっていないはずだ。

 

 世界樹の命に直接関わるわけではないけれど、歪みに関しての問題は見過ごすことはできない。

 調査で見つけた違和感とその理由も併せて説明をすると、ラックは納得した表情で頷いていた。

「――なるほど。それでユグホウラの制覇状況をお聞きになったのですか」

「そういうこと。今の俺で対処ができるかどうかは分からないけれど、上手く行ったらむしろ世界樹にとっては良いことになる……はず」

「そこは断言されがほうが良いのでは?」

「こっちの体になってからは初めてのことだからどうしてもね」

「気持ちはわかりますが……今はそのようなことを話していても仕方ありませんね。すぐに向かいましょう」

「そうだね」

 折角急いでアンネリとアイリのところから離れたのにここで長々と話をしていても仕方ないので、すぐに転移装置のある場所へと向かった。




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m(__)m

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