(17)資料整理

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 陸奥の町に来てから数日しか経っていないのに、ほぼとんぼ返りという感じでダークエルフの里へ向かう。

 今回は移動に時間をかけるつもりは全くなかったので、ツガル家にある転移装置を使わせてもらって直で向かった。

 別れてから数日しか経っていないのに何かあったのかと直弼は驚いていたが、世界樹の巫女に関することだと言うと納得していた。

 世界樹があるエゾの地にあるという巫女が集まっているといわれている場所は、ヒノモトのお偉いさんにとっても重要な場所の一つになっているのだろう。

 ちなみに巫女頭がいるのはダークエルフの里だけれど、これは公然の秘密といった状態で公にはしていない情報になる。

 もっともかの地で修行をしていた巫女がそれとなく話をしているらしく、そこまで厳密に秘密が守られているというわけではない。

 エゾの地にユグホウラに守られたダークエルフの里があることも知られているので、結びつけて考えるのはそこまで難しくはない。

 さらに余談になるが、同じく一周目の時に移り住んできたドワーフのことも似たような感じで知る人ぞ知る場所ということになっているようだ。

 

 転移装置を使ってダークエルフの里へ戻った俺たちは、そのまま真っすぐに巫女たちが生活している一角へと向かった。

 数日前に実家へと戻ったはずのアイリがいることで、幾人かの巫女が驚いていたが歪みに関して調べに来たというと納得していた。

 代々の巫女頭のもとに集まって来る各地の資料のことはこの地に修行に来ている巫女であれば誰もが知っていることのようで、何の疑いもなく納得していた。

 そもそもこの地に修行に来た巫女がエゾの地を巡る修行をする際に参考にするのがここにある資料になるので、知らないほうが珍しいのだという。

 

 アイリ曰く巫女であればいつでも閲覧ができる資料とはいえ、さすがに何の挨拶もなしに入り込むわけにもいかないのできちんと巫女頭には挨拶をしていた。

 さすがに数日で戻ってきたことには驚いていたけれども、目的が歪みに関する資料だと聞くと納得していた。

 むしろそれらの資料を見て何をするのかと聞いてきたくらいなので、やはりここでも歪みに関しては色々と検討なり研究がされているのだろう。

 一応まだ予想の段階で答えられることはないと濁しておいたけれども、特に隠す必要もないと考えているのですぐに話すことになるだろう。

 

 というわけで早速資料が集められている場所へとアイリに案内してもらったわけだが、その量の多さに驚くこととなった。

「これは……凄いね。さすがにこれほどだとは思わなかった」

「本当にね。ここにあるものが全部歪みに関することだけなのでしょう?」

「一部、巫女の修行をするための資料もありますが、概ねそうなりますわ。歴代の巫女たちがエゾを巡って集めてきたというのもありますが、やはりヒノモト各地から送られてきていることが大きいでしょう」

「紙も貴重……あれ? そういえば、巫女が使う紙の類はユグホウラから送っているんだっけ?」

「その通りですわ。初代の巫女頭様の頃からということでしたが、本当のことだったのですね」

「紙の価値って、あの時から比べて落ちているのかな?」

「さすがに五百年前に比べれば知識層も増えておりますので紙の生産も増えているようですが……一般に広まるまでではないですわね」

 アイリの答えを聞いて、すぐにそれもそうかと納得した。

 

 ヒノモトで紙が大量生産されて価値が落ちているのであれば、大陸にもその影響は波及しているはずである。

 その様子はほとんどなかったので、ヒノモトでもそこまで値が落ちているというわけではないということだ。

 もっともヒノモトからシーオまではかなりの距離があるので、輸送費としてかなり値上がってしまう可能性は残っているのだけれど。

 アイリの話を聞く限りはそこまで値が落ちているわけではなさそうなので、単純に利益にならないのでシーオまで輸送されているということもないのだろう。

 

「紙のことは、まあいっか。それよりも資料を確認することが先……なんだけれど、どこから手を付けたものかな。これは」

 目の前にあふれている紙を見て、少しばかり悩んでから答えを出した。

「とりあえずエゾの状況から確認するとして、世界樹の周辺とそれ以外に分けて確認するとしようか。今回はアイリが中心になったほうがよさそうかな」

「私が、ですか」

「だって巫女として修行をしているってことは、ここのことも俺たちよりは詳しいんじゃない? どこから手を付ければいいか分からないってことはないよね?」

「そういうことですか。それでしたら確かにそうなりますわ。ただ私ではどの資料が必要かはわかりませんので、ご指示を願います」

「あら。やっぱりそうなるか。――そうだね。まずは世界樹近辺の資料からだね。距離は――」


 ある程度の目安を指示すると、さすがに慣れているのかアイリはすぐにあの辺りにあると答えてきた。

 流石に世界樹周辺というべきか、進入禁止地帯を除けばかなりの量の資料が出てきた。

 それらの資料をまずは年代別に分けて、さらに世界樹からの距離という分類で区分けしていく。

 これらの分類は、事前に巫女頭に許可を取った上で行っている。

 代々の巫女頭たちも、年々貯まっていくこれらの資料をどう扱っていたのか悩んでいたようで、こちらの申し出は渡りに船だったようだ。

 体よく使われているような気もしなくはないが、その程度のことでこれだけの資料に触れるのであれば喜んで整理を進める。

 

 ――なんてことを考えていたのだが、さすがに考え過ぎだったようでその日の午後にはほかの巫女が手伝いに来ただけではなく、巫女頭も自ら資料の整理に来ていた。

「――何も巫女頭様がわざわざ来られなくともよろしいのではありませんか?」

「何を仰るのですか、アイリ。わざわざこうして出向いてくださってまで整理してくださっているのに、私が出向かないわけにはまいりません」

 巫女頭は敢えて『誰』がということは省いて言っていたけれど、それが誰であるかは言うまでもないだろう。

 

 そこまで言われるとアイリも巫女頭を止める勢いがなくなってしまったようで、そのまま資料の整理に戻っていた。

 ちなみに俺自身はその会話を聞いてはいたが、まとめた資料を整理するのに忙しくてそれどころではなかった。

 巫女たちが手伝いに来てくれたお陰で人手は多いので、俺自身はまとめた資料を確認してデータを作る作業に専念している。

 これだけまとまった資料があるお陰で、必要最低限のデータはもちろんのこと予想を確信にするための補足のデータも集まって来ている。

 

 さすがに全ての資料に目を通す時間はないので、ある程度確証が得られたところで止めてエゾ内歪みの発生状況の確認からヒノモトへと移って行った。

 ヒノモト各地で確認できた歪みに関するデータはエゾほどの数はないが、それでも掲示板で提示された内容を補足する程度のものは確認することができた。

 今のところ確認したデータの中で、掲示板でまとめられた内容に反するようなものは見つかっていない。

 ダンジョンが関わる部分に関しては資料が少ないのでほとんど確認できなかったが、これは仕方がない。

 

 そもそも巫女たちがダンジョンに潜る機会は少なく、それに輪をかけて歪みの発生も少ないとなると敢えて潜ろうとする巫女もいないはずだ。

 そのため必然的に、ダンジョンに関する資料は少なくなってしまうのだろう。

 とにかく数日かけてここにある資料のデータはある程度まとめることができたので、結果的に満足がいく結論を出すことができた。

 多くの資料に埋もれそうになりながらも手伝ってくれた皆さんには、まとめたデータと共にしっかりとお礼を言っておいた。




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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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