(16)陸奥の歪み
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特に急ぐようなことでもないので、風呂から上がったあとはゆっくりハウスに戻って掲示板の内容を確認してみた。
それによれば、精霊巫女さんの情報を皮切りにその内容を裏付けるような『証拠』が次々に上がっていた。
当然というべきか、長い期間を生きることが確定した時点で様々な記録を付けるプレイヤーも多くいたらしい。
ただし各プレイヤーが付けていた記録は独自の観点で見ていたもので単独では意味を持たず、今回のように集めてみることでようやく一つの結果として確認することができるようになったようである。
一人でできることには限りがあり、集団になってデータを集めてみてようやくそれが活かされたということになる。
それら有志の記録によって確認できた点は次のようなものになる。
一つ目。今回のきっかけになった爵位持ちのいる地域によって歪みの出現頻度に違いがある点は、ほぼ間違いないことが確認された。
二つ目。歪みの出現頻度は爵位が高いほうが頻度は多くなる。ちなみに爵位は『王>公爵>侯爵』で、国王以上は今のところ確認されていない。
三つ目。爵位の高い領地での歪みの出現頻度は高いが、その分自然消滅する速度も速い。これは爵位持ちの魔物の力の差によるものか。(要確認)
四つ目。ダンジョン内での歪みの出現も確認済み。ダンジョンマスターが存在することによる差異は不明。(要確認)
五つ目。歪みは爵位持ちの領土内に魔物がいなくても出現するが、爵位持ちがいない地域に比べて出現頻度は低い。
六つ目。爵位持ちがいない土地でも歪みは自然消滅することは確認済み。
七つ目。歪みから魔物が直接出現した例は、木の人がダンジョン内で見つけたもののみ。ただし、他にもあるのかもしれないが今のところ未確認。
八つ目。歪みが消える際に魔石ができている可能性の言及もあるが、こちらも今のところ発見例はない。
他にも色々と細かい意見は出ているけれども、大きくまとめるとこんな感じだろう。
こうしてまとめてみると今まで漠然と『こうじゃないだろうか』と考えていたことがきちんとしたデータとして確認できたり、初めて知るような事実も見つけることができた。
あとはこれらの事実から歪みとマナの関係について考察していく……前に、まだやることがある。
各プレイヤーが確認してきた事実を疑うわけではないが、折角自分のところの世界でもデータ収集をしていることが分かっているので、そのデータを使ってこれらの意見が正しいかをきちんと精査する。
その上で、他にも新しい事実がないかを確認する必要がある。
そこからマナに関する新しい関係性が見つかれば今の停滞期を乗り越える……ことができる気がする。
というわけで掲示板での情報収集を終えた後は、宿に戻ってそのまま寝ることにした。
そして翌日は、アイリに案内されつつ近所にあるという稲荷神社を訪ねた。
ちなみにアンネリと眷属は着いて来ているが、子供たちとハロルドはいない。
こういう時に子供たちを宿(拠点)に残して置けるので、ハロルドを買ってよかったと心から感謝している。
それはともかく、目的地である稲荷神社についてからは話がとんとん拍子に進んだ。
ある意味では巫女たちにとって秘匿するような情報であるはずの歪みについての資料を部外者である俺たちが見ることができたのは、完全にアイリのお陰でだった。
これはアイリがいない時に神社の関係者に聞いて分かったことだけれど、ツガル家の娘である彼女は巫女としてもその実力をいかんなく発揮して出世頭の一人らしい。
もし彼女が望むのであれば、エゾの巫女頭の地位さえ狙うことができるのではないかとさえ言われているらしい。
その真偽はともかくとして、アイリのお陰で稲荷神社にある資料を見ることが出来たのは間違いない。
稲荷神社にまとめられている資料は地域ごとに整理されていたので、今回の検証にとっては非常にやりやすかった。
というのも神社に一番近い精霊樹を中心にして歪みの出現頻度が違っているということが、分かりやすく示されていたためだ。
この精霊樹を中心にしてというのが、この検証での肝だと考えている。
「――なるほどね。ある意味予想通りといえるのかな」
「精霊樹が何なのかは置いておくとして、この結果に意味があるのね?」
「そういうことだね。簡単に言ってしまうと精霊樹は、世界樹の子供みたいな存在だと思えば良いと思うよ。世界樹と精霊樹は繋がっていてお互いに影響しあっているからね」
「そんな話は初めて聞きましたわ」
「そもそも精霊樹の存在が秘匿されているからじゃない? 功名心とか素材の希少さで刈り取られることが無いように」
「そういうことですか。理由はわかりましたわ。ですが、私たちに知らせても良かったのですか?」
「構わないよ。むしろアイリは、御父上に場所を教えて欲しいくらいだね。ツガル家だったら精霊樹も大切に守ってくれるんじゃないかな」
「それは間違いないですわ。世界樹様と同じように禁足地としてしまうかもしれませんね」
「それは良いと思うけれど、今まで見たいに歪みの処理のために巫女の出入りはできるようにしておいて欲しいかな」
ユグホウラからの魔道具は、経年劣化したもの以外は大事に使用し続けているツガル家のことだ。
精霊樹についても、時に厳しく守り続けてくれるという確信がある。
だからこそアイリにも簡単に明かしたのだけれど、大役を担ってしまったという顔をするのは止めてほしいと思う。
そこまで気負わなくとも、今まで通りにやってくれればそれで構わないのだから。
「――こうなってくると、やっぱりエゾの歪みについてもしっかり調べておきたいな」
「そうなるとやはりダークエルフの里に戻るのが一番ですわ。ヒノモトにはエゾの歪みについての資料はさほどないはずです」
「やっぱりそうなるよねえ。さて困ったな。一旦戻って確認するべきか、後回しにするべきか……」
「別に急ぐたびじゃないんだから、戻ってもいいんじゃない?」
悩み俺に気軽な調子で言ってくれたのはアンネリだ。
どのみちヒノモトは時間をかけて旅をするつもりだったので、ここで一週間程度足止めをくらっても大した問題にはならないだろうということだ。
確かにその通りではあるのだけれど、折角急ぎめでエゾを出てきたのにここで戻るとその意味がなくなってしまうという気持ちもある。
もっとも当初旅程を決めた時には、ここまで歪みについての検証をすることは計画に無かったという言い訳もすることはできる。
「――――よし決めた。ここは一度戻って、きちんと確認しておこうか。本命を見ないで周辺だけ見ていても仕方ないし」
「それがいいでしょうね。ダークエルフの里にあるという資料がどの程度のものかは分からないけれど、それが分かるだけでも戻る意味はあると思うわ」
「そうだね。もっともここにある資料を見る限りでは、本家本元に集まっているものが劣るとは思えないけれどね」
「そもそもヒノモト各地にあるものは、里で学んだ巫女たちが残しているものですから当然ですわ」
アイリの最後の言葉で、一旦エゾに逆戻りすることに決めた。
ただし今回は完全に資料を見に戻るだけなので、子供たちはハロルドと共にこちらの宿に残しておくことにした。
子供たちは子供たちでダンジョンに潜らなくともやることは沢山あるので、一週間程度であれば問題なく過ごせるだろう。
少しハロルドに負担が大きくなる気もするが、一週間程度を目安に離れることを告げると子守くらいはできますと笑っていた。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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