(15)風呂場にて

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 プレイヤーが世界の歪みになるんじゃないかという考え方は、実は俺自身は否定的だったりする。

 ちなみにこの場合の歪みという言葉は、少しややこしいがマナと関係している歪みとは別の意味で使われている。

 この場合の歪みというのは、言葉通りの意味でプレイヤーの行動によって悪い意味で世界が変わるとかそういう意味あいが含まれている。

 プレイヤーの行動が世界にとって歪みが発生するような良くないことが起こるのであれば、そもそもプレイヤーを世界に招くなんて真似はしていないだろう。

 逆説的になってしまうが、運営という存在を知っている以上は世界が悪い方向には進まないのではないかと考えているというわけだ。

 もっとも世界にとって運営が邪神的な立ち位置にいるのであれば、最初からプレイヤーに世界を破壊させる目的で呼び込んだということも考えられるのだが。

 さすがにそんなことは考えていないだろうというのは、同じサーバーにいるほとんどのプレイヤーの意見だろう。

 ……例の上司は実は邪神の類じゃないかという意見がたまに出て来ることはあるが、それは俺たちに対してという意味でまた別の話。

 

「――世界の歪みか。ちょっと思い出したが、他の奴らはどうなっているんだろうな」

 少し時間が空いてからポツリとそう呟くように言ったのはラッシュだった。

 この場合の「他の奴ら」というのが、同じサーバーにいるプレイヤーではないことはすぐに分かった。

 それはハルも同じだったようで、すぐにその問いのような呟きに応じていた。

「どうだかな。運営からは全く触れる様子もないからな。こちらから知る術がない以上は、確認することは不可能だ」

「他のサーバーのプレイヤーだね。やっぱり同じように苦労しているのかな。それともとっくに色んな問題は解決しているとか」

「なんだかんだで三十年だからな。普通のゲームだったらクソゲーどころじゃないだろう」

「そもそもエンディングがあるかどうかも分からない世界をゲームに例えるのはどうかと思うが、ゲームだと考えれば確かに同感だな」

 始まってから三十年以上も経っているのに、エンディングの兆しが見えるところか途中のイベントのきっかけすら起こらないというのは、クソゲーどころの騒ぎではないだろう。

 

「俺たちの場合あのスタートが合ったからついゲームよりに考えてしまうが、そもそもゲームと考えるのが間違いだからな」

「まあな。むしろステータスのある異世界と考えるのが普通……だとわかっていてもつい、な」

「ラッシュの言う通り、俺たちは入りが入りだったからね。そう考えると第二陣とか第三陣とかになると入りは変わっているのかな?」

 俺たちが第一陣のプレイヤーだとすると、その後も第二陣や第三陣が来ていることは既に運営から直接発表されている。

 だからといってこちらに全く関係のない話なので、大半のプレイヤーはそのアナウンスが来てもスルーしていたのだけれどね。

「どうだろうな。なんだかんだやり方は変わっていないと思うがね。多数の異世界に振り分ける方法なんて、アレが一番わかりやすいやり方だろう?」

「ハル、それは俺たちがゲームに慣れていたからだろう? ゲームなんかの文化に触れていない人からすれば、あれもよくわからないと思うぞ」

「確かにな。プレイヤーを増やすことを考えるのであれば、オタク系に限らず募集したほうがいいのか」

「むしろあの上司の目的を考えるのであれば、いろんな人間を巻き込むんじゃないか?」


 俺たちプレイヤーをこの世界に招いたのは人物・行動観察だとはっきり断言している上司。

 それを考えると確かに、こういった状態に全く耐性がない人たちを招いていてもおかしくはない。

「あの上司もね。愉快犯的なところは多々見られるけれど、こちらに合わせてくれるところは合わせてくれるからね」

「そこがまたヘイトを溜めにくいということになっているわけだぞ、キラ」

「いや。むしろこの程度で収まっているこのサーバーがおかしいという意見もあるよ?」

「それはあるだろうなあ。運営が変なのは順次排除していっているという意見もあるわけだが」

「最初の時のあれを見ているとな」

 俺たちのスタートでは、変にいきっていた数名が輪廻の輪に戻される(運営の弁)という事象を全員が目撃している。

 それを考えれば、荒れる原因になるような存在はこの『ゲーム』から排除されている可能性も否めない。

 

「少し話が逸れてしまったな。俺が言いたかったのは、例えばSFサーバーなんかに行った奴らは同じようにマナとか歪みとかで苦労しているのかと言いたかったんだが」

「それもあったか。前々から出ている話ではあるが、運営からの答えがない以上は確認のしようがないぞ」

「そうは言うがな、ハル。気になるものは気になるだろう?」

「それは確かにな。とはいえ……やっぱり他サーバーとの交流の場は欲しいぞ、上司」


 愚痴のように言ったのはハルだったけれども、全くの同感だったので敢えて反対するような意見は言わなかった。

 むしろ後押ししたいくらいだったのが、このサーバーが動き始めた当初から出ている意見で散々聞いてきたはずなので愚痴は一度だけで終わらせておく。

 これは長い年月を同じプレイヤーとして過ごしてきた者たちの暗黙の了解となっている。

 そこには、あまりにしつこく要求をして上司の機嫌を損ねるとどうなるのか分からないという心理が働いていたりする。

 

 実際にしつこく要求したプレイヤーが『ゲーム』から排除されたという事例があるわけではないのだけれど、自然とそうなっていた。

 むしろプレイヤー同士で愚痴合戦になって収拾がつかなくなりそうになったということがあって、それ以来そのルールが自然発生的に出来てきたと考えるほうが自然だろう。

 基本的に上司にしても運営にしても、プレイヤーに対して「あれをしろ」とか「これをしろ」と言って来るほうが珍しい。

 というよりも、最初の頃のルール説明を除けば今まで一度もなかったのではないだろうか。

 

 俺がそんなことを考えていると、他の二人も同じようなことを考えていたのか、何となくしんみりとした空気になっていた。

 とはいえそれが悪い雰囲気というわけではなく、それぞれに考えることがあって空白の時間ができているというべきか。

 いつもであれば誰ともなく話題を振って話が続くのだけれど、この時はそろそろゆだりそうな時間になっていたので自然とお開きとなった。

 ――のはいいのだが、今回はそこで終わらずにまだ続きがあった。

 

 その続きは、入口から入ってきた別の男性プレイヤーから情報としてもたらされることになった。

「おお。やっぱりここにいたか。キラ、だけじゃなくて他の二人も知りたいと思うから言うが、例の件で少しだけ進展があったぞ。掲示板を見てみろ」

「例の件?」

「歪みの量が場所によって違うんじゃないかって話だ。精霊巫女が確認したら確かにその傾向はあったそうだ」

「なるほどね。それにしても随分と早く結果が分かったね。精霊巫女のフットワークが軽いのは知っていたけれど、それにしても随分な移動をしたんじゃないの?」

「ああ。それは誤解だな。実際に見て回ったんじゃなくて、以前から貯めていたデータを見た結果だそうだ」

「なるほどね。それもそうか。あの人だったらデータ収集もしっかりしていそうだから信ぴょう性はありそうだね」

 こちらも巫女たちが過去から貯めてきたという記録を見せてもらうつもりだったけれど、それよりも早くプレイヤーの一人が確認を終えたようだった。

 詳しい精査はこれからになるだろうけれど、これでまた一つ手掛かりのようなものが得られる……ことになればいいね。




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おまけ

精霊巫女「こんなことに気付かなかったなんてっ」

魔女「データは貯めるだけじゃ意味のないといういい例ね」

精霊巫女「むきー! あなたも同じじゃない!」

魔女「なんのことかわからないわね」


※おまけはあくまでおまけです。

 精霊巫女は「むきー」なんて言ったりしません。(笑)




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m(__)m

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