(14)躊躇
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アイリがいたお陰か歪みについては幾つか不思議に思えることを見つけることができたが、ダンジョンの探索自体は特に大きな問題が起こることなく終えることができた。
そもそもダンジョンは周辺の環境に影響を受けると言われており、陸奥のダンジョンもその例にもれずある特徴的な環境になっている。
その特徴的な環境というのが、寒冷地に特化した造りになっていて他のダンジョンに比べて多くの階層の平均気温が低いと言われている。
ただし全ての階層が寒いというわけではなく、真逆の暑い層もあるところがダンジョンの不思議といったところだろうか。
もっともダンジョンの運営をしているプレイヤーを知っているこちらからすれば、一つの環境だけに固執するとすぐに冒険者に攻略されてしまうので色々な環境を揃えるという理屈はよくわかる。
プレイヤーだけではなくそのダンジョンを支配している魔物がいれば、同じようなことを考えても不思議ではないだろう。
そういう意味では真逆の環境がある陸奥のダンジョンには支配している魔物がいてもおかしくはないのだけれど、このダンジョンには支配者はいないことがわかっている。
これはそもそもこのダンジョンを見つけたのが俺の一周目の時であり、既に見つけた時に支配者がいないと確認できていたからこそ知っていることだ。
さらにいえば、このダンジョンは最初から存在していたのではなく歪みからできたダンジョンであることも分かっている。
そういう意味では特殊なダンジョンと言えるのだろうが、やはりダンジョンを維持し続けたツガル家の力は大きいと言えるのだろう。
ちなみに二周目の俺が誕生(?)するまでに五百年という年月が経っているわけだが、その間にダンジョンの支配者が誕生している可能性はある。
俺がいなくなってからユグホウラでこのダンジョンの調査をし続けることはしなかったようで、新しくできた階層があるかどうかもよくわかっていないらしい。
一周目の時には最下層まで確認しているが、その層よりも階層が増えていることは確実に分かっている。
その理由は単純で、冒険者の最高到達階層が一周目で調べた階層よりも深くなっているそうだ。
その最高到達階層よりもさらに下層があることも分かっていて、今ではどこまで階層が深くなっているかは分からないというわけだ。
さすがに現在の最高到達階層を超えて探索するつもりはないのだけれど、気になるといえば気になるところではある。
とはいえさすがにそこまでするのには時間がかかるので、残念ながら今はそんなことをしている余裕はないと言ったところだろうか。
それよりも一プレイヤーとしてはやはり歪み関係のことが気になっているので、その日の軽い探索を終えたあとですぐに他のプレイヤーにも情報を投げることにした。
まずは掲示板で歪みの出現頻度に関する情報を投げて反応を見てから、いつものように広場にある風呂に向かい他のプレイヤーと会話を行う。
「――相変わらずこの時間にはいますねえ。ハル。意外に暇なんですかね?」
「暇といえば暇だな。今となっちゃ、あっちの店は弟子に任せられるからな。表に出しちゃまずい技術で作った物は出せないが、そういうのは店売りすることはないしな」
「生産組も色々と気を使うことが多そうだねえ」
「それはな。ただ戦闘組だって人外組だってそれは同じだろう? なあ、ラッシュ」
「まあな。あまり一気に有名になると即討伐されるなんてことになりかねないからな。ただある程度の山を越えればあとは楽になるが……その辺りはキラだってよくわかっているだろう?」
「それはまあね。だからこそ、人族のレベルが低いという問題にもなっているわけで」
俺がそう答えると、ハルとラッシュはほぼ同時にため息を吐いていた。
人族全体の戦闘能力を上げてマナの流動量を上げるという目論見はほとんどのプレイヤーで計画されているようだけれど、残念ながら上手く行ったという報告は聞かない。
隠したところでそもそも活動している世界が違っているので、隠す意味がほとんどないので黙っているプレイヤーはいないと思われる。
それなのに全く報告がないということは、やはりそうそう簡単にはいかないということなのだろう。
「そういや、ハルの表に出せないという言葉で思い出したが、武器防具の質向上で戦闘力を上げることはできないのか?」
「それもなあ。話には出ていたが、上手く行ったという話は全く聞かないな。やはり技術の秘匿問題が大きいとおもうぞ」
「そうか。本当に痛し痒しだな。プレイヤーはある程度までは開示したりしているんだろう?」
「そうだと思うぞ。少なくとも俺はやっている……んだが、やはり身に着けた技術は弟子以外には教えないという考えが染みついているのか、そこでストップしてしまうんだよな。俺が直接教えた奴らは実践してくれているようだが、そこから先になるとな……」
「そう聞くと、やっぱり生産組も厳しいよね。うちの技術も別に使用禁止とかしていないんだけれど、全く広まる様子もないし」
「いや。話に聞く限りは、ユグホウラが出している技術はレベルが高すぎてコピーすらできないという感じじゃないか?」
全くもってハルの言う通りで、耳が痛いと笑って済ませる問題ではなくなっている。
まさか転生するのに五百年も間が空くとは思っていなかったこともそうだが、それ以上にユグホウラから出している魔道具がコピーどころかほとんど一般に出回っていないなんてことになっているとは思わなかった。
これは各国の支配層が技術の流出を嫌った結果ともいえるが、それにしてもその状況が五百年も続くとは驚きだ。
もしかすると新しい世界は元の世界と違って、新しく見た技術を盗むという発想すらないんじゃないかと思う時すらある。
さすがにそれは考え過ぎで、隙あらば盗もうと考えている者は少なからずいるのだが。
「確かにそれもあるね。最低でも各国で一つや二つや三つは研究用として確保しているはずなのに、同じものを作れたという形跡すらないし」
「それもそうだが、研究した結果でもっと技術レベルの低いものを作れていないのもやばくないか?」
「全くもってそう思うよ。ここまでくると運営が敢えてそうしているとしか思えなくなってくるよね」
「本当にな。俺たちはついあっちの世界の基準で考えるから違和感があるのかも知れないがな」
「普通に色んな分野でコピー商品が出回るような世界だったからなあ。だが運営がそんなところに手を出しているとは思えないぞ?」
「ラッシュでもそう思うか。俺もそう思うぞ。そんな大掛かりな仕掛けを何のためにするのかって疑問がどうしても出て来るからな」
「なにかきっかけがあれば一気に進みそうな気もするけれどね。それをこちらが担うというのはちょっと違う気がするんだよね」
「このサーバーにいるほとんどのプレイヤーがそう考える質だから進んでいないとも言えるのかもしれないな」
「ラッシュ、それも掲示板に一つの意見として出ていたぞ。だからと言って自分が進んでやるという奴はいなかったが」
「それは仕方ないよ。強制するわけにもいかないし。自分がやりたいと思わないことを、人に押し付けるわけにもいかないからね」
「プレイヤーが変に介入して、世界の歪みになったら嫌だという考えも同意できるからな」
戦闘も生産も人族の技術レベルを上げるという問題は本当に厄介で、今ではプレイヤーがどう介入するかが問題になっている。
世界がどうなろうが気にせず介入するのであればいくらでもやり様はあると思うが、それをするにはプレイヤーが少し世界に深く関わり過ぎている問題がある。
その問題が、マナと歪みに関係していることは言うまでもない。
そんなことを気にせずに、好きなように介入すればいいじゃないかという意見もあることは重々承知しているけれども、やはり躊躇すると考えるプレイヤーがほとんどなのが俺たちがいるサーバーだったりするのである。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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