(13)様々な準備

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 ツガル家での晩餐を終えた翌日からは、ダンジョンに潜る拠点としての宿を取ってから消耗品を含めた様々なものを買いそろえた。

 場所が変われば探索に必要なものも変わって来るので、遠くはなれたダンジョンへ移ってきた場合には必要な作業になる。

 同国内にあるダンジョン程度であればそこまで気にする必要もないのだけれど、さすがにユーラシアの東と西の端ほどにまで離れていると必要になるものもかなり違って来る。

 それは出て来る魔物の違いからくるものなので場合によっては必要ないこともあるのだけれど、今回はしっかりと用意する必要があった。

 ギルドにある図書室にある各種資料を見て新しい道具を揃えることに決めたのだが、トム辺りはそこまでする必要があるのかと驚いていた。

 中には己の身一つだけで道具に頼らないと豪語する冒険者もいるそうで、道具に頼ったような探索をすることに驚いたらしい。

 俺から言わせれば人族の身体はそれぞれの環境に特化した進化をしておらず、厳しい環境で魔物と同等以上の動きをするのは厳しいと言わざるを得ない。

 逆にいえば環境さえ整えてしまえばどの場所にでも行けるともいえるので、どちらが優れているというわけではない。

 

 ギルドにある資料室でダンジョンの環境や出現する魔物に関する情報を仕入れては必要な道具を用意していると、あっという間に三日という時間が過ぎ去っていた。

「――冒険者がここまで入念に準備をするとは思いませんでしたわ」

 これは、念入りに準備を進める俺たちを見ていたアイリの言葉だ。

 

 当初アイリとはツガル家の屋敷から出た時に別れると思っていたのだけれど、当主との話を進めているうちに一緒に着いて行ったらいいと提案された。

 俺たちのダンジョン探索の目的の一つとして歪みの調査があると告げた時に直弼がどうこうするように提案してきたのだけれど、それを了承した形だ。

 勿論直弼には政治的な判断で動いていることも承知しているが、それは別にして歪みを見つけることが出来る人手が増えてありがたいことには違いない。

 場合によってはお互いに見えている歪みが違っていたりする場合もあるかも知れないので、それを確認する意味でもアイリの存在は有難かった。

 ちなみに同じように歪みが見えているオトやクファは、俺が教えているということもあってなのか、これまで見えている歪みに違いがあったことはない。

 

 アイリはエゾ内での旅は巫女修行の一環として何度も行っていたようだが、ダンジョン探索は初めてのことだそうだ。

 だからこそ一見すると粗暴に見える冒険者が、ここまで入念に事前調査やら準備をしていることに驚いたのだろう。

 中にはそうした冒険者もいるにはいるが、一か所に留まっているならともかく基本的に移動した先である程度の準備を進めるのは常識になっていたりする。

「――ダンジョン探索をする場合とフィールドで依頼を熟したりする場合ではまた条件が違っていたりするから、一概に冒険者全員がそうだとは言えないけれどね」

「納得いたしましたわ。基本的に私のような者が見るのはフィールド上で活動する者たちでしたわね」

「ああ、そっか。アイリとかアンネリのような立場だったらそうなるかもね」

 多少一般的とは毛色が違っているけれど、どちらも貴族令嬢であることには変わりない。

 そのお嬢様が触れる機会がある冒険者は、移動の際に馬車の護衛などをする者たちになるのだろう。

 アンネリの場合は実母が実母なので、特殊過ぎる例とも言えるのだが。

 

 とにかくそれらの準備を終えて、万を辞してダンジョンに潜ってみた第一印象はといえば――、

「――――歪みが多い気がする……」

「え? そうなの?」

「わたくしにはわかりません。エゾの地でもこれくらいの頻度で見られましたから、普通だと思っておりましたわ」

 アンネリが不思議そうな顔をしてアイリを見れば、見られた方はよくわからないと首を傾げている。

 俺の言葉に同意しているのは、同じようにシーオの地で歪みを視ていたオトとクファだ。

「シーオ……というかノスフィン王国と比べるとここだと最低でも倍以上は数が違う気がする。一定の広さに対してだけれど。ダンジョン内だけじゃなくて普通のフィールドでもそうだとすると、何か理由がありそうだね」

「世界樹様がおありになるからというわけではありませんの?」

「うーん。どうだろうな。それなら簡単でいいんだけれどね。シーオでは守護獣と言っているけれど、歪みに関係している存在はシーオにもいるからなあ。今のところ何とも言えないかな」


 アイリが一番ありそうな理由をすぐに言ってきてくれたが、さすがにそれが理由だとは考えにくい。

 一つの理由としてマナを吸収して魔力を生み出している魔物の存在は関係しているというのはあるだろうけれど、他にも理由はありそうだ。

 もしかすると土地を支配している魔物の格――わかりやすくいえば種族の進化度なんかが関係していそうな気もするが、確定とするのは早計だろう。

 幾つか思い当ることも無きにしも非ずだが、これは掲示板案件だろうと頭の片隅に置いておくことにした。

 

「そういえば、エゾに修行に来る巫女って全員が残っているわけではないよね?」

「勿論ですわ。むしろ数だけでいえば、地元の帰らないほうが珍しいかと思います」

「だとすると各地で調べた歪みの状況とかって、集まっていたりする?」

「そうですわね。地元に戻った全員が送ったりしているわけではないでしょうが、それでもヒノモト全体で見れば一番多く資料として集まっているはずです」

「やっぱりか。ちょっと慌しかったから聞けなかったけれど、ホームに戻った時についでに確認してみるのもいいかも知れないね」

「特に秘匿している情報ではないので見せてくれるでしょうが……もしツガル限定で良いのであれば、エゾまで戻る必要はありませんわよ?」

「え? どういういこと?」

「ムツにある大樹神社には、エゾで修行を終えて戻った巫女たちが各地を回って調べた歪みの記録が残っております。それを見せてもらえばいいのですわ」

「そんなものがあったのか。部外者である俺が見ることはできるのかな?」


 一応の懸念点として確認してみたが、どうも歪みの情報はヒノモトにおいては秘匿するという扱いになっていないらしく、問題なく見ることができるということだった。

 シーオでは歪みの存在自体ほとんど語られることがなかったのに、ヒノモトでは一般人が触れられる情報として存在している。

 その違いも面白いと思ったけれど、世界樹の巫女が存在しているのかいないのかで違いが出ているのだろう。

 歪みが普通の人にとっては何の意味をなさない現象だということも、わざわざ秘匿するまでもないと思われていることも大きいはずだ。

 

 もっとも歪みが一般人に全く影響が出ないという意見は、プレイヤーの間でも意見が分かれている。

 少なくとも直接的な影響がなかったとしても、魔法を使う場合には何かの影響を受けているという意見が根強く残っている。

 ただし歪みのすぐそばで魔法を使っても何の変化も見せないので、直接の影響はないと言い切る魔法使いプレイヤーも一定数存在している。

 人族が使える魔法は、あくまでも魔力になってからの話で、それ以前のマナや歪みの状態では影響がないということだ。

 

 だとしたら何故領土を得た魔物がマナや歪みに直接関与するようになるのかという話もあるのだけれど、そこは全く持って分かっていない。

 魔物と人族では体の構造からして違い過ぎるので、比較することも容易ではないからという壁があるので中々調べ難いというのが現状だ。

 ただ目の前にいるアイリを始めとした巫女たちは、オトとクファという存在が歪みに対して直接変化を起こしているのも事実。

 となると何かしらの相互関係はあると思うのだけれど……あまりに取っ掛かりになるものが少なすぎて検証しようにもほとんど前に進めていないというのが今の状態だったりする。




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m(__)m

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