(11)具体案

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 世界樹の精霊についての話を直弼が話し終えると、何故か晴宗とアイリに退出するように言った。

 何か重要な話でもするのかと思って確認したが、直弼は首を振りながらこう言ってきた。

「そうではございません。もしキラ様が重要な話をしようとされているのであれば晴宗がいると話しづらいと思いましたからな。アイリはついででございます」

「なるほどね。となるとこっちも人を減らした方が良いかな?」

「それはお好きなように。子供たちは既に別部屋におりますので、そちらにご案内致します」

 アンネリやハロルドには、既にプレイヤー関係以外のことについては隠すことなく話をしている。

 それならば二度手間になるよりもこの場で聞いてもらったほうがいいだろうと判断して、この場に残って貰った。

 直弼にそう告げても特に不快な表情はせずに、納得した様子で頷いていた。


「――では改めまして、キラ様。ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。きちんと精霊様については言い聞かせていたつもりだったのですが、やはり親の言葉だけでは足りなかったようです」

「そう仰るということは、ご当主様にも心当たりがあるということですか」

「どうか私のことは直弼とお呼びびください。それから心当たりですが、その通りです。かくゆう私も家を継いであの手記を見るまでは、晴宗と同じような感じでしでな」

「なるほど。身近に感じられない人の言葉は、いくら言い聞かせても実感として湧きずらいというわけですか?」

「まさしく仰る通りですな。宗重の手記を目にするまで実感できなかったのは不徳の致すところですが、どうにかお許しください」

「許すもなにも、別に怒っていませんよ」

「それは有難いですな。晴宗についてですが、しばらく父に預けようと思います。晴宗から見れば祖父になりますか」

「となると先代ということですか?」

「そうなりますな。ツガル家の歴史の重みを教えるのに父ほどの適任者はおりませんから」


 直弼や晴宗、その他の男の子たちを見る限りでは、ツガル家は順調に武人としての気質を引き継いでいるらしい。

 その家系の中で恐らくもっとも年を取って経験を積んでいるであろう先代に預けられるとなると、晴宗君も安穏としていられなくなるだろう。

 こちらとしては何も望んでいないのでどうしようと構わないのだけれど、ご愁傷様とだけ心のなかで思っておく。

 直弼にも何度も告げたように、このことに関してはこちらがどういう言うつもりは全くないのだから。

 

 晴宗がいた時にも同じように謝罪していたのだけれど、一人になってこうして同じようなことを繰り返したのは武家を統率する身として誠意を示したということだろう。

 それはともかくこのままの状態でいればいつまでも同じことを繰り返しそうだったのと、折角の機会なのでちょっと考えていたことを話してみることにした。

 既にアイリには伝えているのでいても良かったのだが、今更戻ってと言っても晴宗に疑われそうなので敢えて呼ぶことはしない。

「――それよりも一つ確認というか、提案があるのですがいいでしょうか?」

「提案ですか。それは勿論構いませんが、私だけでいいのですかな?」

「構いませんよ。必要だと思えば、後から身内の方々に話していただいてもよろしいです。あと聞き方によっては責められていると感じられるかもしれませんが、決してそのつもりはないので誤解なさらないように願います」

 一応の念押しのつもりでそう言ったのだが、直弼は表情を引き締め直してこちらを見てきた。

「――お伺いいたしましょう」

「そんなに構えていたいただく必要はないのですが――」


 直弼の身構える様子に苦笑しながらそう前置きをしてから、ダンジョンに拡張袋を置く案を提案してみた。

 ダンジョン運営は、ツガル家にとってもとても重要な産業の一つとなっている。

 これまでの長い間同じダンジョンを維持し続けてきた家の当主であるだけに、参考になる話も多く聞けると考えてのことだ。

 折角思いついた案も机上の空論になってしまっては意味がないので、ここは実務を行っている代表の意見をしっかりと聞いておきたかったというのもある。

 

 案の定、拡張袋をダンジョンのお宝として仕込むという話を聞くと、直弼は真剣な顔をしてしばらく黙り込んだ。

「――なるほど。そういうお話でしたか。確かに耳の痛い話ではありますな。数々の魔道具を提供していただいているのに、それを全く活かせていない……ですか。我々為政者の責任でしょうな」

「すべてがそうだとは思いませんが、君主という立場で存在している以上はある程度の責任はあるでしょうね。それに先ほども申しあげたとおりに、そんなことを責めるつもりで話したわけではありません」

「わかっております。割と研究しやすい拡張袋の大量放出ですか。確かにありがたいと言えるのですが、ユグホウラ様に利益が無いように見えますがよろしいのですかな?」

 言外に利益が出なければ長続きしないのではと聞いてきた直弼に、さすがだと思った。

「それですね。確かにユグホウラには直接的な利益はありません。長い目で見ればどうか、といったところでしょうか。それに、そもそも永遠に続けるつもりもありませんから」

「初期投資。安価に作れるものは他に任せて、さらに高度で高価なものを気軽に売れるようにしたいといったところですかな」

「ハハハ。さすがですね。勿論それもありますよ」

 魔道具で魔石を消費することによりマナの流動性を上げるという目的もあるが、そこまで話すとややこしくなるので話すのは止めておいた。

 

 敢えてそれ以外にもあると匂わせておいたけれども、直弼はそれ以上は自ら聞いて来るようなことはしなかった。

 ヒノモトの中で御家の当主ともなればほとんどの人種に頭を下げられる存在のはずなのだけれど、その謙虚さはどこで身に着けたのかと聞きたいくらいだ。

 もしかすると代々伝わっているという教えが役に立っているのかもしれないけれども、実際のところは当事者に聞いてみなければ分からないだろう。

 こうなってくると今も健在だという先代にも会ってみたくなったが、今回は都合がつかなかったらしいので仕方ないと諦めている。

 

 代々のツガル家当主の性格は横に置いておくとして、今は拡張袋の話が一番重要なことだ。

「ユグホウラの利益はともかくとして、ダンジョンへの拡張袋の仕込みについてはどうお考えですか?」

「――そうですな。高度な技術で作られた高価な魔道具は、為政者に独占されて技術の拡散にはいたらなかったので、今度は安価なものを大量にダンジョンに仕込むわけですな。ですが、それすらも握られてしまっては?」

「拡張袋は安価で大量に作れることが利点でしてね。やろうと思えば一度に一万の数を各地にあるダンジョンに仕込むことも可能だったりしますが、どうでしょう?」

 一度に一万という数を仕込めると聞いて、さすがに直弼は驚いた表情を見せていた。

 ダンジョン自体は小さなものから大きなものまで千以上は確認できているので、各地にいる眷属を使えば一万という数は簡単に仕込むことが出来る。

 問題はどうやって宝物として仕込むかどうかだが、それは幾つか思いつく方法は思いついている。

 

 一番の問題点をクリアしていると分かった直弼は、それならもっと具体的な話ができるとさらに詰めた内容を聞いてきた。

 それに一つ一つ答えていくと、机上の空論だった計画がにわかに現実味を帯びてきた。

 これなら何とかなるかもというところまで直弼と話をしていると、いつの間にか太陽が沈みかけていて空が見事な夕日になっていた。




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m(__)m

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