(10)ツガル家当主

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 ツガル家の本拠地は、北の港町から内陸に一日かけて行った場所にある。

 何故そんなところに重要な町を置いているのかといえば、港からすぐに攻められることを防ぐという目的もあるのだが、もっと重要な理由として町の近くにダンジョンがあるからということが上げられる。

 ダンジョンから取れる各種素材は重要な資源として取引される。

 ツガル家はその素材から得られる資金をもとに、広大な領地を治めているのだ。

 ちなみにこのダンジョン一周目の時には発見されていたもので、今までの間ダンジョンのままずっと維持されていたことになる。

 中には名誉欲に駆られてダンジョン自体を『終わらせる』冒険者も多い中、これだけの期間維持し続けているというのは驚異的ともいえる。

 それだけツガルの地では、ツガル家の力が強いということの証左でもある。

 無頼者というイメージの強い冒険者をしっかりと制御できているということは、ツガル家自体が常に色々な意味での力を維持し続けているということの裏返しともいえるかもしれない。

 

 アイリからの連絡がしっかりと行き届いているのか、ツガル家の出迎えは思ったよりも控えめだった。

 一応当主一族が外に出て出迎えていたけれど、屋敷の外からは見えない(そもそも門から屋敷まで遠い)ので、それが理由で町の住人に騒がれることはないだろう。

 現ツガル家当主の名前は津軽直弼で、細身の身体ながら外からでもしっかりと鍛えられていることがわかる。

 俺が知る時代よりもさらに戦が少なくなっているようだが、未だに武人という習慣……というか考え方は残っているようだった。

 

 出迎えに来てくれたアイリの家族は当主とその奥方が三人、その子たちが合わせて十人以上となっていた。

 さすがに一度に全員分の名前を覚えることはできなかったけれど、特に子供たちの中には俺のことがよくわかっていない本当の意味での子供もいたので構わないだろう。

 それよりも唯一アイリより年上の男性(男の子?)がいて、それが次期当主候補でありアイリの兄でもある晴宗だった。

 晴宗もまた父親に似て武人の雰囲気を出していたが、見た感じではまだまだ実力的にも父親には追い付ていないように見えた。

 

 簡易的に家族の紹介を終えてから室内に入ったのだが、その時には当主である直弼と次期当主である晴宗以外はいなかった。

 政治的な話をするかもしれないという直弼の配慮もあるのだと思われる。

 もしかするとアイリが事前に伝えていた可能性もあるのだけれどね。

 どちらにしても人数が減ったことで、話がしやすくなったことは間違いない。

 

 勧められた椅子に座ってそんなことを考えていると、直弼がこう切り出してきた。

「アイリの言うとおりに控えめにしましたがあれでよかったのでしょうか? 晴宗にはあなた様のことは伝えてあります」

「出迎えのことでしたらあれで十分ですよ。それから俺のことですが、どう聞いていますか?」

「アイリからの手紙だと精霊様の生まれ変わりだと。その手紙を持ってきた眷属様からは、始まりの方々が大切にされているお方だと」

「なるほど。率直にそれを聞いてどう思われましたか?」

「どう、と言われますと……? なるほど、そういうことですか。キラ様。我がツガル家からすれば、始まりの方々がお認めになっている。それだけで十分でございます。生まれ変わりの真偽については二の次のことです」

 俺の疑問を理解した直弼は、きっぱりとそう断言してきた。

 生まれ変わりのことを信じたのではなく、ラックたちの行動を見て対応を決めていると聞いてなるほどと納得できた。

 少なくとも一般的には本当にあるかどうかも分からないとされている生まれ変わりのことを信じるよりも、よほど信用が出来る。

 

 きっぱりと断言している直弼はいいとして、少し問題なのはその横に座っている晴宗だ。

 直弼からどう聞いたのかは分からないけれども、どうにもこちらに向けて来る視線が胡散臭げなものを見ているように見える。

 アイリに向けている視線は普通に仲のいい妹を見るものに見えるので、これはやはり俺か俺たちのことを信じていないということだろう。

 ある意味では当然ともいえる態度だけに怒りもわいてこないのだけれど、父親(直弼)からどう話を聞いたのかは疑問に思う。

 

 この二人の差は一体何だろうと疑問に思っていると、直弼と晴宗の少し離れた背後にあるちょっとした棚の片隅に小さな生き物が動いているのが見えた。

 その小さな生き物である蜘蛛は、器用に足を動かして魔力を使って文字を書いていた。

 それによると晴宗は始まりの方々である第一世代の眷属のことについては、あまり詳しく教わっていないそうだ。

 ユグホウラの眷属に世代があることはわかっていても、どれほどの力の差があるのかというところは一般的な知識と差がないとのこと。

 

 その説明を見て納得できたので、直弼の言葉に頷きつつこう切り出してみた。

「そうですか。それでしたら晴宗様のこちらを見る視線も納得できますね」

「晴宗……?」

「……お兄様!!」

 アイリはツガル家の人間として直弼や晴宗が座っている側の席に座っているので、見えなかったのだろう。

 晴宗が胡乱気な視線を向けていたことに気付いたアイリが、少し慌てた様子で注意をしていた。

 

 その兄妹のやり取りで直弼も状況に気付いたのか、すぐさまこちらに対して頭を下げてきた。

「――申し訳ございません。息子にはしっかりと話をしたつもりだったのですが、教育も含めて色々と足りなかったようです」

「いいえ。特に気にしていないので大丈夫ですよ。むしろ晴宗様の対応のほうが普通ではありませんか」

「仰る通りですが、我が家では許されないことです」

「そうですか。それは私が口を挟むようなことではありませんので構いませんが……それよりもツガル家では世界樹の精霊がどういう扱いなのかを詳しく知りたいですね。一応アイリからも聞いていますが、現当主の考え方を聞いておきたいです」

「息子に対する寛大な処置ありがとうございます。それから精霊様についてですが――」

 そう前置きをして直弼が語った内容は、ほぼアイリから聞いていたものと変わりはなかった。

 

 ツガル家が現在でも使用できている転移装置を始めとした魔道具の数々は、世界樹の精霊が家にもたらしたものであくまでも預かっているだけのこと。

 もし世界樹の精霊が返還を要求するのであれば、滞りなく返却するようにという家訓のようなものが伝わっているそうだ。

 それらのこと自体はツガル家の人間だけではなく、近しい者たちには伝わっていてほぼ一般化していると言っても過言ではない。

 そこからさらに直弼が語ったことによると、ツガル家当主には先代から引き継いだと同時にあるものを渡されるそうだ。

 それが何かといえば、代々の当主たちが記してきた手記を始めとした様々な文書である。

 特に世界樹の精霊と直接関わりがあった宗重からその孫までの手記は、代々の当主が必ず一度は写本をするほどに大切にされているらしい。

 そして宗重が記した手記を見て、何故あのような家訓が伝わっているのかを知ることになるそうだ。

 世界樹の精霊がいなければ、そしてその指示に従ってユグホウラが動いてくれなければ、間違いなくツガル家はお家断絶の憂き目に合っていただろうと。

 今もお家が続いているのは紛れもなく世界樹の精霊とユグホウラの存在のお陰だと、その手記を見て実感とともに知ることになるそうだ。

 

 あの宗重がそんなことをしていたのかと話を聞いて感心してしまったが、それがあったからこそ今でもツガル家には転移装置をはじめとした魔道具が伝わっていると思うと胸が熱くなってくる。

 宗重がどこまで見通してそんなものを用意していたのかは分からないけれども、今こうしてツガル家の当主と会話ができているのは間違いなくその手記の存在のお陰だと言えるのかもしれない。




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m(__)m

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