(9)移動中の会話

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 幸いにして船酔いの症状が出たのは数人で、それも軽いもので済んだようで、寝ている間に目的地であるツガル領の港に辿り着いていた。

 船酔いはもう完全に体質なのでどうしようもないとして、今後はどうするか悩むところだったが症状が軽かったことと翌朝起きた時にはきれいさっぱり消えていたことから様子を見ることになった。

 もしひどくなるようであれば、船での旅は諦めることも選択肢に入れている。

 そもそも船旅は完全に俺個人の趣味なので、船酔いしやすい仲間がいるのに無理を押して続けるつもりはない。

 転移装置を使えば一瞬で遠くに行けるので全く必要ないのだけれど、それだと味気がないと思うのでできれば船旅は続けたいところ。

 この世界に来る前の日本でも旅は移動も含まれると考えていたので、それが今でも反映されているといえる。

 とはいえいくらオーパーツに近い技術レベルで作られている船とはいえ、前の世界の船よりは確実に遅いので船での移動にかかる時間は相応になる。

 全ての移動を船で行っているといくら時間があっても足りないので、必要なところでは今後も転移装置を使って行くつもりだ。

 

 船が港に着いた時点ではまだ早朝だったので、さすがに迷惑をかけると考えて降りるのは陽が完全に登ってからにした。

 今回は荷物を下ろす予定もなく、人だけが下りるのでそんなに時間もかからない。

 これからしばらくは陸地を移動することになるので船とはおさらばになるけれど、こちらの移動に合わせて船も逐次移動することになる。

 連絡方法は着いて来ている眷属が遠距離通信を使えるので、全く問題ない。

 

 そして港町では泊まることなくそのままいつもの馬車を使ってツガル家の本城がある町へと向かった。

 港町でゆっくりしなかったのは、最初からそのつもりがなかったことと一泊する意味合いがほとんどなかったからだ。

 その理由は、翌朝馬車の中で与えた部屋から起き出してきたアイリがアンネリに向かって言っていた。


「――これは随分と便利ですわね。町で一泊しないと言った理由がよくわかりました」

「やっぱりそう思う? 下手な宿屋よりも寝心地がいいものね」

「それもありますが、個人の部屋をしっかり用意できるのもあり得ないと思いますわ」

「それもねー。もう何でもありと思ったほうがいいわよね」

「いやいや。さすがに何でもありというのはないから」


 アイリとアンネリの思考が危険な方向に進みそうだったので、さすがに口を挟むことにした。

 確かに魔法を使えば何でもできると思われても仕方ないかも知れないけれど、魔道具には幾つかの制約があるので何でもできるということはない。

 もし今の時点でなんでもできる道具を作れるのであれば、アイが喜んで持ってきてくれているはずだ。

 例の猫型ロボットのポケットのようななんでも取り出せる万能道具があればと確かに思わなくはないが、さすがにそれは不可能と言わざるを得ない。

 

 そのことは説明すれば納得してくれたからいいとして、誰かを馬車に招待するたびに驚かれて説明することにも飽きてきた。

 今の世界の技術レベルを知れるので良いと言えるのだけれお、毎度毎度同じことの繰り返ししか起こらないので面倒にもなって来る。

 とはいえ毎度驚くのは初めて招待した人間だけなので、いきなりこちらが怒り出すわけにもいかない。

 結果として毎回説明する羽目になっているわけで、どうにかしたいと思ってしまうのも仕方ないだろう。

 

 とはいえ技術レベルの向上は一応目標の一つとなっているので、そうそう簡単にクリアできる問題ではない。

 せめて物をより多く入れることができる拡張袋くらいは、簡単に手に入るようにした方がいいかも知れない。

 となるとどうやってその拡張袋を手に入れるようにするかだけれど……。

 幾つか思いつく手段はあるけれども、今すぐに実行できそうにない。

 

 さてどうするかと悩んでいると、アンネリが話しかけてきた。

「何を悩んでいるのよ――って、アイリが気にしているわよ。私はもう慣れたから良いけれど」

「ああ~。またやっちゃったか」

 俺には、何か考え事があると黙り込んで真っすぐ前を見ながら音を出さずに口を動かす癖がある。

 その時の仕草が少し怖いとアンネリに言われたことがあるのだけれど、アイリもやっぱり気になったようだ。

 とはいえ自然に出てしまう癖なので、直そうにも直せないのがもどかしかったりする。

「無理に直そうとしなくてもいいと思うけれどね。知っている周りが教えてあげればいいだけのことだし。それよりも何を考えていたのよ?」

「いや、あのね――」

 そう前置きしてから考えていたことを話すと、アンネリはため息を吐いた。ちなみに、彼女の後ろで話を聞いていたアイリは戸惑った表情を浮かべていた。

 

「――全く。あなたはどうしてそう少し目を離すと常識外れのことを考えだすのかしらね」

「ええ~。そんなに常識外れだった?」

「それはそうでしょう。誰が世界の技術レベルを上げるために、拡張袋をダンジョンの宝として仕込むなんて考えるのよ。普通はどこかの権力者に渡すとかするんじゃないの?」

「それは駄目だよ。というか、既に実行済みだけれど全く意味がなかったみたいだからね」


 実行済みだと言うと、権力者に近い場所にいた(る)二人はどういうことかという表情になった。

 そしてすぐに気が付いたのは、アンネリ……ではなくアイリだった。

「もしかして、ユグホウラの交易品ですか?」

「正解。交易している相手国の技術レベルが上がることを期待して、幾つかの魔道具も一緒に送っているんだけれどね。一向に変わっていないみたいだからね」

「キラ。それはさすがに無茶よ。あの魔道具は、レベルが高すぎて解析すら不可能なのよ?」

「そうみたいなんだよね。さすがに五百年経っても不可能だとは思っていなかったよ」

 人族の技術レベルを上げようと考えていたのは何も二周目に入ってからのことではなく、一周目の後半には考えていた。

 それもあってわざと高度な魔道具を使って『梱包』した交易品を他国に送ったりしていたのだけれど、残念ながら効果は全く出ていなかった。

 二周目になってからは辺境伯の態度を見て現状を知ったわけだが、あまり芳しくない状況だということは理解している。

 

 そもそも一周目の時の技術レベルの向上はそこまで熱心にやっていたわけではなく、出来たらいいな程度の考えだった。

 それが掲示板での議論もあってできれば早めにクリアしておきたいという気になっている。

 正直なところ魔物にもなることがあるこの世界で、人族のレベルを一方的に上げると後々自分の首を締めることになりかねないのだけれど、他に手掛かりがない以上は進めないという手はない。

 だからこそ有効的な手段を考えていたのだけれど、二人が止めるということはダンジョンに潜ませるのは止めておいたほうが良いということだろう。

 

 五百年という数字を聞いてアンネリと顔を見合わせてから、アイリが言ってきた。

「もし人族の技術レベルを上げたいと本気でお考えなのであれば、お父様としっかりと話し合ったほうがよろしいですわ」

「一つの権力者に片寄らせるとろくなことにならない……と言いたいところだけれど、それもありといえばありかな。とはいえ一応こっちも本当に相談していいのか見極めさせてもらうけれど」

「それは当然ですわ。こちらも同じでしょうから。無条件に信用しろなんてことを言う権力者は信用してはなりません」

 アイリはそのセリフを自分に言い聞かせるように言っていたので、もしかすると家訓かなにかなのかもしれない。

 とにかくまずは会ってみてそれから判断するということにアイリも異論はないようなので、しっかりと確認させてもらうことにした。




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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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