(8)ヒノモトの現状

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 ダークエルフの長と巫女頭と話を終えたあとは、転移装置を使ってユグホウラの造船所がある場所へと向かった。

 造船所がある地域は部外者完全立ち入り禁止で、厳重な警備が敷かれている。

 といっても陸から来るにはほかの町は遠すぎで、海から来るには戦力差がありすぎて近づくことすらできない。

 それが分かっていても定期的に来ようとする者はいるらしく、ちょうどいい警戒訓練場所にもなっているそうだ。

 何が何でもユグホウラの力の源の情報を仕入れようと動いている国やら組織も凄いと思うが、そもそも相手になっていないということに気付いていない可能性もある。

 造船所の防御態勢は、一周目の時につくられた時からほとんど変わっていないらしい。

 逆にいえば、ユグホウラ以外の勢力の技術レベルがほとんど進んでいないことを意味している。

 贅沢な悩みではあるが、それはそれで頭が痛くなるような問題だとさえ思う。

 

 世界の技術レベルの問題は置いておくとして、転移装置からほど近くにある海と近くに浮かんでいる船を見て子供組が目を輝かせていた。

 考えてみれば、三人はこれまでヘディンの町で暮らしていたわけで、大型船を見たのは初めてになる。

 川船しか見たことのない三人からすれば、その大きさに驚くのは当然だと思う。

 むしろ驚く三人を見て首を傾げているアイリの方がおかしいと言えるだろう。

 

「――子供たちは船を見たことがないのですか?」

「勿論あると思うわよ。でも生まれた場所が近くに川しかないからあそこまで大きな船は見たことがないのでしょうね」

「そういうこと。だとするともっと驚いてもよさそうな気もしますが……」

「あら。そうかしら?」

 いつの間にか仲良くなったのか、アンネリとアイリの会話に助け舟を出すことにした。

「ヒノモトはシーオみたいな大きな河川がほとんどないからね。そこまで大きな川船はないんだよ」

「そういうことね。それなら納得だわ」


 ヒノモトには大河と呼べるような大きな川がほとんど存在しないため輸送に使われるような船であってもそこまで大きなものはない。

 海で漁に出るにしても村単位で持っているものでも大きさはそこまでではないので、沖に出られる船ほどになればもっと驚いてもおかしくはないというのがアイリの言い分だ。

 アンネリからすればたとえ川船であっても一度に多くの物を運べるように、川船も川の大きさに合わせて大きくなっているので二人の間に感覚の差があるのは当然だったりする。

 

「シーオは、川船であっても大きいのですか」

「川の大きさに合わせてだけれどね。ヒノモト程度の大きさだったらやっぱり同じくらいの大きさだよ。ちなみに子供たちが住んでいた傍にあった川はそこまで大きくなかったよ」

「そうね。あの大きさだったら、あまり大きな船は入ってこれなかったでしょうね」

「そうですか。そういうことでしたら納得しますわ」


 具体例が傍に無いだけに言葉だけで説明しなくてはならないことが大変だったけれども、アイリも一応納得してくれたようだった。

 その間、子供たちは初めて見る海に感激して傍まで走り寄っている。

 ハロルドが着いて行っているので心配はしていない。……が、自由だね。君たち。

 大人への成長過程にあるトムも最初は止めていたようだったが、やはり初めて見るものに対する好奇心は抑えきれなかったようだ。

 それでもハロルドに確認を取っていたところは、きちんと教育を受けている結果と言える……かもしれない。

 

 そんな子供たちを見守りのんびり周辺を観察しながら船に乗り込んだ。

 この船は一周目を生きていた時に専用船として使っていたもので、いわばユグホウラを代表する船の一つとなっている。

 勿論これまでの長い間全く改良されることなく使われ続けたわけではなく、アイの系統による眷属たちが幾度となく改良や新造を繰り返している。

 それらの改良や新造がされるたびにテスト走行はされているが、それ以外にも乗組員たちの技術向上のために陸につなぎっぱなしということにはなっていない。

 もっともこの船に乗れる乗組員はユグホウラの眷属の中から厳選されて選ばれた者たちなので、新人が乗り込むということはほとんどない。

 旗艦となっているだけに乗組員に選ばれるだけでも名誉なこととされているため、海軍を目指す眷属の中では一番の目標となっているらしい。

 

 さて。船に乗り込んだ後は早速出航となるわけで、船が動き出した時には全員が喜んでいた。

 一番よくこの船を見ているのはアイリのはずだが、そもそも旗艦が動かすこと自体稀でヒノモトの住人であってもよほどのことがない限りは目にすることはなかったらしい。

 これからはこちらの都合でよく動かすこともあると思うので、目にする機会も多くなるだろう。

 アイリ自身は船に乗ってしまっているので、それどころではないのだが。

 

 船がエゾを出発したのは夕方の遅い時間なので、ツガル家の本家がある町に最も近い港には深夜か明け方にならないとつかない。

 何故そんな時間での出発を選んだのかといえば、同行者たちが大型船に乗るのが初めてなので船に慣れさせるためでもある。

 船の酔いに関しては当人にとってはどうしようもないことなので、こればかりは体験してみないことには酔うかどうかも分からない。

 酔ってしまっても寝てしまえばどうにかなるだろうという少々危険な考えの元、敢えて夜の間に航行することにしていた。

 

 幸いにして今回の同行者の中に極端に船に弱いという者はいなかったらしく、子供たちは元気に走り回ってさえいた。

 さすがに甲板で走り回って事故でも起こると問題なので、外に出た時には大人しくしているように厳しく注意しておいたが。

 ともあれ今後は船旅をすることもできそうなので、そういう意味では心の中でホッと胸をなでおろしていた。

 のんびりとした船旅は日本で生きていた時には中々できなかったことだけれど、一周目の時に味を占めて何度も利用していたのでこれからはこの船を活用して移動する機会も増やすつもりだ。

 

 そして子供たちが寝静まった夜には、アイリを中心として話し合いが行われた。

 何故アイリが中心かといえば、ツガル家をメインにしたヒノモトの現状を聞くためである。

 そのアイリの話によると、現在のヒノモトは七つの家から選出される征夷大将軍によって治められているそうだ。

 この世界のヒノモトには天皇家に当たるものは存在していないのに征夷大将軍なのかと不思議ではあるが、そこを突っ込んでも誰も理解してくれないので黙っておいた。

 

 七つの家は御家とも呼ばれていて、これから向かっているアイリが生まれた家でもあるツガル家も含まれている。

 征夷大将軍の選出方法は七つの御家からの推薦によって選ばれることになっていて、基準はその時代によって様々だそうだ。

 ちなみに一つの家から連続して選ばれることが無いように、法によって定められているらしい。

 そんな選出方法だと七つの御家の間で争いが絶えないようになる気もするが、実際のところは背後にタマモという強大な存在があるためさほど大きな争いになることは、少なくとも今までは起こっていないそうだ。

 

 アイリ曰く、タマモだけではなく今も健在なユグホウラがあるからだという話だが、ツガル家はともかく他の家ではどう考えられているかはまだ保留にしておいたほうがいいだろう。

 七つの御家が統括している地域は、それぞれ東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州と似通った区分けになっている。

 そこまでくると七つの御家は険悪な仲になっている家同士があってもおかしくはなさそうだけれど、どういうわけか武力に訴えるほど険悪になっている家は今のところないそうだ。

 俺自身が知る人の歴史を考えると不思議なところだが、その理由を知っていくこともこの度の目的の一つと考えると面白いかも知れない。




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m(__)m

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