(7)巫女頭

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 ダークエルフの長との話し合いを終えた後は、その足で世界樹の巫女たちを取りまとめている巫女頭の下へ向かう。

 俺が一周目を生きていた時にはユリアという女性がついていた地位になるが、当然ながら彼女自身は生きていない。

 彼女が亡くなる前に後継役を定めてその地位を継がせることを決めていたことは知っているけれども、しっかりとその意思は今でも続いているようだった。

 世界樹の巫女は何もヒューマンだけが成れるというわけではないので、巫女頭に就いた者の中には長命種もいたと思われる。

 そのため、今が何代目になるのかは分からない。

 もっともそれを聞いたところで何かがあるというわけではないので、聞くつもりもないのだけれど。

 大事なのはユリアの意思が今でも続いているということだと考えている。

 そういう意味では、今の巫女頭がどのような女性なのかは気になるといえるかもしれない。

 

 世界樹の巫女が暮らしている場所はダークエルフの里の一角にあるが、以前はホームの傍にあった。

 これは元は巫女の数自体が少なかったからということと、世界樹自体を神聖視して人族――というよりも眷属以外に近づくのを遠慮し始めたからというのがある。

 その流れ時代はユリアの時からあって、俺が知る限りではユリア自体も後年になるとホームに立ち寄ることはほとんどなくなっていた。

 ただほとんどといっても年に数回というレベルで、今みたいに完全に立ち入り不可となっているわけではなかった。

 

 現在巫女たちが暮らしている場所には二十人ほどが常駐しながら修行を行っているらしい。

 ただしエゾ内全体で見るとその倍以上の数が歪み探しの旅に出ているらしく、七十人近い数の巫女がエゾ内で活動しているということになる。

 ちなみに巫女たちがエゾ内を旅する間は、ユリアが行っていた時と同じように眷属を連れている。

 四十人以上の巫女が数人グループに分かれて旅をしていて、その護衛として眷属を配置しているのでユグホウラ側にとっても行軍の演習になるなどのメリットはあるようだ。

 

 ――という話を、アイリから紹介された巫女頭から色々と聞くことができた。

 今代の巫女頭は五十代近い女性(これは当たり前)で、巫女たちから絶大な信頼を得て今の地位に就いているらしい。

 周りにいる巫女からその様子はうかがえたが、彼女自身は「子供たちをお世話していたら懐かれたのよ」と言いながらコロコロと笑っていた。

 彼女の周りには一回りほど若い巫女もいることから、単純に懐かれただけではないことは明白だ。

 

 そんな巫女頭のところに来たのは、何もこれまでの巫女の歴史を聞きに来ただけではない。

 むしろそれよりも重要な話があって来ていた。

「――少しばかり話は変わりますが、よろしいでしょうか? 彼女についてなんですが」

 そう言いながら視線をクファへと向けると、巫女頭も納得した様子で頷いた。

「わざわざこの場に連れて来たから何かあるだろうとは予想しておりましたが……巫女としての素養があるということでしょうか」

「恐らく、そうなりますね。ただまだ歪みを見られたりはしていないようなので、実際はよくわからないといったところでしょうか」

「なるほど。では巫女としての素養があるかはこちらで調べるということでしょうか?」

「時間があればそれも良かったのでしょうが、すぐにでも本島へと向かうつもりですから……どうでしょう?」

「確認すること自体はそこまで多くはないので、小一時間もせずに調べることはできます」

「それでしたらお願いしてもよろしいでしょうか」

「承りました。――ですが、巫女の素養があるかどうか分からないのに、こちらに連れて来た理由は?」

「この場にいるのはおまけです。確認したかったのは、緑の魔力を見ることが出来る巫女はどれほどいるのかということでして……」

 その言葉に、巫女頭は初めて驚いたような表情を浮かべていた。

 聞けば今現在エゾにいる巫女に中に、緑の魔力を見ることができる者はいないのだそうだ。

 

 さすがにそれは予想していなかったので俺も驚いた。

 一周目を生きていた時には、ユリアを含めて知っている限りで十人近くは緑の魔力を見ることができる巫女がいたので、てっきり今でもいるだろうと考えていたのだ。

「これは言い訳になってしまうかもしれませんが、かつて精霊様がおられた時には緑の魔力を使っているとはっきりわかっていたのですが、今では本当に緑の魔力かどうかが判別できません」

「ああ~。そういうことですか。何か他と違う緑色の魔力だと分かっていても、それが本当に緑の魔力か分からないといったところですね」

「その通りです。単に使った魔法が緑色に見えるだけでしたら、効果によって緑に発色するエフェクトがかかることはありますので」

「そういうことなら納得しました。五百年も真偽を確認できなければ、いなくなったと結論付けられても仕方ありませんね」

 改めて五百年という歳月を感じつつ、緑の魔力についての現状がわかった。

 そうした事情に加えて、別に緑の魔力が見えなくとも巫女としてやっていくことができることも、現在緑の魔力を見ることができる巫女がいないという状態に拍車をかけているはずだ。

 巫女の仕事のメインはあくまでも歪みの処理であるので、そうなってしまうのもやむを得ないとは思う。

 

 クファに緑の魔力が見えると言ったところで、巫女頭の周囲にいた他の巫女の視線が集まった。

 それだけの視線にさらされてさすがのクファも怖気づいてしまったのか、少し身をすくめていた。

 視線を集めるという意味では孤児だった時から別の意味で経験はあったのだろうが、感心を含めたものは初めてだったのだろう。

 これから先、修行を進めればもっと注目を集めることになる可能性もあるので、このまま慣れていって欲しいところだ。

 

 そんなことを考えていると、巫女たちの視線はトムとオトに集まる。

 そんな巫女たちを代表して、巫女頭が問いかけてきた。

「そちらの子が巫女……候補ということは、そちらの二人も?」

「ああ、いえ。さすがに巫女と呼んでいるのに男がなることない……と思います。少なくともこの二人は違いますよ。ただしオトには緑の魔力が見えているようで、今は訓練中です」

「なんと……!? ということは、キラ様と同じということでしょうか?」

 緑の魔力が見えているからすぐに巫女だと結びつけるのではなく、今の俺と同じかと聞くところがさすが巫女を束ねている存在だと言えるかもしれない。

「それも含めて確認中といったところでしょうか。正直、二人ともまだまだ訓練中なのでどうなるのかは分からないのですよ」

「そうですか。出来れば色々とお話をお伺いしたいところですが……キラ様の行動を縛ることになってしまうので止めておきましょう」

 

 巫女頭自らそう言いだしてくれたので、内心では正直助かったと思っていた。

 眷属たちがいるので直接的なことを何かしているとは考えていなかったけれども、話を聞くという名目で長時間縛り付けられる可能性はあった。

 一応、元世界樹の精霊(の生まれ変わり)ということで敬意を示してくれてはいるが、それがどこまで通じるかは分からない。

 少なくとも眷属たちのように絶対の信頼というのは持っていない……ように見える。

 もっともそれは俺の勘違いで、俺に対して不利益になるようなことは一切しないということも考えられるのだが。

 

 人族の思いや考え方など移ろいやすく時とともに変わっていくものだということはよくわかっている。

 だからこそ敬意を示してくれている相手にも、一定の警戒はしないといけない。

 それは巫女頭も分かっているのか、こちらに対してどこか一線を引いているように見えるのは決して気のせいではないのだろう。……たぶん。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


※※注)

話の流れで後半では巫女頭が裏切るかのような展開になっていますが、今のところその予定は全くございません。あくまでもキラの身構え的な話になります。


この時点でネタバレっぽいことを書くか悩みましたが、皆さまに変に期待させたり身構えさせたりするよりはいいかと考えてここでお知らせすることにしました。

ご了承ください。m(__)m



是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る