(5)長と巫女

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 クインから迂闊だと指摘を受けた巫女の女性――アイリは、完全に折れたとのことをユグホウラの重要人物と認識を改めたようだった。

 ただしクインやラック、それからランカが、ユグホウラでどの程度の地位にいるかは分かっていないようだった。

 人に化けた魔物を見分ける能力は持っていても、その相手がどの程度の力を持っているかまでは見抜けないらしい。

 ちなみに眷属は一部例外を除いて世代が増えるごとに力が落ちていくので、相手の持っている力を見抜けばその地位も分かるのだけれど残念ながらそこまで見抜く方法は今のところ見つかっていないそうだ。

 人族からすればユグホウラの眷属の力は、ある一定(第三世代くらい)を超えれば『人知を超えた強さ』になるらしく、それ以上を細かく見分けるのが困難になるそうだ。

 俺の場合は一周目の経験があるお陰かある程度の見分けはできるのでそんなものかと思うのだけれど、アンネリたちはなるほどと納得していた。

 ホームに来てからは、事あるごとに眷属たちの世代を教えたりしているが、残念ながらよくわからないという答えしか現状は返ってきていない。

 アイリの説明を聞いて納得するアンネリたちを見て、ようやくそういうことかと納得できていた。

 

 そんなことを考えつつアイリに案内されて、目的地へとたどり着いた。

 そこでは既にダークエルフの長が待っていて俺と視線が合うなり深々と頭を下げてきた。

「――ようこそお戻りくださいました」

「あ~。それについては中で話をしましょうか。ここだと目立ちすぎるんじゃないでしょうか?」

「承知しております。準備はできておりますので、入りましょう。それから巫女アイリも来るように」

「……はい?」

 俺に対する長の対応に目を丸くして驚いていたアイリだったが、何故か自分が呼ばれてさらに驚いていた。

 その驚きには、何故自分が呼ばれるのかというものと本来巫女に対して指示できる立場にはない長がそう言ってきたことに対するものが混ざっている。

 もっとも後者に関しては、長がすぐに「巫女頭の許可は貰っている」と言って納得していたのだけれど。

 

 長に用意された部屋では、少し人数を減らして話をすることになった。

 さすがに子供たちには聞かせても意味がない話が続くことになるので、最初からいない方がいいと考えてのことだ。

 トム辺りはやっぱりのけ者になるのかと少し不満そうな顔をしていたけれども、ハロルドに睨まれてすぐにオトとクファを連れて別の部屋へと向かっていた。

 オトとクファの面倒を見るのも重要な仕事だと思っているので、トムも腐らずにそこは手を抜かずに頑張ってもらいたい。

 

 というわけで部屋にいるのは、俺とアンネリ、ハロルドとラック、クイン、ランカの眷属組、それから長を含めた三人プラスアイリとなっている。

 ちなみにダークエルフの長は、初めて会う人物になる。

 ヒューマンと比べて寿命が長いといわれるダークエルフとはいえ、平均すれば二百五十年ほどで長くても三百年程度と言われている。

 今の長はこの里に来た時にいた長から数えて三代目となっているらしい。

 

 名前は初代と同じギフで、これは別に偶然とかそういうわけではなく、長になったものは必ずその名を継ぐ習慣があるからだそうだ。

 ダークエルフには長男が継ぐという習慣はなくその時に選ばれたものが長になるので女性が長に就くこともあるそうだけれど、その時も名前はギフになる。

 ダークエルフにとってギフという名前は性を持っておらず、そうした意味での違和感は発生しないとのこと。

 長だけに付けられる名前ではないギフという名は、逆にいえば男性にも女性にも普通に存在しているということになる。

 

 今代の長は男性で、俺に向かって再び頭を下げながらこう言ってきた。

「ご無事の御帰還、一同お待ちしておりました」

「それなんですがね。今の私は以前の『彼』とは別の存在ですよ?」

「そうでしょうか? それならそれで構いません。私どもにとっては、『始まり』の方々が同一と見ている。それだけで十分でございます」

 長が言った『始まり』というのは、第一世代の眷属のことで要するに世界樹から直接生まれた眷属のことを指している。

 長を含めたダークエルフには妖精だったころと今の俺の魔力が全く同じということは分かっていないようだけれど、眷属たちの態度ですでに対応は決めてしまっているようだった。

 世界樹の妖精だった俺がいなくなってもこれまでの間、関係性を全く変えようとしなかったらしいので予想できた対応ではある。

 

 シーオ地域で起こったこともあるので既に完全に以前のことを隠すつもりはないのでそれはいいのだけれど、あまり目立つつもりもないのでそれだけは釘を刺しておくことにした。

「それはそれで構いませんが、騒ぎになるようなことは……」

「承知しております。始まりのお一人から話を聞いたので、出迎えも出しませんでしたから。……必要でしたか?」

「いやいや。必要ありませんよ」

「そうですか。それは良かった。ただ民に知らせるのはお許しいただきたいです」

「それはまあ、構いません。さっき言ったことを守っていただければ」

「それは大丈夫でしょう。あなたが戻られたことを知るだけでも喜ぶでしょうから。……ただ子供たちに知られるとどうなるかは…………」

「ああー……。それは仕方ないでしょうね」

 俺も、無邪気な子供が喜んで近寄って来るのを拒否するつもりはない。

 仕事の邪魔をされて怒ったりすることはあるだろうけれど、そもそもダークエルフの里で何かの仕事をする機会も少ないだろうしね。

 大人たちが変に騒いで、居心地が悪くなるのを止めたいというだけのことだ。

 

 俺と長でそんな会話をしている中で、一人だけ戸惑った様子で状況を見ている者がいた。

 アンネリたち大人組には昨日のうちにプレイヤーのことは除いてある程度のことは話しているので、彼女たちは特に変わった様子を見せることなく話を聞いている。

 その戸惑っている一人というのは、例の特徴的な髪形をしたアイリだった。

 最初は戸惑いが大きかったらしい彼女は、今では完全に不審者を見るような感じでこちらを見ていた。

 

 俺の視線からか、アイリのその様子に気付いた長が苦笑交じりにこう告げた。

「巫女アイリ。戸惑うのは理解できますが、もう少し頭を柔らかくしたほうがよろしいですよ」

「長。さすがにそれは厳しい言葉かと。常識で考えればあり得ないことでしょうから」

「そうですか? 輪廻転生の理念は巫女なのだから知っていて当然ではありませんか」

「それは……そう、なのかな?」

 思わず素が出てしまったけれども、確かにそうなのかもしれない。

 とはいえ目の前にいる普通の(?)ヒューマンが、元世界樹の精霊だと気付く者はほとんどいないだろう。

 

 それは長も理解しているのか、未だに疑問符を浮かべているアイリにはっきりと告げた。

「巫女アイリ。このお方は精霊様の生まれ変わりだよ。そう始まりの方々が認めているそうだ」

「――――そ、そんな…………!?」

 アイリは長の言葉を理解したのか、驚愕の表情を浮かべて俺と長の顔を交互に見始めていた。

 その顔を見れば、言っていることは理解できているけれどもその事実を飲み込み難いといったところだろうか。

 俺としてはむしろアイリのその態度が正しくて、長の受け入れ方が普通ではないとさえ思っている。

 

 正直なことをいえば、俺が世界樹の精霊の生まれ変わりという事実は、別に他人に信じてもらえなくとも構わないと考えている。

 それは、大々的に生まれ変わりとしてユグホウラのトップとして動いていくつもりはないので、他人が信じようが信じまいがどちらでも構わないという考え方から来ている。

 今ユグホウラを動かしているのは第一世代以下の眷属であって、自分が本格的にその上に復帰するつもりはない。




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m(__)m

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