(4)あまりよくない出会い

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 転移門を使って向かった場所は、世界樹に最も近いダークエルフの里だ。

 里といっても既にその規模は数千人どころか万に届く勢いにまで伸びているので、町と呼んでも構わないくらいの大きさになっている。

 わざわざ地上にあるとしたのは、地下にはドワーフたちが住んでいる集落があるのだけれど、こちらはどこにも公開していない情報なので今のところアンネリたちにも話してはいない。

 単純な距離だけでいえばドワーフの集落のほうが近いので、地上にある町としてはダークエルフの里が一番近いということになる。

 どちらの町も例外を除けば外部の存在が入り込むことは稀なので、正確な位置を把握できているのは当事者のダークエルフとドワーフかユグホウラの関係者だけということになる。

 もっとも正確な位置を知られたところで、どちらもエゾの中央付近にあるのでそこまで入り込む前に眷属たちに見つかって適切に『処理』されることになる。

 ダークエルフの町もドワーフの里も今ではどちらもユグホウラの貴重な交易品を作り出しているので、その技術なり財産なりを狙っている輩は多くいるらしい。

 距離的に一番近いヒノモトがそこに加わっていないのは、国が独占的に大陸への輸出を行っているためということもある。

 

 ダークエルフの里を訪ねる理由は二つある。

 一つはダークエルフの長に会って、以前から懸念されている問題について話をしてほしいと眷属に言われたいたそうだ。

 その問題というのが、今ある里だけではなく別の場所に小さな分村のようなものを作れないかと打診されていることになる。

 魔物の大国であるエゾという立地上、内陸部で万を超えるような都市を維持するのは中々難しく、そろそろ一つの町で対応することが難しくなっていたらしい。

 それならさっさと別の村を作ればよかったと思わなくもないのだが、どうもエゾの地は世界樹の土地という考えが眷属たちにもあるらしく、中々許可を出せなかったそうだ。

 そのため里の中で人が増え過ぎた場合は、セプト(小樽)やノース(函館)に人を送ったりして対応してきたようだ。

 ダークエルフの中にも里に籠っているのではなく外に出たいと考える者は一定数いるのでこれまで問題らしい問題は起こっていないけれども、やはり場当たり的な対処法ではなく根本的な解決策と欲しがっているといいうことだ。

 別にかつていた現代世界のように人口が増え過ぎた結果自然破壊が進みまくるなんてことならない限りは土地の開発も必要だと思うので、分村を作ること自体は全く問題ないと考えている。

 ただし別れた村と争いが発生するようなことが起こるのは問題なので、その辺りのことには眷属たちが口を挟めるようにしたいといったところだろうか。

 

 もう一つの理由は、ダークエルフの里の一角に作られている様々な種族の女性だけで構成されているとある組織にある。

 何故女性だけなのかといえば、単純にそれが巫女たちの集まりであるからだ。

 世界樹の巫女と呼ばれる彼女たちは、ヒノモトの各地から世界樹に一番近いと言われている里に集められて修行を行っている。

 この五百年の間に男性の何かしらも増えているかもしれないと淡い期待を抱いていたけれど、残念ながらそういうことはなかったようだ。

 今後は俺もそうだがオトのような存在が見つかるようになれば、女性だけという偏った現状からは改善していくかもしれないが。

 ちなみにこの巫女の集団には、明確な名前は付けられていない。

 というよもこの里に集まっている巫女たちは、ヒノモトに存在している各神社から集められていてそれぞれ祀っている神が違っているので、一つの集団だというよりも修行場として認識されているということがある。

 敢えていえば世界樹を神の一柱とした集まりともいえるのだろうが、この集団のトップに立っている代々の巫女頭が明確な指揮系統を作ることをしてこなかったので、ふわりとした状態であり続けていたりする。

 それはそれで一つの形なので否定するつもりはない。

 

 それで何故この組織に用があるのかといえば、クファの存在が大きい。

 五百年という歳月はやはり長いので、俺なんかよりも巫女を育てるノウハウはその組織の方が多く持っているはずだ。

 場合によっては一定期間預けるということも考えているのだけれど、それだとオトと離れ離れになるので当人が拒否するかもしれない。

 どちらにしても一度はきちんと会って話を聞いてみたいと考えていたので、ちょうどいい機会だといえる。

 

 というわけでまずは長の屋敷に向かおうと転移装置のある場所から移動し――ようとしたところで、とある女性の声で止められることとなった。

「あなたたち、お待ちなさい!!」

 その声の方に視線を向けると、その声を発したと思われる年頃の女性が二人のさらに年下の少女を引き連れて、特徴的なドリル装備の髪を揺らしながら少し目を吊り上げてこちらを見ていた。

 ここで戸惑っているだけだと話が進まなそうだったので、代表して俺が対応することにした。

「……えーと。何でしょう?」

「何でしょうではありませんわ! ここは世界樹の御許へと繋がる転移装置のある場所。そのようなところで、あなたたちは何をしているのよ」

 その言い分を聞いてなるほどと思った。

 服装から巫女だと分かるその女性は、俺たちが転移装置を不正に利用しようとしているか、もしくは何かを仕掛けようとしているのかと勘違いしているらしい。

 もっともそれをこちらが分かったからといって、相手の不信感をぬぐえるわけではない。

 

 これは早々に俺が対処するのではなく眷属に任せたほうがいいと判断して、ラックたちに視線を送った。

 その意図をラックはすぐに察して前に出てくれたのは良かったのだけれど、その次に出てきた言葉は少し予想外なものだった。

「それはこちらのセリフです。あなたは一体誰ですか?」

 ……えーと、ラックさん。誰が喧嘩を売れと言いましたか。

 

 そんな思いなど全く気にされることなく、その女性はこめかみに青筋さえ立てそうな表情になっていた。

「……なっ!? 私が世界樹様の巫女であることは、この素晴らしい服を見れば分かる事でしょう。それさえも分からないあなたは、一体どこの無知者ですか」

「おや。巫女であることなど分かっています。そうではなく巫女の中のその他大勢であるあなたが誰かを聞いているのですよ」

 話をしている様子を見ていて分かったのだが、どうもラックは彼女を揶揄って楽しんでいるようだった。

 

 それゆえにこの後の展開が分かって彼女のことが気の毒になった俺は、ラックを止めるように一緒に着いて来ていたクインを見た。

 このやり取りを聞いていたクインも多少呆れたいたのか、すぐにこちらの意図を理解して仲裁に入ってくれた。

「ラック、そこまでにしなさい。それからそちらのあなたも、仮にも巫女を名乗るのであれば私たちのことくらいはすぐに理解できるようにしないといけませんよ」

 さすがにそれは言い過ぎではないかと考えたのだが、何故か言われた女性は一瞬不思議そうな顔をしてからクインやラックを交互に見ながら段々と顔色を青ざめさせていった。

 後から聞いて分かったのだが、どうも里で訓練している世界樹の巫女たちは、ユグホウラの眷属のことを見分けられるように訓練しているらしい。

 その女性もしっかりとその訓練を行っているのか、クインやラックが第何世代であるかまでは分からなくとも眷属であるとすぐに理解できたようだ。

 

 その後はこちらに大抵平謝りする女性をなだめつつ、揶揄っていたラックを諫めながらダークエルフの長のいる屋敷まで案内してもらった。

 さすがに長の屋敷の位置はラックやクインも知っているのだけれど、最近の里の様子を知っている案内人を得ることができて良かったと考えることにした。




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m(__)m

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