(3)世界樹ショック

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 予定通りに転移装置でアンネリたちを驚かすことができたので満足したのは良いけれど、彼女は今、別のことでそれ以上に驚いていた。

 驚いているというよりも、圧倒されているといった方がより正確だろうか。

「――でっけー、木」

「上を見上げてもてっぺんが見えないよ、トムお兄ちゃん」

「ポカーン」

 トムの感想を皮切りにクファとオトがそれぞれの思いを言葉にしていた。

 もっともオトに関しては、それを言葉にする意味があるのかと疑問に思ったが。

 

 子供組が素直な感想を述べているのに対して、大人組は常識外の存在を見て言葉を失ったままだった。

「――正直なところ、転移装置の方が驚いてくれると思っていたんだけれどね。こっちのほうが驚いたか」

「驚いたいたかって、これを見て驚かない人はいないでしょう」

「お嬢様。私、これを見れただけで天国にいるはずの両親に良い報告ができそうです」

「ヘリ、落ち着いて。今あなたに天国に行かれては困るわ」


 そう主従コンビが軽いコントを繰り広げている一方で、ハロルドはいつもと変わらない表情のままジッと目の前にある木を眺めている。

 それなりに一緒にいる時間も増えてきたので、その態度がハロルドにとっての驚きだということがわかる。

「これが世界樹ですか」

「そうだね。世界を支える柱の一つ――だと言われている存在だね」

「確かにこれを目の前にしてみれば、その言葉が事実だと言われるのも納得できますね。まさか私自身の目で見ることになるとは思わなかったのですが」

「ユグホウラが世界樹を中心にした組織だということも知られているし、ここに向かうことも事前に言っていたのに、ここまで驚かれるとは思わなかったなあ……」

「これほどのものを見せられて驚かないはずがないじゃない。キラがおかしいのよ!」

 自分がもともと世界樹の妖精だったということもあるせいなのか、あり得ないくらいな巨大な大樹を見ても『凄いなあ』と芸術品を見るような感じで感心するだけで、アンネリたちのように極端に驚くようなことはない。

 もともと世界樹をその目で見る機会に恵まれることなんてほとんどないので、それが役に立つことがあるかどうかは分からない。

 

「――まあ、いいか。とりあえず今日はこのままここにある家で休むから、好きなだけ見ていればいいよ」

「私も一緒に参ります」

 世界樹の観察を止めてそう言ってきたハロルドだったが、そんな彼に首を左右に振ってから返した。

「いいよ。これからユグホウラの眷属と話をするから。来ても入れてもらえないと思うよ」


 多少冷たい言い方になってしまったけれども、ハロルドは素直に「そういうことなら」と頷いていた。

 ユグホウラの細かい内容については、アンネリやハロルドにも教えないことに決めていた。

 これは俺が勝手に決めたことではなく、今回の旅の道中でユグホウラのホームに向かうと教えた時に決めたことでもある。

 一周目を終えてから五百年たった今でもユグホウラの存在は人族の世界に大きな影響を与えていて、その内情はどの国も喉から手が出るほど欲しがる情報になる。

 そんな情報は知っていてもろくな目に合わないと分かっているので、下手に踏み込まないほうがいいだろうとお互いに判断した結果だ。

 中途半端に内情を知っているよりも、眷属に脅されて詳しいことは知れなかったと言った方が納得されると考えたということもある。

 

 外部からのお客様ということでメイド(侍女)役の眷属たちが張り切っているので、彼女たちに任せて俺はホームにある指揮所のような建物に入った。

 まあ指揮所といってもごく普通の木造の建物が建っているだけなのだが、一応第一世代の眷属たちが集まって話をするところになっているのでそう認識している。

 ちなみに二周目を始めて一度目に戻ってきて話をしたのもこの建物になる。

 外部からのお客様が泊まるための宿泊場所は、また別の建物になる。

 

 眷属たちとの話し合いは特に緊急事態が起こったということもないので、主にアンネリたちに関する話で終わった。

 あとは、今後ノスフィン王国と始まるかも知れない交易について軽く話しておいた。

 もっとも交易については現地でのやり取りになるので、ホームにいる眷属が直接関わることは少ない。

 エゾにいる人族のための嗜好品なりを手に入れる予定ではあるけれど、実際に必要なものがあるかも分からない。

 そこは現地で話をしつつ今後決まっていくことになる。

 そんな話を交えつつ久しぶりに眷属たちとの交流を深めていると、気付けばかなりの時間が経っていた。

 折角来たアンネリたちを大分放置することになってしまったけれども、彼女たちはメイド役眷属がしっかりともてなしたようで退屈はしなかったようである。

 

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 翌日は、少し遅めに次の目的地に出発することになった。

 向かう場所はユグホウラの造船所がある場所……の前にもう一か所寄る場所があるのだが、どちらにしても転移装置を使って行くので遅くなったところで問題はない。

 

 それよりも皆が揃って寝坊しかかっていたのには、さすがに少し笑いそうになってしまった。

 アンネリが恨めしそうに「ベットの質が高すぎよ」とぼやいていたけれども、確かにシーオの高級宿よりも質が高いものを使っているので気持ちは分からなくはない。

 ちなみにこの後行くヒノモトでは、それなりに高い金額を出せば泊まれる宿では普通に使われている寝具なので、特別いいものを使っているというわけではない。

 もっとも今後は俺が頻繁に出入りするかもしれないということで、メイド眷属たちが張り切って質の高いものを用意しようとしているらしい。

 

 ユグホウラの経済が破綻しない程度であれば好きにすればいいので、それは好きにさせていいと思っている。

 それはそれとして質の高い寝具のお陰なのか、全員が揃って長旅の疲れを落とした顔になっていたのには驚いた。

 特別なエンチャントを施した寝具というわけではなく、ごく普通のものだったはずなのだけれどこっそりと何かを仕掛けていたのだろうか。

 そう考えてクインにも聞いてみたのだけれど、特に何もしていないという答えが返ってきた。

 

 船のある場所に向かう前に行こうとしているもう一か所というのは、エゾにあるダークエルフの里のことだ。

 今では里と呼べないほどに人の数も増えているらしいので、今から行くのが楽しみになっている。

 ヒノモトにおいては俺の立場をある程度開示しても問題ないだろうということで、ノスフィン王国のときのようにひっそりと動き回ることはなくなった。

 むしろある程度の情報は開示して動き回ったほうが、トラブルが少なくなるそうだ。

 

 ヒノモトにおいてユグホウラの存在は特別なものであることに変わりはなく、はなから奪って富を得ようなんてことを考える者はいないそうだ。

 特に国家の上層部に関わる者ほどそう考えているそうで、それもこれもこれまでの長い年月の信頼関係があるからこそ、そうした意識が形成されているとのこと。

 下手に争って奪おうとするよりも、交易などで得たものを外に売るほうが長い目で見て利を得ることができると時間として理解しているのだろう。

 それもこれもヒノモトが一つに纏まっているからこそできることなので、以前のままの関係を残してくれているタマモには感謝したいところだ。




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m(__)m

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