(2)北へ

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 二周目を始めてから二度目の帰郷(?)は、大勢での帰還となった。

 眷属は除くとしても俺以外の全員が始めて来るというのは、当然と思うべきなのだろう。

 以前はともかく、現在のホーム周辺は人が立ち入るような場所ではなくなっているらしいので当たり前といえば当たり前なのだが。

 俺が一周目を生きていた時にはダークエルフや世界樹の巫女(や候補)たちも出入りしていたのだだけれど、今はそれすらも無くなっているそうだ。

 もともとは俺がいなくなったことで人族が寄り付かなくなっていった流れで、禁足地に近いような形になっているとのこと。

 眷属は俺がいなければホームに人族を呼ぼうともしなかったので、予想できていた流れではある。

 禁足地となった以降は、敢えて人族の出入りを認めなくなったようで下手に立ち入れば眷属の怒りをかうと恐れられるようになっている。

 この辺りの話は二百年ほど前に起こった出来事だそうで、それは今でも続いているようだ。

 

 そんな話をホームに向かうための転移装置がある場所へと進む道中に、アンネとの交代要員となったランカが話していた。

 今は二十代前半くらいの女性になっているけれど、本性がドラゴンだと知らせると全員が目をむいて驚いていた。

 シーオにおいてドラゴンは伝説の魔物的な扱いになっていて、見た次の瞬間にはこの世からいなくなっていることを覚悟するような存在らしい。

 それを聞いたランカが少しばかり不満そうな顔になっていたことに気付いたけれども、他の人は気付いていなかったことが面白かった。

 

「――そんな場所に私たちが向かってもいいのかしら?」

「……キラが良いと言っているんだから問題ない。反対する人は誰もいない」

「それならいいのだけれど……キラってやっぱりユグホウラの中でも立場的に上の方の人なの?」

「それは私から言うようなことじゃない。それに、いずれ分かる」


 考えてみれば、ユグホウラとの強い繋がりがあることは知られていても国でいえばどこまでの地位に当たるのかまでは教えていなかった。

 というよりも、今の俺がユグホウラでどの立ち位置に当たるのかは明確に決めていないので、説明することが出来ないというのが正確なところか。

 一応世界樹との直接の繋がりもあるので以前と変わらないといえばそうなのかもしれないけれども、以前のように世界樹そのものを操作できたりするわけではない。

 いってみれば、遠く離れた場所にあるコンピューターをリモートで動かしているような状態といえば分かりやすいだろうか。

 

 現状がそんな中途半端な状態なので、今回のホーム訪問とヒノモトへの滞在で何かしらの方向性が見つかればいいかなとも考えている。

 いっそのこと曖昧なままの方が良いのかもしれないという結論になるかも知れないが、それはそれで一つの方向性としては間違っていないとも思う。

 もっとも眷属たちは俺が何かを言えばその通りに動いてくれるので、対外的な意味では以前と立場は全く変わっていないともいえる。

 世界樹云々の話はあくまでも内部的な話なので、あまり世情には関係しないと言われればそれまでだと考えることも出来るのだけれど。

 

 俺がそんなことを考えている間も、アンネリとランカの会話は続いている。

 アンネリは基本的にどの女性眷属(第一世代)とも仲良くなっているけれど、ランカとは特に仲良くなっているように見える。

 ランカのざっくばらんな性格がアンネリに合っているのかもしれない。

 一周目を生きていた時にはあんな性格だったかと首を傾げるときもあるが、それはそれで一つの変化だと受け入れている。

 

「それにしてもヒノモトに向かうと聞いているけれど、何故私たちは東ではなく北に向かっているの?」

「……言ってなかった?」

「聞いていないわよ。もしかしなくても忘れていたのね?」

「わ、私だけが悪いわけじゃない。主も忘れていた」


 俺に対する二人称が『キラ』から『主』に戻っているところが昔を思い起こさせるけれども、さすがにそれを揶揄う余裕はなかった。

 何故ならアンネリの意味ありげな視線がこちらに向いていたから。

 

「あ~。いや、ごめん。すっかり説明した気になっていた。――というのと、一応ユグホウラの秘密に関わることでもあるからギリギリまで黙っておきたかったというのもある」

「それなら仕方ないわね。でももうそろそろ話してくれるのでしょう? もうこの辺りはユグホウラの勢力圏よね?」

「そうだね。そろそろいいかな。といってもここまで来たなら実物を見た方が早いかも知れないね」

「……まだ焦らすつもり?」

「それもなくはないけれど、本当に近いんだよ。小一時間もかからないくらいで着く――って」

 具体的な場所はさすがに分からなかったのでラックに視線を向けながら確認したが、それで間違いないと頷きが返ってきたのでそのままそれをアンネリに返した。

「そういうことなら確かに待っていた方が良さそうね。……ここで聞いてもいい気もするけれど。どうせ同じ風景ばかりが続くのでしょうし」

「そうなんだけれどね。折角だったら実物を見るまでお楽しみってことで」

「それじゃあ、素直に待つことにするわ」

 

 実物を見せると言ってもホームに向かうための転移装置は、外見がそこまで派手派手にしい見た目をしているわけではない。

 中を開ければこの世界の技術としてはオーバーテクノロジーの塊で技術者やら研究者がよだれを垂らして喜びそうな代物だが、さすがにそこまで見せるつもりはない。

 見せたところで理解できると思えないから、ということもあるのだけれどね。

 地味な見た目でがっかりするかもしれないけれど、それも含めて皆の反応を楽しみにするとしよう。

 地味な見た目でがっかりした後で、転移装置だと聞いてどんな反応をするのかが一番の見どころとなるはずだ。

 一部趣味が悪いという批判が来そうなことを考えていたが、眷属たちも同じようなことを期待しているのは皆の顔を見ればわかる。

 

 

 そんなこんなで大体の予定通りの時間に、目的地である転移装置が置かれた一角につくことができた。

 肝心のアンネリを始めとした同行者たちの反応は、やっぱりというかこれが何なのかという顔をしていた。

 転移装置といっても見た目は完全に四角い木の箱にしか見えないので、そうなるのも当然だと思う。

 もっとも人里離れた山の奥地にこんな『人工物』がある時点で普通の感覚からいえばあり得ないことなのだけれど、ユグホウラの勢力圏ということもあってこの程度の不思議は流されてもおかしくはない。

 

「――それでこれが目的のものなの? ……キラの顔を見ればそうだと分かるけれど」

「まあね。これ以上引っ張っても意味がないからちゃんと暴露すると、これ転移装置ね。あの四角い台みたいなところの上に乗ったら一瞬で目的地に移動できるから」

「…………………………………………はい?」


 随分と間があってアンネリから反応が返ってきたが、しっかりと言葉で受け答えできただけでもさすがというべきだろう。

 アンネリ以外はただ驚きの表情を浮かべるだけで、それ以上の反応もできていなかった。

 ちなみにアンネリの驚きが他より低く済んだのは、貴族の学校に通っていた時に噂としてユグホウラにはそうした技術があるかも知れないとまことしやかに語られていたからだと後から聞いて判明した。

 なんでもあちらの世界でいうところの七不思議的な扱いで話されていたそうだけれど、その話を聞いた時には代々語り継がれるような噂話は侮れないと妙なところで納得してしまった。




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※ちなみに今回向かった場所は、キラが最初にホームに戻った時とは別の転移装置がある場所です。


※※ヨーロッパと日本ほど離れていて言葉はどうなっているのと聞かれそうなので先に言ってしまうと、共通語が使われているという設定です。あっても日本の方言程度の違いで、お互いに意識して共通語(に近い発音や単語)を話すことはできます。

言語の違いを作ると面ど……ゲフンゲフン。読者の皆様が混乱するかと思いますので、分けるのは止めました。



是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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