閑話6 小料理屋にて

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 < Side:運営? 上司?(神視点) >

 

 通称「広場」の中央にあるデパートの一角に、料理人プレイヤーが営む小料理店がある。

 その小料理店はプレイヤーが一人で営んでいるわけではなく、その時々の都合によって料理長が変わる。

 もともと料理人プレイヤーは広場で自前の店を開いていたのだが、経営の対象となるプレイヤーの数が百人と限定されていることと自分の世界での生活もあるということから経営が統合されていった結果が今の形となっている。

 同じ店でも料理する人が変われば、当然のように味は変わる。

 一人の料理人の味に合わせるのではなく、それぞれのプレイヤーによって味が変わって来るのだが、逆にそれが新鮮だと人気になっている。

 ターゲット層が少人数で限定されているからこそできる経営形態だろうが、それなりに長い年月試行錯誤してきた結果ともいえる。

 

 この日も小料理店の人気は衰えることなく、お客は大入りとなっていた。

 その中のとあるテーブルでは、四人ほどのプレイヤーが酒を飲みつつ近況の話をしていた。

 そして四人の内の一人の鍛冶師プレイヤーであるハルが、ふと思い出した様子で木の人キラに話しかけていた。

 

「そういえば、キラ。例の頼まれていた剣ができたぞ」

「あ、そうなんだ。思ったよりも早かったな」

「俺じゃなくて弟子が作った物だからなあ。初めて魔法剣をお客に出せると張り切って作っていたぞ」

「ははは。弟子のためになったんだったら良かった」

 その二人の会話に、龍の人ことラッシュが首を傾げながら聞いてきた。

「今更キラのためにハルの弟子が剣を作ったのか。しかも何故剣なんだ?」

「いや。俺のためじゃなくてね。作ったクランの中に魔法剣士になれそうな冒険者がいたからね。彼に渡してみようかと」

「そういうことか。それなら弟子のものでも十分か。汎用品何だろう、ハル?」

「ああ。対面での確認ができない以上は、どのみちそうせざるを得ないからな。所有者制限なんかもつけていないぞ」

「いいよ。それで。誰かに目をつけられて捕られたら、そこまでの実力だったってことだよ。でも、ソロでCまで上り詰めた人だから中々そんなことにはならないだろうけれど」


 各プレイヤーが生きている世界はそれぞれ違った世界だが、文化レベルを含めた様々なレベルはほとんど差がないくらいに横一線になっている。

 当然のように冒険者ランクも似たり寄ったりなので、会話に齟齬が起こることはない。

 そのこと自体はプレイヤーにもメリットがあるのは良いと考えられるのだが、別のところで問題がある。

 一番大きいのは、各世界の住人たちのレベルがプレイヤー視線からすると低すぎるということだ。

 

「Cランクか……。ところでキラ、住人のレベルの底上げなんて本当にできるのか?」

「ああ。前掲示板で話題になったあれな。それが出来るのであれば今の停滞期も何か変わりそうな気もするんだが、どうなんだ?」

 ラッシュとハルのそれぞれの問いに、キラはため息交じりに答えた。

「あれもねえ。正直なところ分からないといったところが正直なところかな。使えそうな技術は秘匿することが常識になっているのがやっぱり痛いね」

「それは某も同じに感じていたでござる。出来るだけ多くの人に知ってもらいたことも、中々広まらないでござる」

 ここでキラに同意してきたのが、これまで黙々と料理を口に運んでいた侍プレイヤーのマサムネだ。

 

「あれもなあ。痛し痒しとしか言いようがないな。全体のレベルを押し上げるという意味では意識改革は必要だが、逆に余計な犯罪を押しとどめているという面もある」

「どんな奴でも剣を持ち歩ける世界だからこその弊害か。人族は人族で色々と面倒だな」

「だからと言ってお前みたいなやつに、レベルを下げてくれとも言えんだろう。ラッシュ」

「当たり前だ。というか、言われても困る。魔物側は魔物側で熾烈な生存競争があるからな。人族の平均に合わせていたら生き残るのも大変だぞ。俺たちみたいなのは除いて、だが」

 ラッシュの最後の呟きに反応して、キラが頷いていた。

「だよね。プレイヤーとその眷属となると何故か周りよりも強くなる傾向があるからね。イージーモードだからといわれればそれまでだけれど」

「今更ゲーム設定らしきものを持ち込まれてもなあ……。今のプレイヤーで生きている世界がゲームだと認識している奴ら、どれくらいいると思う?」


 長い間当たり前のように送り込まれた世界で生きてきたプレイヤーたちは、その世界がゲーム世界だなんてことを考えている者はほとんどいなくなっている。

 少なくともキラたちがいるサーバーにおいては、もしかするとゼロかも知れないといったレベルだ。

 そんな状態なので、今ではゲーム設定がどうのと言うプレイヤーもほとんどいなくなっていた。

 ただ『運営』が明確に存在している以上は、ある程度のテコ入れが入っているのだろうという予想は立てられたままだ。

 

「ゲームどうのは置いておくとして、住人のレベル向上だな。問題は。もしかすると今の停滞期の突破口になるかもなんて言われていたが、どうなんだろうな」

「住人の底上げが起これば討伐される魔物が増えて、マナの流動する量が増えるかもしれないって、あれか。正直よくわからないな」

「俺もラッシュの意見に同意見。もしマナの流動量が問題なのであれば、魔物同士で倒し合っている現状に説明がつかないと思うかな」

「そうでござるか? 魔物も同じレベルで推移していると考えれば、マナの流動量自体は変わっていないといえるのでは?」

「それも掲示板には書いてあったな。だが決定打にかけるか。ラッシュやキラは、それプラス他に何かあると考えているんだな」

「完全に想像の範疇だけどな」

「同じく。俺はもしかしてだけれど、ひょっとしたらそれに歪みも関係してくるんじゃないかと考えているよ」

 

 キラがそう言うと、何故か四人がいるテーブルだけではなく周りのテーブルに座っていた他のプレイヤーの視線も集まった。

 最初は両隣のテーブルのプレイヤーが黙っただけだったのが、その彼らがキラたちを注目するのにつられて他のテーブルのプレイヤーの注目が集まった形だ。

 

「キ、キラさん。それってどういうことですか!?」

「そこのところもっと詳しく!!」

 たまらず話しかけてきた他プレイヤーに、ハルが呆れた様子で首を振っていた。

「お前らなあ……。気持ちは分からなくないが、もう少し遠慮というものを覚えたほうがいいぞ。どうせここで話した内容は、掲示板に書かれるんだ」

 ハルのその釘刺しに、声をかけてきた二人は恐縮した様子でぺこぺこと頭を下げてきた。

 

 とはいえ周囲の注目が集まっている状況は変わらない。

 キラとしても隠すつもりはないので、気楽な調子で自らの考えを話し始めた。

「見ていると歪みとマナの関係は相互関係にあるような気がしてね。それだったらマナだけ動かしても意味がないんじゃないかと考えていただけなんだけれどね」

「そう言われてみれば確かにそうか。となると今後は歪み関係も強化していかなければならないってことだな」

「実際に思惑通りに行くかはきちんと検証しないと分からないけれどね」

 キラも確証を持って言っているわけではなく、あくまでも推論の一つだと念を押していた。

 それでも今後何をどうすればいいのかと悩んでいたプレイヤーにとっては、一筋の光明だったといえる。

 

 そしてその日のうちにキラが小料理屋で話した内容は掲示板に書かれることとなったが、住人の底上げ計画と同じように気の長くなりそうな話に、文字だけのはずである掲示板にプレイヤーたちのため息が漏れ聞こえて来たという。




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※これにて第7章は終わりになります。

 明日は一日のお休みを頂いて、新章は10/5からの投稿になります。


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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