閑話5 クランの一冒険者

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 < Side:ホーカン >

 

 俺の名はホーカン。クラン『大樹への集い』のメンバーだ。

『大樹への集い』ができたのは最近のことで、それまではソロで冒険者をやっていた。

 もっともそれだと限界だと分かってパーティを組もうかと考えていたところで、同じクランメンバーであるラウに声をかけられて入ることに決めた。

 ソロを極めようとそれなりの期間頑張っていたのだが、それがあだとなってパーティメンバーを探そうにも中々良縁に恵まれなかった俺にとっては渡りに船の誘いだった。

 勿論クランであればどこでも良かったというわけではなく、いくつかの候補がある中で決めたことだ。

 中には老舗のクランからも声をかけられたりしていたが、そういうところは古参の声が強かったりするので敢えて新参のクランを選んだということもある。

 

 俺に声をかけて来てくれたのはラウだったが、同じクランメンバーであるカールも既知の知り合いで入っていきなり居心地が悪いなんてことにはならないだろうと。

 ただ少し驚いたのは、俺はラウかカールのどちらかがクランのリーダーをやると考えていたのだが、別の冒険者がトップに立つと聞いた時だ。

 しかもその冒険者はヘディンに来て数か月しか経っていない人物で、何をどうすればラウやカールと知り合ってしかもクランのトップに立てるようになるのか不思議だった。

 一応クランに入る前に面通しのようなことが行われて会うことはできたが、その時は本当に冒険者をやっているのかと思いたくなるような優し気な雰囲気しか感じなかったから猶更だ。

 

 その認識が一変することになったのは、クランができる前に一度皆で軽くダンジョン探索を行おうとなった時のことだった。

 それはクランに入る予定だった初期メンバーのほとんどが集まった合同探索で数も総勢二十人以上集まったのだが、行程自体は一泊で終えるという一般的な常識ではありえない内容だった。

 通常それだけの人数が集まれば、長期滞在するのが当たり前だからだ。

 とはいえ、今回はあくまで全員の顔見世程度の探索なのでそこまで本格的に潜るわけではないと言われて納得したのだが。

 

 我らがリーダーの認識を改めることになったその探索だが、最初は当然のように(?)イメージ通りの印象しか受けなかった。

 何しろ起こる戦闘もほとんど他の参加者に任せていて、自分たちは必要ないとばかりにほとんど参加していなかったのだから。

 そんな態度でお大尽リーダーかと疑わなかったことが不思議だったが、よくよく考えてみれば戦闘自体は参加していなくても警戒などのやるべきことはやっていたからこそだと後から理解した。

 それにラウやカールがそんな人をトップに据えるわけがない、という考えも作用していただろう。

 

 とにかくそんなリーダーのイメージが変わることになったきっかけは、一日の探索の終わりに休息を取っていた時のことだ。

 二十人を超える人数の食事をしっかりと用意されていることに驚いていた時に、リーダーが突然話しかけてきたんだ。

「ホーカン……だったっけ? 珍しく剣と魔法の二つを使えるんだね」

「そうだが、それがなにか問題か?」


 俺は冒険者の中では珍しく、剣と魔法の両方を使って戦える。

 短距離攻撃になる剣と遠距離になる魔法がどちらも使えるからこそソロでここまで伸びることができたのだが、それは逆に器用貧乏になりかねないということでもある。

 多くの冒険者たちも最初は珍しがってくれるが、長くいるとどっちつかずと考えるようになっていく。

 ラウやカールは珍しいことにそうした考えを持たなかったからこそ、これほどまで長く付き合いが続いているともいえる。

 

 リーダーもその他大勢と同じようになるのだろうなと諦めつつ半ば挑発的に聞いたが、特にそれには反応せずに首を傾げていた。

「いや。問題とかそういうことじゃなくてね。折角剣と魔法が等しく使えるんだから、どうして魔法剣のようなものを使わないのかなって。今のままだったら剣も使える魔法使いか、魔法が使える剣士のどっちつかずじゃない?」

「いや、ちょっと待て。魔法剣ってなんだ!?」

 リーダーの言った後半の『今のままだったら』云々は、それこそ何度も他の冒険者から似たようなことを言われてきたからそれこそどうでもいい。

 それよりも聞き逃せなかったのは、魔法剣という初めて聞く言葉だ。

 

 俺のその言葉にリーダーは不思議そうな顔をして周囲を見回して、それに気づいたたまたま近くにいたらしいカールが笑いながらこう言ってきた。

「だからお前は、少し目を離すとすぐに常識外のことを言うな。俺も聞いたことがねえぞ。なんだよ。魔法剣って」

「あらら。そうか、あまり知られていなかったのか。エルゼは?」

「私も知らないわよ」

 リーダーはカールと一緒にいたエルゼにも確認していたが、当然のように知らないと言われていた。

 両方を使える俺が長い間試行錯誤したり調べたりして知らないことを、この二人が知っているはずがない。

 というよりも知っていれば、どこかのタイミングで存在くらいは教えてくれていただろう。

 むしろ俺が知らないことを知っているリーダーが気軽に話してくれたことの方が驚きだった。

 

 そんなリーダーは少し困ったような顔をしながら、

「うーん。困ったな。言葉で説明しても理解してもらえるかどうか……。アンネリ、剣を貸してもらえるかな?」

「これ? いいけれど、どうするのよ?」

「折角だったら目の前で実践したほうがいいと思ってね」

「それはそうだろうけれど……出来るの?」

「実際に戦闘で使うわけじゃないしね。試しにやるだけなら出来ると思うよ」

 軽い調子でリーダーが話をしていた美人な相手は、リーダーのパーティメンバーらしい。

 事前に彼女――アンネリが貴族令嬢であることは聞いていたので、どんなに美人でも手を出そうとするバカは今回のメンバーの中にはいない。

 貴族令嬢に手を出して問題になれば、火傷だけでは済まないことは成人した奴らならだれでも知っていることだ。……知っていても突撃するバカは一定数いるのだが。

 

 その貴族令嬢から剣を借りたリーダーは、ここだと危ないと言って少し離れた場所へと向かった。

 何を見せてくれるのかと当然俺も着いて行ったが、何故かカールやエリゼも着いて来ていた。

 リーダーが何を見せてくれるのか、興味があるらしい。

 なんでもリーダーは以前カールたちに同じようなことをしたらしく、今回も何かしら驚かせてくれることを期待していたそうだ。

 

 その後リーダーは、剣に魔法の属性を乗せた攻撃をしたり魔法そのものを剣撃化したりと今まで見たことのない攻撃方法を見せてくれた。

 確かにそれは魔法剣と呼ぶべきにふさわしいもので、それが今まで俺が長年探してきたものと合致するものであることに間違いなかった。

 それをたやすく使って見せてくれたリーダーは、間違いなくカールの言った通り常識外れの存在だと言っても過言ではないだろう。

 俺と同じように見ていたカールたちは笑っていたが、俺だけは笑えず呆然とリーダーを見てしまっていた。

 

 最後にリーダーは「こんな感じかな」と言いながらアンネリに剣を返していたが、つたない技を見せて申し訳なさそうな顔をしているその顔を見て確信した。

 リーダーは、しっかりしているように見えてどこか抜けているところがあると。

 こんな重要な話を何の見返りもなしにすることもそうだが、あんな実用的な攻撃をしたのに本職じゃないからと言って今後も実戦では使わないと断言するところもおかしい。

 もっともそんな攻撃手段を持っているのに使わないのは、他にそれ以上の手段を持っているからと知るのはしばらくしてからのことだ。

 

 

 ――――それよりもリーダー。

 魔法剣を使うにふさわしい剣を用意してくれたのは良いんだが、こんな高価(そう)な剣をポンと渡さないでくれないか!?




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m(__)m

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