(20)『大樹への集い』

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 < Side:キラ >

 

 国王との話し合いから半月以上が経過していた。

 話し合いの結果、『激流』ことヒルダは結局クランを作ることなくヘディンを去って行った。

 辺境伯家としてはユグホウラとの取引の窓口になれただけで良かったというところだろうか。

 ここで下手に利を主張すると、逆に何も得られなくなると考えたということもあるだろう。

 ヒルダはヘディンを騒がせるだけ騒がせて出て行ったわけだが、結果的には何も残さず立ち去って行ったともいえる。

 もともと作ろうとしていたクランは辺境から連れて来た子飼いの冒険者で構成しようとしていたらしく、ヘディンにいた冒険者には何の影響も残さなかった。

 

 もう一方の冒険者グループは、貴族の後ろ盾が無くなって当初の勢いが落ちてそこまで大きなクランにはならなかった。

 中級規模で落ち着くのではないかと見られていた規模も、蓋を開けてみれば二十人を少し超えたところで収まっている。

 四、五十人に届くかもしれないと言われていた結果がこれでは、中の人たちにしてみれば拍子抜けどころではないだろう。

 肝心のサポーターについても数人が金目当てに入ったくらいで、それ以上は集まらなかったらしい。

 

 そして肝心の俺がトップに立つことになった新しいクランについては、当初の予定より少し人数が多くなって三十人弱の冒険者が集まった。

 サポーターとその見習いについては二十人近く集まったので、人の数だけでいえば中堅クラスに届いたと言える。

 もっともサポーターは正式な冒険者とは認められていないので、中堅のクランとはならないのだが。

 クランの規模については俺は勿論のことカールとラウもこだわっていないようなので、実力をつけて結果を出すことができれば大きくなることもあると思う。

 

 ちなみにクランに入る特典のようなものとして、以前『朝霧の梟』や『夜狼』に教えた魔力の扱いについて教えることになっている。

 冒険者にとってみれば実力を伸ばせる知識として人気があるようだけれど、その知識について特に魔力で縛ったりはしていないのでクランの外に広まるのも時間の問題だろう。

 もともと多くの人に広まって構わないと考えてカールたちに教えたので、そのこと自体は大した問題ではない。

 問題があるとすれば、一応クランの独自技術として教えているものと簡単に外に出したことだろうけれど、その冒険者の人となりを知る上での踏み絵として役立つことになってくれると思う。

 

 クランの金銭関係については、パーティ単位や個人でギルドから直接依頼を受けた時にはこれまで通りそれぞれで受け取り、クラン単位で動いた時にはまずクランに入ってそこから各個人に分けられることになる。

 クラン単位の依頼は、パーティ人数を超える依頼を受けた時で必ず報告する義務を負わせている。

 これをせずに勝手にクランのメンバーを動かして金銭の分配を行った時には、それなりの罰を負わせることになっている。

 人間関係が崩れるときには金銭が絡む時が多いので、これに関しては厳重に取り締まっていくことになるだろう。

 

 そうした諸々の準備を済ませたところで、ようやく中核メンバーであるカールやラウと共に落ち着きを取り戻すことができた。

「――よし。これで何とか体裁は整ったかな?」

「俺としては事前にこれだけ準備が必要かと驚いたがな」

「だよな。あんなルールがある出来立てクランなんて聞いたことがないぜ?」

「金の切れ目が縁の切れ目じゃないけれどね。金銭関係は最初からルールを作って納得してもらってから入ったほうがいいんだよ」

 カールとラウの驚きと呆れが混じったような視線を受けて、改めて説明をしておいた。

「いや。納得していないわけじゃなくてな。むしろその逆だ。お陰で当初予想していたトラブルが大分減りそうだな」

「他のクランは勧誘するだけしておいて無理やり納得させるところも多いからなあ。古参のクランで元からしっかりしているようなところは別にしてだが」

 俺からすれば何故事前にルールを作っておかないのかと言いたいところだけれど、この辺りでは力づくで納得させるという手法が当たり前のように使われているらしい。

 

 もしかすると当初の予定よりも人数が多くなったのは、その辺りのことがしっかりと決まっていたからなのかなと考えていると今度はカールが疑問を投げかけてきた。

「それにしてもあの馬と馬車については良かったのか? 一応俺たちにだけ権限があるとはいえ、結構な問題になりそうだぞ?」

 何のことかといえば、『大樹の頂』が使っていた馬車をクランで使えるようにしたことだった。

 クラン単位で動くとなれば当然のように多くの人員が動くことになり、便利な馬車を使えるに越したことはないということでクランに貸し出すことに決めた。

 もっともクランに貸し出す馬車は以前から使っていた馬車そのものではなく、必要になるだろうと考えてアイが新たに作ってくれたダウングレード版になる。

 ただしダウングレードしているとはいえ既存の馬車よりもはるかに使いやすいものには違いなく、クランが活動していく上で大きな助けになるはずだ。

 勿論そんな便利なものであるだけに使用者制限はしっかりとつけていて、クランの建物に常駐することになる事務員(眷属の魔物)が許可を出したうえで、カールやラウが使うことになる。


「いいんだよ。むしろあれで他の冒険者が釣れるんだったら、むしろラッキーだと思えばいい。どうせ使用者制限があって自由に使えるわけじゃないんだし」

「それはそれで問題になりそうな気もするがね」

「それで問題を起こすようであれば、最初から団体行動なんて無理だと思うよ?」

「確かにな。俺としては、自分があんな魔道具を使っていいのかと気が引けるところだがね」

「同感。正直あれに慣れてしまうほうが怖いな」

「ははは。そんなカールとラウだから任せることにしたんだよ」


 口ではこんなことを言っている二人だけれど、いざ実際にダンジョン探索で使うとしっかり割り切って使いこなしてくれるはず。

 その確信があったからこそ、わざわざ新しいものを用意してもらったんだ。

 今のところクランを大きくするつもりはないけれど、カールとラウがそのつもりがあるなら目指してみるのも良いと思う。

 当たり前だが二人とも別個の考え方があって時にぶつかることもあるだろうけれど、その時はトップとしての役目を果たすことになるだろう。

 

「よし。それじゃあ、あとは任せてようやく行けるかな」

「そりゃまあ大丈夫だろうが、トップが最初から姿をくらますってどうよ? いや。必要なことだってことは分かっているんだがな」

「貴族を巻き込んでの騒ぎだったからなあ。ある程度ほとぼりが冷めるまでは仕方ない。しかしようやく『大樹への集い』が始動したばかりでなあ……」

「何かあればすぐに戻ってこれるんだし、その辺りは二人でどうにかしてもらうしかないかな。一応、最低ひと月に一度は全員で戻って来るつもりでいるよ」


 クランの名前はラウが言ったとおりに、『大樹への集い』ということで決まっている。

 それは良いとして一応クラン内のトップパーティとなっている俺たちは、しばらくの間ヘディンを離れることにしていた。

 これには例の事件の余波で余計なことに巻き込まれる懸念があるからという理由がある。

 もっとも本音としては折角第二の人生を生きているので、ヘディンだけに根付くのではなく別のところも見てみたいという気持ちもある。

 

 しばらくの間カールやラウには不自由をさせることになるかも知れないが、こればかりはそもそもクランを作る発端となった騒ぎが原因であるだけにどうすることもできない。

 いずれにしても『大樹への集い』は、無事にスタートを切ることができた。

 これから先このクランがどうなっていくのかは分からないけれど、まずは順調に滑り出すことができたことを喜ぶべきだと思う。




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m(__)m

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