(19)秘密会談

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 < Side:ノスフィン王国国王 >

 

 国王であるがゆえに滅多に他国に出ることのない私だが、非常に珍しいことに今現在たった一人の存在だけを連れ立って他国に来ていた。

 他国どころか国内でさえも、これだけ身軽な状態で城を出て移動することなどありえない。

 そんなあり得ないことを可能にしたのが、もう一人の同行者であるその身を人の姿に変えた守護獣だ。

 今回はその守護獣の誘いに乗って、こうして普通ではありえない状態で他国へと出向いてきたというわけだ。

 始めに守護獣から話を聞いた際にはさすがに冗談を言っているのかと考えたが、短時間で人が寝静まった夜の短時間の間のみの出国だと言われてようやく納得することができた。

 そんな短い時間で他国に出向いて国に戻ることができるのも、守護獣のお力添えがあったからだ。

 

 いい意味でも悪い意味でも『初体験』をしている私だが、恐らくそれは他にいる五人の同席者のうち二人も同じだろう。

 二人の内一人はトランフィス王国のケヴィン国王で、もう一人はフィヨルド王国のヘラルダ女王だ。

 ともに私と同じようにもう一人の同行者を連れて来ていて、それぞれがその国の守護獣だという。

 我が国の守護獣から聞いた話だと、同じように古くからそれぞれの地で守護獣として生きてきているそうだ。

 

 そして最後の同席者はたった一人――のように見える――は、こちらはあまりよろしくない状態での面識がある女性――ユグホウラの影だった。

 あまりよろしくないというのは、例の問題の時に私室に侵入してきて私が見たことがないほどに守護獣を大いに慌てさせた女性だ。

 仮にもシーオ地域でトップ五に数えられる国の内、三か国の国王がそれぞれこうして面会することになったのは、彼女の呼びかけがあったからだ。

 もっとも彼女が呼び掛けたのは守護獣に対してであり、この場に国王を含めることになったのは守護獣同士で決めたそうだが。

 

 お互いにほぼ初対面に近い相手なので、軽く挨拶を済ませてから本題に入ろうと席に着いたところで、ケヴィン国王が牽制のつもりなのか影を見ながら言った。

「話をするというのはいいが、場違いな者がいるようだが? 強大だったかもしれん一組織のしかも影の一人が何故この場を仕切っているのか」

「あら。あなたは何故この場が用意されたのか聞いていないのかしら? もし必要ないというのであれば、今すぐにでも解散してもいいのよ?」

「待て。あとでしっかり言い聞かせておくから、気にせず続けてくれ」

 そうフォローに入ったのは、トランフィス王国の守護獣だった。

「あなたもね。のびのびと育てるのは良いと思うけれど、子供のしつけはきちんとしておかないと手痛いしっぺ返しに合うわよ?」

「そのようだな。長い年月が過ぎて、いささか気が抜けていたようだ」

「あなたは前からそんな感じだったでしょう?」

 冗談のように言いいながら笑い声をあげたユグホウラの影と同じように笑い声を上げたのは、フィヨルド王国の守護獣だった。

 

 恐らくこちらも何かしらの本性はあるのであろうが、人の女性の姿に変えたその守護獣は自身に注目が集まったのを感じてか、口元に手を当てながら軽やかな口調で言った。

「相変わらずですわね。あなたも。いきなりすぎて詳しく説明する時間をくれなかったのに。それよりも旧友を深めるために呼んだわけでは無いでしょう?」

「そうだったわね。それで本題だけれども、あの方がお戻りになったわよ。疑う場合はノスフィンに確認するといいわ。彼は既に直接対面もしているから」

 その言葉に激しく反応したのはトランフィス王国とフィヨルド王国の守護獣だ。

「ノスフィンの。どういうことだ!?」

「そうよ。聞いていないわよ!?」

「言えるわけがないだろう? かの方は今の立場を楽しんでおられた。それを崩すような真似をこちらから出来るはずがない」

 

 詰問調だった二人が、我が国の守護獣の言葉を聞いて一気に落ち着きを取り戻していた。

 一つ分かったことは、私も会ったあの冒険者が一つの言葉で二つの国の守護獣を取り乱させることの出来る存在だということだ。

 我が国の守護獣の言葉は端的だったのだが、たったそれだけの説明で余計な手出しは必要ないということまで理解できているようだった。

 もっともその二人の国のそれぞれの王、女王は何が起こっているのか分からず不思議そうな顔をしていたが。

 それも無理もないと思う。私も例の件が起きていなければ、同じような態度を取っていただろう。

 いかに人前で感情が読みづらくなるように訓練されている立場とはいえ、その全てを隠すことなどできないからこそ敢えて表情を見せることもある。

 

「話を戻すわよ? それで言いたかったのは、今みたいに余計なことはしないこと。あの方は今の人生を楽しんでおられるみたいだから、邪魔されるのは何よりも嫌っているのかも知れないわ」

「……ご挨拶すら不要と?」

「必要なら出向くでしょう。今のあの方は以前のように堅苦しい立場ではないのだから」

「では何故、今になってそのことを私たちに?」

「はっきり伝えておかないと余計なことを仕出かすでしょう? それこそこちらの彼のように」


 ここで私を出すかと、思わず顔が引きつってしまうのを抑えられなかった。

 皆の注目が集まっていることはわかっているが、これが必要なことだということも理解している。

 とはいえ守護獣同士の会話に私が口を挟んでいいのかわからずに、何も言わずに黙っておくことを選択した。

 

 その選択が正しかったのかどうかは分からないが、ここで我慢しきれなかったのかケヴィン国王が割って入るように発言してきた。

「一体、何のことを話しているんだ。意味が分からないぞ!?」

「全く同感です。この場に連れて来た意味だけでも教えて欲しいものですが」

 意外だったのは、これまで黙っていたヘラルダ女王が同意してきたことだった。

 どちらも国の上に立つ者だけに、意味が分からずただ流されているだけの状況に我慢ができなかったのだろう。

 私もあの件が無ければ、同じようなことをしていたかもしれない。

 

「あらあら。やはり人族――ヒューマンは五百年という年月が経つと、覚えておきたくない事実は忘れてしまうようね」

「……そのようね。一応私も事前に念を入れて伝えておいたはずなのに」

「仕方ないだろう。人にとっては五百年という年月はあまりにも長すぎる」

 端で聞いていればあまりに具体性がない会話だったが、あの件を経験している私にとっては何のことを意味しているのかよく理解できた。

 この場にユグホウラの関係者がいてそのことに関する話をしているというだけで、決して怒らせるような真似をしてはいけないのだ。

 それだけにケヴィン国王とヘラルダ女王がいかに危ういことをしているのかと分かって、背中に冷や汗が流れて来る思いだ。

 私があの冒険者と会話をしていた時、我が国の守護獣もこのような思いを抱いていたのかと何となく微妙な気持ちになってしまった。

 

 

 この後も具体的な話はなにもされず、守護獣同士だけが分かる会話が十分ほどされて今回の会合は終わりとなった。

 ほとんど相手にされていなかったケヴィン国王とヘラルダ女王は、さすがに王であるだけに態度に示していなかったものの多少なりとも苛立ちのようなものは感じていたようだった。

 そのことを思い出しながら部屋に戻った私は、思わず守護獣に次の一言をこぼしてしまった。

「『人の振り見て我が振り直せ』とはよく言ったものだな」

「それが分かっているだけまだ良かったということだろう。それに、あの二人の人の子も今頃それぞれの守護獣にたっぷりと言い聞かせているのではないか?」

「……言葉だけで理解できるのであればいいのだがな」

 かつての自分を思い出しながらそうこぼした私の言葉に、守護獣は優しさからなのか何も言って来ることはなかった。




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m(__)m

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