(18)それぞれの結果

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 < Side:男爵 >

 

「くそが!!」

 思わず汚い言葉が出たが、この場には私一人しかいないので問題ない。

 そんなことよりもこれまでの計画が全て水の泡になったことをどうすればいいのか、考えなければならない。

 何故よりにもよって、たかが冒険者まがいの孤児のことで王家が、辺境伯家が動くのか。

 しかも辺境伯家に至っては、王国の切り札の一つといわれる『激流』まで出してくる始末だ。

 詳しい話を聞けなかったことが、なおさら私を苛立たせる原因になっている。

 

『激流』からは貴族らしい迂遠な表現で「余計な真似はするな」と釘を刺されてしまった。

 元はヘディンの孤児らしいが、今は辺境伯家どころか対外的にもかなりの発言権を持っているので男爵如きに反抗できる相手ではない。

 しかも個人的にではなく、辺境伯家のお墨付きを持って動いているので下手に動けば我が家など吹き飛ばされてもおかしくはない。

 直接会談したときには国王の存在さえ匂わせてきたので、大げさな表現ではないだろう。

 

 誰もかれもが何故孤児にそこまで気を使うことになっているのか。

 そのこと自体は、『激流』の口からはっきりと理由を聞くことができた。

 まさかここで関わってくるとは考えていなかったが、例の冒険者が国王を動かすにまで至っているそうだ。

 たかが冒険者如き、国王どころか『激流』が動けばどうとでもできると考えていたのだが、どうもそう簡単にはいかないらしい。

 それどころか余計な手出しはするなと釘を刺されてしまった。

 さすがにこうまで直接的に止められると、勝手な動きをするわけにはいかない。

 

 もはや男爵如きではどうこうすることもできないくらいに動きを止められてしまっているが、これで諦めるつもりはない。

 ……いや、なかった。

 その気持ちにとどめを刺されたのは、王からの書状を直接貰った時だ。

 さすがの私も直接の書状など貰ったことなどなく、使者と共にそれが来た時には舞い上がってしまったが、内容を見てすぐにその気持ちがしぼんでしまった。

 書かれていた内容は例の冒険者に関するもので、今後少しでも余計なことをすれば王の名の下に男爵家を潰すとはっきりと書かれていた。

 これではいかなる謀も例の冒険者に対してすることはできない。

 どんな正当な言い訳があったとしても許されることはないと書かれている以上、身動き一つすることができなくなってしまった。

 

 ことここに至っては、私の意地やプライドなど全く意味をなさない。

 そもそも一冒険者のために、我が家を賭けるわけにはいかない。

 思考の内ではそのことは十分に理解できているが、怒りという感情が湧いて来るのはどうしようもない。

 とはいえその怒りに任せて動くわけにもいかず、今は家を守るためにも湧いて来る怒りをどうにか沈めることしかできなかった。

 

 

 < Side:ノスフィン王国国王 >

 

 目の前にいる男が浮かべた表情を見て、そう言えば彼のこんな顔を見るのは初めてじゃないだろうかとそんなことを考えてしまった。

 今私の目の前にいる男はノスフィン王国宰相で、私が即位してからずっと片腕として仕えてくれている男だ。

 今回私はその宰相に対して、初めて隠れて動いて物事を決めることになった。

 しかも宰相が押していた政策を真っ向から反対する決定を、何の相談もなしに決めたのも初めてといえるだろう。

 だからこそこのような表情をしているのだろうが、こればかりはどうすることもできない。

 宰相の言い分が十分に理解できるからこそ例の政策を進めていたのだし、相談する時間すらなかったのだから私一人で決めて動いたのだ。

 

 だからこそ宰相がこう聞いて来ても、私は動揺することなく真っすぐに彼を見つめながら応じることができた。

「――どういうことですかな?」

「どうもこうもないな。私が決めた。それが全てだ。……だが、そなたが言いたいことも理解できなくはない」

「それでは――」

「駄目だ。これ以上、あの冒険者に対しての手出しは無用だ。たとえ我が国に利がある事であってもだ」

「わかりませぬな。何故王が、国に利益をもたらすことを拒否されるのでしょうか」

 心底分からないという顔をする宰相だったが、それについては私も同感だ。

 国を運営するというのは、いかに富ませて民たちにその利益を分配するのかということが仕事だ。

 多少乱暴な言い分ではあるが、大まかにみれば間違ってはいないだろう。

 

 だがそれと同時に、この国に住まう者たちを様々な脅威から守るということも国の重要な役目になる。

 今回はその観点から私自身が動く羽目になったわけだが。

「――宰相。もし私の決断が不服というのなら、今すぐにこの国のために命を懸けてくれる『激流』以上の強者を連れて来てくれ」

「それは…………」

「ついでにいえば、シーオ西欧全部の国を纏めたうえでさらにそれ以上の軍備を揃えられるか?」

 シーオ全域が纏まっていたことなど五百年以上前にユグホウラが真に世界の覇者だったといわれていた時にまで戻らなければならない。

 何故かユグホウラがシーオの覇権を手放して以降、この地域が一つに纏まったことなど一度もないのだ。

 シーオの統合は、我が国も含めたシーオ各国の主導者たちの夢の一つであると言っても過言ではない。

 とはいえほとんどの国が守護獣を抱えている以上は、そんな簡単に実現できる夢ではないのだが。

 

「一体何のことですかな? そのようなことなどを語って誤魔化すおつもりですかな?」

「そうではない。そうではないぞ。この際だから言っておくが、彼の冒険者に手を出すつもりならそれくらいの覚悟を持てということだ。もっといえば彼の者を怒らせたが最後、シーオ全域がかつてのようにユグホウラの下に纏められることになるそうだ」

「まさか……」

「まさかではなく事実だ。……守護獣がな。はっきり言ったのだ。ユグホウラが本気になれば、シーオにいる守護獣など数日で全て倒されてもおかしくはないとな」

「そんなことが……」

「信じられないと言いたくなるのは分かるが、事実だそうだ。そのような強大な力を持つユグホウラが、何故かつてのようにこの地を統治しないのかまでは言って下さらなかったがな」


 私自身今でも信じられないようなことを宰相に話したが、やはり信じ切れていないようだった。

 その気持ちはよくわかるだけに、宰相の気持ちが整理できるまで待つことにした。

 

「守護獣様が何かを勘違いされているなどは……」

「宰相! はっきり言うが、この国があるのは守護獣様がおられるお陰だ。人の世は人の手で治めているのは確かだが、そこは勘違いしてはならぬ。ユグホウラに対して勝てないと断言されておるが、人の手で敵うなどと考えてはならぬ」

「そうでございましたな。……もしこのことで私が守護獣様からご不興を買うようであれば――」

「その先は言わなくてもよい。気にせずとも守護獣様は斯様なことを気にされるような方ではないわ。その守護獣様がそれほど気遣う相手だということを心得よ」

「――畏まりました。ですが、他国の者はどうされますか」

「それは気にせずともよい。わが国の内で余計な手出しをされると困るが、国の外で何をしようがこちらが関与する問題ではないからな」

「では、そのように」


 未だ多少なりともわだかまりはあるように見えるが、結局宰相は私の言葉を飲み込んでくれたか。

 問題があるとすれば、今回の件で宰相の中で私に対する不信感が生まれる可能性があることだが……。

 それは今考えても仕方ないだろうな。

 私の中で決定を下した以上、今更変えるわけにもいかないと宰相なら十分に理解しているはずだ。




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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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