(16)いたたまれない思い

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 < Side:ノスフィン王国国王 >

 

「――まさか、そんなことが……」

「だから言ったであろう。あれには手を出してはいかん。こちらに出来るのは、向こうがしてくれる善意を待つことが最良だ」

 辺境伯から入ってきた報告に愕然としていると、我が国の最終防壁である守護獣がそう言ってきた。

 言われていることは理解できるが、それは今の私にとって何の慰めにもならなかった。

 限られた配下の者たちと相談して国にとっての最良の道をと望んで動いていたが、ことごとくが最悪の道に進んでしまっている。

 まさかユグホウラの垂涎の品を融通してくれる商人のような男が、そこまでの実力があるとは思っていなかったのだ。

 勿論、件の男が冒険者をしていることもBランクにいるということも情報としては聞いていた。

 だからこそ我が国にとっての切り札の一人である『激流』を動かしていたのだが、その『激流』本人から「敵わない」という言葉が来るとは考えていなかった。

 

 此度の件に関しては配下の者たちが考えたことだが、最終的に決定したのは私だ。

 さすがにすべてを別の者に押し付けて逃げるつもりは、私にはない。

 人によっては甘いと言われるだろうが、いかに厳しい道であったとしてもこれまでやり通してきた私自身の考えを改めるつもりはない。

「……私が頭を下げれば許してくれると思うか?」

「さて。どうであろうな。かの者は目立つことを避ける傾向にあるからな。我と共に密かに向かえば、もしかすると道はあるかも知れんな」

「その程度でよいのか……?」

 むしろ言われた内容が想像よりも軽すぎて聞き返してしまったが、守護獣はカカカと笑っていた。

 

 私が頭を下げることで危険すぎる矛を収めてくれるのであれば、いくらでも下げる頭は持っている。

 だがヘディンに国の手が入ったクランを作るということは、他国の介入を防ぐ意味でも必要なことであるのには間違いない。

 あわよくばという意味を含ませて彼の者を利用しようともしたが、そちらは必要最低限の利益ではなかった。

 とはいえ欲を出したがゆえに、今の事態を招いていることは紛れもない事実だ。

 

 そのことを愚痴のように守護獣にこぼすと、さらに意外なことを言われることになった。

「――であればそれも含めて、一切合切言ってしまったらどうだ?」

「言ってしまうとは、彼の者にか?」

「そうだ。彼の者は情に厚いからな。もしかするとお主の立場を理解してくれるかもしれんぞ?」

 今回のことを考えれば、情に厚いということが事実であることはよく理解できる。

 孤児たちが多いというサポーターのことがあって、今の状況が起こっているようなものだからな。

「……そうか。直接会って、弱みを見せてしまった方がいいか」

「それを汲んでくれるかどうかは分からないがな。こと国が絡むと意外に冷酷な判断もすることがあるだろうからな」

「それはそうか」

 まさしく国のトップに立つ私だからこそわかるが、彼の者はその判断もできるということか。

 

 確かに話を聞けば聞くほど直接会った方が良いという気持ちになってきた。

「――いつなら行ける?」

「私はいつでもいいぞ? お前次第だ」

「そうか。今日はもう遅いからダメとして、明日は……さすがに外せないか。となると明後日になってしまうが、遅すぎるか?」

「むしろ人目を避けるという意味では、今から行った方が良いのではないか?」

「それは……いいのか?」

「無論、事前に話は通しておくがな。あとはお前次第だ」

「それなら今すぐにでも頼む」


 私が決断すると守護獣はすぐに動いてくれた。

 多くの人族は遠距離の相手に会話をする手段など持たないが、守護獣クラスになるとその身一つで通話できる技を持つという。

 ……逆を言えば、彼の者にはその技を受け入れるだけの手段があるといことになる。

 今更ながらに気付いたその事実に、何をやっているのかと落ち込みたくなってきた。

 相手はあくまでも人族の一人で、Bランク冒険者という事実だけが先に立って普段できているはずのまともな判断すらできなくなっていたらしい。

 周りの意見のみを鵜呑みにした結果が、守護獣さえも動かす事態になってしまったというわけだ。

 とはいえ反省ばかりしていても仕方あるまい。

 幸いにして守護獣がこの日の会談に都合をつけてくれたので、沈む気分を振り払って密かに外に出る用意を始めた。

 

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 < Side:キラ >

 

 さすがにこの展開は予想していなかった。

 まさかこの国の王が、すぐ傍に人の姿に化身した守護獣が傍にいるとはいえその身一つで来るなんてことは全く考えていなかった。

 フットワークが軽いと考えるべきか、随分と迂闊だと考えるべきか、そんなことを思いつつ軽く混乱してしまったのは仕方ないだろう。

 しかも様々なものを背負っているおかげで重たいはずのその頭は、現在しっかりと下に向かって下げられていた。

「――此度のことは、完全に私の不徳の致すところだ。できることなら直接話をする機会をいただけないだろうか?」

「あ~。はい。ともかくこんなところで立ち話もなんですから、席について話しましょうか」

 顔を合わせるなりそう言ってきた国王に、とりあえずはそう応じることしかできなかった。

 

 今のこの事態に拠点内は軽くパニックになっていた。

 トムを始めとした子供組はヘリに連れられて奥の部屋に行っていて、ハロルドは応接室の準備に大わらわになっている。

 もっとも応接室の準備といっても散らかっているわけではないので、軽く整えるだけで終わることではあったのだけれど。

 

 ハロルドが整えてくれたソファに国王とアンネリがきちんと着席をするのを見て、改めて話を続けることになった。

「――さすがにここまでされるとは考えていなかったのですが、どういうおつもりでしょうか?」

「まずは謝罪を。この国はユグホウラの者と敵対するつもりは全くない。そのことだけは分かってもらいたかった」

「うーん。限りなく直通に近い状態でも、しっかりと意図を伝えるのは難しいですね。こちらもそんなつもりはありませんでしたよ。ただこれ以上ちょっかいを出してくるのであれば逃げると言っただけで」

「それは……確かにそうかも知れないが、一切の関りを持たないというのは敵対するというのと同義では?」

 そんな伝わり方をしたのかと内心で頭を抱えてしまったが、国王にはそう伝わってしまったらしい。

 

 さてどうしたものかと考えてみたものの、そもそも現段階では国王が頭を下げているという事実があるだけで、具体的な話は全く進んでいない。

 とはいえさすがにこの状況だと国王から話を切り出すのは厳しいだろうと考えて、こちらから提案を持ちかけることにした。

 それに一国の王が頭を下げているのを見続けるのは、さすがに忍びなくなってくる。

「とりあえず国王と守護獣様の謝罪は受け取りました。折角の機会ですので、今後についての話をしましょうか」

 俺がそう提案すると、国王がパッと頭を上げた。

 驚きと嬉しさが混じったようなその顔を見れば、本気で国の今後を憂いていたことがわかる。

 ……なんだろう。さすがに本気で国を潰すなんてことは全く考えていなかったんだけれど、Sランクを退かせる力を持つという意味がそれだけ重いということに改めて気付かされたよ。

 

 こちらにも譲れない線はあるけれども、国としても守るべきものがあるということは理解できる。

 だからこそ妥協点を探して動いていたわけだけれど、まずはそこからお互いに見つけていくべきだと話を続けるのであった。




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m(__)m

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