(14)決断

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 今のところ、ヒルダさんとその背後にいる辺境伯や国王がどう出て来るのかは分かっていない。

 そのため話に出たクランを作るかどうかはまだ分からないのだけれど、いつでも作れるように準備は進めている。

 といってもこちらがすることはほとんどなく、カールやラウが中心となって色々と動いている。

 二人のところにはサポーターの扱いがどうなるのかという雑談をしにくる冒険者が多く、そうした者たちに気まぐれ程度に「もしかすると新しいクランを作るかも知れない」と話をしているそうだ。

 その結果、幾人かの冒険者と一つのクランが興味を示しているらしく、もしかすると合流することになるかも知れないと言っていた。

 クランといっても三パーティ分にも満たない小規模なクランだけれど、それでも想定していたものよりも規模が大きくなりそうだ。

 もっともその辺りの調整は完全に二人に任せているので、こちらとしては気が楽だともいえる。

 二人に期待されているのはあくまでも間に立つことだけなので、別に他の人間から名目上のトップと思われても構わないと考えている。

 

 とはいえ何から何まで任せっきりにするのも違うと考えて、ちょっとしたことをラックに頼んだ。

「――事務ができる要因を何人か見繕っておいて。常駐はさせなくてもいいと思うから交代で入れるように」

「畏まりました。常に二人ほど事務所にいれるようにすればいいでしょうか」

「その辺は任せるよ。あっちの都合もあるよね?」

「正直なところ、ここ百年ほどは大きな変化は起きておりませんから暇を持て余しているのが現状です」

「あらま。いいことなんだとは思うけれど……さすがにちょっとまずいかな」

「気持ちがだれてきている部隊は、その部隊ごとファイの最前線に送ったりしているので大丈夫ですよ。領地内の常時討伐もございますし」

「なるほどね。いらない心配だったか」

 俺が五百年以上いなくても上手くやってきたのだから、変に気を回す必要はないということなのだろう。

 

 ユグホウラのことは心配がなさそうなのでいいとして、今はクランについてのことを考えることにした。

 まだ作るかどうかも正式に決まっているわけではないけれど、いざ作ると決まった時に慌てても仕方ない。

 ひとまず俺がやるべきことは、自分自身がいなかったとしてもクランが上手く回るように考えることだろう。

 そのために、金回りを監視できる事務はこちらで用意することにしたのだから。

 

 あとすべきことといえばいつでも連絡がつくようにしておくことだろうけれど、これに関しては事務員が詰める事務所があれば解決する。

 小型の通信具を置くなり、魔法が仕える者を選別すればいいだけのことだ。

 そのこともラックであれば言葉にしなくてもしっかりと伝わっているはずなので、万事うまくやってくれるだろう。

 正直なところ、ラックに人選を任せた時点で全て解決したと考えても間違いじゃなかったりする。

 

「事務周りはいいとして、戦闘員はどうされますか?」

「それはいらないんじゃなかな? カールとラウがいれば当面は大丈夫だと思うよ。変にこちらから眷属の誰かを置いたりしたら、逆に警戒されるだろうしね」

「さようでございますか」

「ああ。ただ事務の人が身を守れる程度の護衛は必要になるかな?」

「それは心配いりません。よほどの不意打ちを受けなければ返り討ちできる人材を選びます」

「それなら問題ないかな」


 金回りさえ握ってしまえば、中の人材が乗っ取ろうと画策したところで大したことはできないだろう。

 それにもしそんな事態が起こったとしても、カールやラウがその時点でいなくなっていれば俺自身ができたクランにこだわるつもりもない。

 所詮は名目上のトップでしかないので、クラン自体がなくなったとしても特にどうこう思うことはない。

 できることならそんなことになった時にはサポーターの地位が向上していて、変なところからちょっかいをかけられないようになっていればいいとは思うが、それくらいでしかないともいえる。

 

 とにかく新しくできるクラン(予定)について今俺ができることは、このくらいしかない。

 あとは貴族王族がどう出て来るかによって変わって来るので、それを待つまでは通常通りの日常を過ごすことになった。

 

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 カールやラウとの話し合いから一週間ほどが経った。

 その間に三度ほど日帰りのダンジョン探索を行ったくらいで、それ以外は特に代わりのない日常を送っていた。

 そして三度目のダンジョン探索から戻った翌日に、俺たちは再び小さな台風の襲来を受けていた。

 ヒルダ夫人が狙っていたかのように、拠点へ顔を見せに来たのである。

 

「――仲間が何日か怪しい動きをしていたかと思えば、あなたたちは随分とのんびりとしているのね」

 開口一番にそう言ってきたヒルダの視線は、呆れが多分に含まれていた。

 ちなみに仲間というのがカールやラウのことで、今の言葉だけでヒルダがヘディンの町でも十分な情報を得ていることがわかる。

「私たちができることはきちんとしておりますよ、お母様。それよりも今日はどんなご用でしょうか?」

「フフッ。そんなに目をとがらせないで。そんな顔をしていたら誰かさんに嫌われるわよ?」

「はいはい。そうですね。それはもういいですから。それよりもただ私を揶揄いに来たわけではないですよね」

「そうそう。そうだったわね。もう予想はできていると思うけれど、今度辺境伯家でクランを作ることになったから。ヘディンにも支部を置く予定になったのでそのご挨拶よ」

「そうですか。それはおめでとうございます……と言えばいいのでしょうか?」

「随分とあっさりしたものね」

「お父様から連絡がこない以上はそうなるだろうと予想していましたから。諦めの気持ちはあっても驚きはありません」

 

 アンネリはこれで完全に辺境伯家との縁を切るというわけではないだろうけれど、こちらに着くと決めた以上は既にヒルダの動きは看過できないということなのだろう。

 あっさりと家から離れることを匂わせることを言っていた。

 さすがに申し訳ないという気持ちがわいてきたけれども、そもそも彼女自身が決断したことなので今更俺がどうこう言うつもりはない。

 

「そう。ところで、本気で対抗していくつもり?」

「何のことでしょう?」

「あら。今更誤魔化すつもり? 仲間が新しいクランを作るつもりで動いていることは、既にこちらもつかんでいるのよ」

「そのことですか。そもそもお母様は……というよりもお父様はそれ以上の方もかもしれませんが、いくつか誤解されていますよ」

「誤解? どういうこと?」

「私たちはあくまでもサポーターが今まで通りに活動できれば問題ないのです。利権の争いだったり、外の国の影響だったりはどうでもいいことです」

「そう。でも実際にはそう上手く行かないということは、あなた自身がよくわかっているでしょう?」


 貴族の子女として育ったアンネリには、当然のように王国の教育が染みついている。

 そこで学んだこととして国外からのちょっかいが特に厄介な問題を引き起こすことはよく理解している。

 だからこそのヒルダの言葉だったのだろうけれど、残念ながらここに来ても彼女らが認識できていないことが一つある。

 さすがにそれについてはアンネリが口を出すことではないので、ここで俺が口を挟むことにした。

 

「お言葉ですが、ノスフィン王国が他国の影響を喜んで受け入れているという事実もあるのですがね」

「どういうことかしら?」

 俺の言葉に、ヒルダが鋭い視線をこちらに向けてきた。

 その認識を正すためにも、ここらでしっかりと釘を刺す必要があるのだろうなとため息交じりに言葉を続けることにした。




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※ヒルダに対して厳しい対応をしているように見えますが、いきなりハイ、さようならということまでは考えておりません。


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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