(12)災難

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 平行線に終わった話し合いの後、ヒルダはそれ以上は何も言わずアンネリを揶揄うようなことだけを言って拠点にするという宿に戻った。

 アンネリが揶揄われたのは辺境伯家ではなく俺を選ぶと言ったことで、勢いで言ってしまったのかヒルダから突っ込まれて顔を赤くしていた。

 さすがに俺も難聴系主人公ではないつもりなので、その言葉の意味をちゃんと理解している。

 とはいえすぐに「はい、そうですか」と受け入れるほど軽いつもりもないので、お互いにその話は誤魔化して終わっている。

 眷属たちからは何となく生暖かい視線を感じていたけれども、下手に突っ込むと藪蛇になりかねないので気付かないふりをしておいた。

 そんなことよりも今はもっと重要なことがあるので、まずはそちらを片付けることにした。

 

「アンネ。辺境伯の情報も得ていると思うけれど、何か変わったことは起きていないかな?」

「今のところ聞いていないわ。ただ王家とのやり取りが増えているという報告はあったわね。私たちはそれを法律の内容を決めるためだと考えていたけれど、もしかすると他のことも混ざっていたのかも。手落ちね」

「まだ何かあると決めつけるのは早い気もするけれど……あの辺境伯の態度を考えると、何かあってもおかしくはないよな」

「そうですね。今まで以上に警戒度を上げて探りを入れるように指示するわ。それから王家回りにも」

「それがいいだろうね」

 俺とアンネでそんな会話をしていると、ここでアンネリが申し訳なさそうな顔をして混ざってきた。

「あの。ごめんなさい。まさかお父様が……」

「うん? いや、アンネリが謝るようなことじゃないよ。それに、いずれはこういう可能性があるってこともちゃんと考えていたんだし」

 辺境伯家が何が何でもこちらの味方をしてくれるなんて甘いことは全く考えていなかった。

 そういう意味では、今回の件は起こるべくして起こったともいえるだろう。

 間に立たされることになったアンネリとしては、気が気ではないだろうけれどね。

 

 今はまだ王家とのやり取りで何か別の目的で動いているのかどうかも分かっていない。

 そのためには直接王のところに出向いて情報を得なければならないだろうが、それはそれでちょっと厄介なこともある。

 ノスフィン王国には守護獣がいるので、いくら諜報部隊といっても警戒された状態で潜り込もうとするのは難しい。

 できなくはないだろうが、発見された時点で敵対行為としてみなされても仕方ない。

 

 王城内だけであれば問題なく入り込めるだろうけれど、さすがに王本人に情報を得るための部隊を常時張り付けるのにはその危険が伴う。

 となると守護獣でも察知されない力を持つ眷属を送り込まなければならなくなるだろう。

 だからこそ今まで王族からは直接そこまで多くの情報を取っていなかったのだけれど、さすがにこの状況になればそんなことを言っていられない。

 諜報能力の高い眷属を使うにはどうしても俺自身の『命令』が必要になるので、そこまで動かしていなかったという事情もある。

 

 とにかく今必要なのは情報なので、アンネを通して出来る限りのことをするように指示を出した。

 これで何か掴めればいいのだけれど、上手く行くかどうかは分からない。

 いずれにしても今は諜報部隊からの情報をまつということで、その場は解散となった。

 

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 < Side:ノスフィン王国国王 >

 

 日々の書類整理を終えて私室へと戻った私は、そこであり得ない光景に出くわすこととなった。

 この部屋は、王である私が誰にも侵されることなく政務を忘れてくつろぐための場所。

 そのため警備は厳重で、たとえ一流の諜報員であっても入り込むことなど出来るはずのない場所のはずだ。

 さらにこれは家族ともいえる他の王族にさえも秘密なのだが、我が国の守護獣による『護り』も作られている場所だ。

 そんな場所に入り込める人族などいるはずもないからこそ、誰も連れずに心を解放できる部屋になっている……はずだった。

 ところが心の平穏を破るように、部屋の中央に一人の人影があったのだ。

 

「――何奴だ?」

「フフ。さすが一国の王といったところかしらね。少し待っていなさい。あなたの問いに対する答えは、もうすぐにやって来るから」

「それは、どういう……」

「ヴィー、無事か……!?」


 再びの私の問いを遮るように、その場に新たな人影が出現した。

 ただしこちらは私にとってはもっとも安心できる存在であって、一人だった時に比べてかなり心の負担は減った。

 ただしその安心できる存在――ノスフィン王国の守護獣様は、常にないほどに焦りを見せている。

 私が即位してから一度も見せたこともないその様子に、今度は別の意味で不安になってきた。

 

 その守護獣様は、これまた見たことのないような鋭い視線を侵入者である女性へと向けていた。

 その表情にどこか苦虫を嚙み潰したようなものが混じっているように見えるのは、決して気のせいではないだろう。

「何用だ?」

「あら。お言葉ね。折角の誘いだから乗ってあげたのに、今更そんなことを聞くの?」

「なんだと……?」

「あら。その顔からすると、もしかするとあなたも知らないことなのかしらね? どうなの、国王様?」

 何者か分からない女からいきなり水を向けられた私は、守護獣様が焦りを見せるという常にない状況に平常心ではいられなかった。

「な、何のことだか……」

「折角余計な詮索は無用と伝えておいたのに、わざわざ謀をしているのだもの。何も分からないということはないでしょう?」

 女の「詮索は無用」と「謀」という言葉に、私はすぐにここ最近行っていた辺境伯とのやり取りを思い出すことになった。

 それと同時に、辺境伯には伝えていない別の目的を顰めていたことも。

 

 ただその私の心の内は守護獣様と女には筒抜けだったようで、それぞれ違った反応をみせられることとなる。

 私にとって問題だったのは、やっぱりねという顔をしている女ではなく、今すぐに詰問を始めるのではないかと思えるような守護獣様の表情だった。

「ヴィー、どういうことだ!? 私が言ったことを理解できていなかったのか!!」

 守護獣様のいきなりの怒りの声に、思わず身震いをしてしまった。

 守護獣様はこちらの味方ではないのかとか、いきなり詰問とはどういうことだという言葉が浮かんでくるが、そんなことは口にすることはできない。

 女は分からないが、守護獣様がその気になれば私など何の抵抗もできずに命を刈り取られてしまうだろう。

 さすがにそんなことをするはずがないという思いもあるが、ここで誤魔化しができるほどの余裕は全く生まれてこなかった。

 

 結局私は、例の冒険者に関する話を全て話してしまった。

 ここで隠し事をすると今後何をされるのかわかったものではないという考えもある。

 守護獣様の焦りがそのまま私の命に繋がっているということは、この状況でも理解できていた。

 それに辺境伯を通して行った仕掛けは、何も例の冒険者どうこうするものではなく、むしろ身を護るためのものであったので隠す必要もなかった。

 

 そして私の話を聞き終えた女は、納得した顔で何度か頷いていた。

「なるほどね。大体予想したとおりかしらね。――今回はこれで許してあげるけれど、次はないわよ?」

「……ああ。よく言い聞かせておく」

 どう見ても守護獣様の方が立場が下だと見えるようなその光景に内心で戦慄しつつ、私は無言で女が消えるのを黙って見ていることしかできなかった。

 

 その後私は守護獣様からお叱りを受けることになった。

 そしてその内容に、今まで以上に冷や汗を流すことになった。

 もしあの謀が本気で冒険者を狙うようなものであったならば、間違いなく私の命は消えていたそうだ。

 それは、あの女かもしくはその仲間にとっては守護獣様の護りが絶対ではないということを意味している。

 

 守護獣様の言葉からそのことが実感できた私は、今後二度とよからぬたくらみはせずに、何かあればすぐに守護獣様に伝えようと決心するのであった。




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m(__)m

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