(9)起こるべくして起こった事故

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 < Side:キラ >

 

 たった一つの法律を作るというのは、現代日本でもそうであったように絶対王政の世界であってもそう短期間でできるわけではない。

 今回の件に限って言えば、王の下で働いている法のプロたちとそれ以外にサポーターが直接関わることになる冒険者ギルドとの調整は絶対に必要になる。

 絶対君主である王が「こうなるから」と決めたことをそのまま知らせるだけでいいのではと思わなくもないが、それをやると権力基盤が弱くなる可能性もある。

 そのため最低限の調整は必要になる。

 幸いにして今回は調整に必要な外部の組織が冒険者ギルドだけで済むことなので、さほど時間がかかるというわけではない。

 中央と冒険者ギルド本部との調整も数日で終わって、あとはそれぞれの町にあるギルドに連絡が行き届けば法の施行となる。

 ある程度連絡が行き届けば王都から新しい法を発表することになっていて、それを待つばかりの状態になっている。

 そもそもサポーター制度自体あまり広まっていなかったこともあり、さほど混乱することなく法の施行が行われる……はずだった。

 

 あと二、三日で正式に国から発表があるだろうとアンネリから言われた翌日、ついに恐れていた自体が発生した。

 諜報部隊の一人から報告を受けた俺は、思わず額に手を当てながら空を仰いだ。

「もう少し我慢してくれたらよかったのに……いや。むしろだからこそ今のうちに動いたのかな? とりあえず報告はそれだけかな。ありがとう」

 情報を持ってきてくれた第二世代の蜂眷属の眷属に礼を言って下がらせると、その眷属は小さな蜂に姿を変えて窓から飛び立っていった。

 質量も体積も全く違っているので物理的にどうなっているんだと突っ込みたくなるけれど、そこを気にしていては魔法のある世界で生きていくのは難しい。

 ついでにいうと今のは実際に本体がいたわけではなく、魔法で作った分体のようなものでしかない。

 一応質量などもあったりするらしいけれども、基本的には幻影を見せられているようなものだと理解している。

 

 それはともかく、今は実際に起きた問題に対処しなければならない。

 報告を受けてすぐにアンネリのところへと向かって、すぐにその内容を話した。

「――予想できた動きではあるけれど……やっぱりというにはちょっと問題が大きすぎるわね」

「本当にね。軽い怪我だけで済めばよかったんだけれど、残念ながらそうはいかなかったよ」

 例の冒険者グループがここ数日実際にサポーターを連れてダンジョンに潜っていたのだけれど、そのサポーターが重傷を負うという事件が起きてしまった。

 幸いなことにいきなり亡くなるなんてことには慣らずに済んでいたが、問題は彼らのその後の対応にあった。

 簡単に言ってしまえば、彼らはそのサポーターをあっさりと見捨ててその場に残して攻略を進めたのである。

 怪我を負って身動きを取れないそのサポーター(未成年)は、普通であれば当然その場で魔物に喰われるのを待つ運命にあった。

 もっともそのことに気付いた諜報部隊のメンバーが機転を利かせて、近くにいた冒険者にそれとなく知らせて事なきを得られる結果になったわけだが。

 

 怪我を負ったそのサポーターは無事に地上に戻ることができて、他の冒険者の善意によって治療も受けることができている。

 当然ながらサポーター君から他の冒険者に話は伝わっていて、ちょっとした騒ぎになっている。

 とはいえ話を聞いた冒険者の反応は、いつものことかというのと馬鹿な冒険者がやらかしたかという意見に見事に二分されているらしい。

 もっとも別に前者の冒険者が冷たいというわけではなく、サポーターが無茶な扱いをされて怪我を負うことは月に何度かはあることなのでそこまで過剰に反応していないだけだろう。

 そんな彼らもそのサポーター君を連れていたのが例の新しいクランのトップだと知ったら、もっと違った反応をしていたかもしれない。

 いずれにしても一人のサポーターが怪我を負ったという話が冒険者内に広まっていることは事実で、そのことも合わせて広まっていくと思われる。

 

 そんなことをアンネリと話していると、早速とばかりにカールとラウが揃って拠点を訪ねて来た。

「やっぱりやりやがったぜ、あいつ」

「もう少し大人しくしてくれていれば良かったんだが……それができるならここまでの事態になっていないか」

 二人はそれぞれ違ったことを言ってきたが、共通しているのは起こるべくして起こったという考えだろうね。

「本当にね。ここのギルドもあと数日で体制が整うってところだったのに」

「お前さんがどこからそんな情報を得ているのか気になるが……今更か。だがそうなると、少しはギルドの動きも期待できるか?」

「まだ正式に法律が発表される前だからなあ。後ろに貴族がいるだけに言い逃れられるのが落ちのような気もする」

「くそっ! 自業自得とはいえ止められなかったのは悔やまれるな」

「自業自得ってどういうことよ?」

 首を傾げながらのアンネリの疑問に、ラウが補足してくれた。

「ああ。そこまでは知らなかったのか。一応サポーターの間でもあいつに着いて行くなと周知されていたんだがね。どうやら稼ぎが欲しくてつい着いて行ったみたいだ」

「ああ~。なるほどね」


 今回の件が起こった事情が分かって、俺とアンネリは顔を見合わせてから頷くことになった。

 サポーターをやっている子供たちは基本的に貧しいので、目の前で金をちらつかせられるとつい話に乗ってしまうことも多い。

 怪我を負ったサポーター君も例の冒険者のことは知っていたらしいけれども、目先の金につられて着いて行ってしまったと。

 もっと言えば、自分の実力でどうにか無茶な指示もこなせるという過信もあったのかもしれない。

 

 それを裏付けるようにそのサポーター君の名前をラウから聞いたトムが、わずかに顔をしかめていた。

「――あいつですか。確かに自信過剰ではありましたね」

「俺は知らなかったんだが、トムは知っていたか」

「カールさんたちとは距離を置いたグループにいましたから知らなくても不思議ではありません」

「そうか。もとからそんな奴だったか」

「もっといえば、孤児の中でも立ち回りが上手くてそれなりに稼げている奴でした。逆にいえば金にがめついとも言えるかもしれません」

「……ああ~。なんだ。話を聞いていると起こるべくして起こったということになるか」

 サポーター君のことが分かるにつれて、カールの表情が怒りから呆れに変わっていくのがわかった。

 年長者の言うことを聞かずに自分の力を過信して事故に巻き込まれるサポーターは多いらしいので、今回もそれと同じだと理解したのだろう。

 

 カールほどあからさまではないけれど、ラウも似たような雰囲気になっている。

「今回は既に善意の冒険者によって当事者の怪我も治っているようですし良しとしようか」

 善意の冒険者と言いながら意味ありげにラウはこちらを見てきたが、俺はそれに応えることなく話を聞き続ける。

「――それじゃあこの件はそれでいいとして、問題はこれから先どうなるかということか」

「どうもこうも、予定通りに新しい法律がギルドから発表されて終わりよ」

「そうかな? 例のバカ貴族が騒ぎ出すんじゃないか?」

「それも既に見越して動いているしね。というか王から正式に発表される法について立てつくようなことはしないわよ……たぶん」

 アンネリが最後に急に自身のない様子を見せたのは、もしかするととどこかで考えてしまったからかもしれない。

 そしてそれは、アンネリだけではなくこの場にいる者たち全員の共通した思いだった。




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m(__)m

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