(8)メッセンジャー

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 < Side:アンネリ >

 

 王族との話し合いによってある程度の詳細が固まったとお父様から連絡を受けた私は、しっかりと身だしなみを整えてヘディン子爵の屋敷へと向かうことになったわ。

 私から見てもキラは貴族を相手にする礼儀作法が不足しているとは思えないけれども、身分がない時点でこじれる可能性があるので顔を出さないほうがいいだろうとのことで、今回は私とヘリだけで話をすることになった。

 町はずれにあるヘディン家の屋敷は子爵家のものにしては大きく作られているわね。

 もっともそれは、ダンジョンが何か不測の事態になった時に第一の防衛拠点として作られているからでしょうけれど。

 実際見た感じでは屋敷というよりも城とか砦といった印象の方が強くなっているわ。

 聞いたところによると代々の子爵が少しずつ改築を重ねて今の形になったらしいけれど、幸か不幸か今まで一度も防衛拠点として使われたことはないそうね。

 

 貴族の者としてきちんとした手続きにのっとって面会の約束を取り付けた私たちは、そんな屋敷にある応接室らしき場所へと案内されていた。

 さすがに話す相手が貴族の当主であるだけに、いきなり対面というわけには行くはずもないわね。

 勿論そんなことは織り込み済み――というよりも、これが当たり前だと考えていたので通された部屋でキラから教わった魔力操作の訓練をして時間を潰していた。

 もっとも子爵もそこまで待たせるつもりはなかったのか、十分もせずに私たちのいる部屋へと入ってきたわ。

 

 お父様やお母様と同じ年代に見える子爵様は、さすがにダンジョンの町を治めているだけあってしっかりと鍛えているようね。

 一緒に夫人を伴ってきているのは、私が女子であることを気遣ってのことでしょう。

 もっとも未婚の貴族女性と話をするときには身内の女性を伴うというしきたりを実行しているだけかも知れないけれど。

 少なくとも子爵に対する第一印象は、変に貴族であることにこだわるだけの愚か者ではないといったところね。

 

「――お忙しいところ申し訳ございません」

「いやいや。辺境伯と王家の名前が入っている書状を用意している相手に、無碍な扱いをするつもりはない。嘘であったらただでは済まさなかったが……」

「あら、嫌ですわ。子爵様は既に調べられたからこそ、この場にいらっしゃるのではありませんか?」

「それが分かっている君も、噂で聞くほど無能といういうわけではなさそうだ」


 恐らく子爵が聞いた私に関する噂というのは、学園に通っていた時のものでしょうね。

 あの時は変に地位の高い方々に目を付けられないように、できる限り大人しくしていましたから。

 もっとも私が辺境伯の娘ということもあって、おかしなことで絡まれることもほとんどなかったからできたことだけれど。

 ……キラがこの話を聞けば、私が大人しいってどういうことだと言ってきそうね。

 

「お父様から調べられるだろうと話を聞いていただけです」

「そうか。そう言うことにしておこう。それよりも、一応書面で大体の内容をしったが具体的に聞いてもいいかな?」

 面会予約を取った時点での書面では、例のサポーターのことについての話だと少しだけ触れていただけ。

「はい。といってもさほど難しいことではありません。冒険者がサポーターを連れて活動をする場合には、きちんとした扱いをするという法が決まる前提で動いているということです。奴隷に関する法が参考になると思いますわ」

「……なるほど。王都と辺境伯で動いているというわけか。随分とタイミングがいいことだな?」

「言っておきますけれど、私はお父様とのつなぎ役です。主に動いているのは私の仲間です」

「そうか……。私が確認を取ったところ、妙なところにまで首を突っ込むなと言われたが、その仲間のことでいいのかな?」

「さて、どうでしょうか? 私は子爵様がどのように話を聞かれたのかわかりませんので、答えようがありません」

 具体的にキラの名前でも聞きたかったのだろうけれど、さすがにここで口にするほど私は愚かでは無いわ。

 

 私の返答に、子爵が何を考えたのかは分からなかったわ。

 王とでも名を聞くこともある貴族家の当主だけあって、ご自身の感情を隠す訓練はされているということでしょう。

 もっとも貴族の中にはわざと感情を見せて誤解を誘う者もいるのだけれど、子爵はそういうタイプではなさそうね。

 どちらかといえば武人というタイプなので、相手を感情で騙すような真似はしないのかもしれないわね。

 

「――そうか。それで、話を戻すが私にこれ以上の口を出すなといことでいいのか?」

「さすがに今の私に貴族の当主である子爵様の行動を制限するような権限はございません。一つの法が決まりそうだということを伝えるだけのメッセンジャーです。ただ奴隷の場合と同じように、きちんと責任の所在が明記されることだけご留意を頂ければと存じます」

「ふっ。それが既に制限しているようなものではないか。――まあ、いい。どちらにしても私が直接動くつもりはなかったからな。貴族の手が入った冒険者がダンジョンに来ることなど、よくある事だろう?」

「確かに貴族は色々なことを冒険者に依頼されますね」

「そうだろう? 何かを求めてやってくる冒険者を止めることは、私にはできないな。直接関係を求めて来るならともかく」

「そうですか。その言い分が認められるかどうかは、私では判断できかねますが……」

「それは当然だな。むしろ君にその権限があると言われるほうが驚く」

 

 あくまでもただのメッセンジャーでしかない私としては、ここで具体的に方針を決めたりすることはできない。

 そんなことをするつもりもないのだけれど。

 変に首を突っ込むと下手をすれば王都にいる王族――の下にいる文官と子爵の間に挟まれて面倒なことになりかねないもの。

 私の話を聞いて子爵がどう判断するのかは、あくまでも子爵自身で決めること。

 私は、これ以上の口を挟むつもりはないわ。

 それに、子爵自身も私のような小娘の意見を聞くつもりもないでしょうね。

 

「私が伝えたいことは全てお伝えいたしました。折角の機会ですから何か父に伝えるようなことでもあれば聞いて来るように言われていますが、何かございますか?」

「いや。今のところないな。そう聞いて来るということは、遠距離通話ができる手段を持っているということか。

「ええ。父の持つ魔道具との一対一の通話だけのようですが」

「そうか。さすがは辺境伯といったところか。それよりも君はダンジョンに潜っているのだろう? その話を聞くことはできないか?」

「それは構いませんが、私たちは最前線にまで行っているわけではありませんがよろしいのでしょうか?」

「むしろそういう話が聞きたくてな。最前線については常に情報として入って来るようにしてあるからな」


 ダンジョン爵とも言われているだけあって、さすがに最前線の情報は常に手に入るようになっているようね。

 恐らく冒険者ギルドと何らかの契約を結んでいるのでしょう。

 ギルドが得た情報を依頼として入手するという形であれば、何かに違反しているわけではないでしょうし。

 むしろ子爵家がその手の情報を手に入れていないほうが、この町に暮らす者たちとしては危なっかしくて仕方ないわね。

 

 それにしてもダンジョンの話ね。

 恐らくキラに関する話も聞きたいのでしょうけれど……それはおまけ程度と考えているのかしらね。

 ダンジョンを肌で感じている者の意見というのが貴重なのは間違い無いのだから、その話を聞きたいと言うのは必要なことなのでしょう。

 それならば、私が見て聞いてきたことをそのままお話すれば納得するでしょうね。




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m(__)m

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