(7)冒険者の状況

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 貴族二家に対する対応は王都からの返答待ちということになって、アンネリは辺境伯と連絡を取ったりして忙しそうにしている。

 貴族対応はアンネリがするとして、俺自身は冒険者たちの動向を気にすることにした。

 今のところ例の冒険者パーティが作ろうとしている組織クランに入ろうとする冒険者はそこまで多くないが、全くいないというわけではない。

 その動きに釣られてさらに賛同する冒険者が増える可能性もあるので、放置しておくわけにはいかない。

 とはいえ俺たちはそこまで他の冒険者との繋がりが無いため、冒険者に関する情報はカールや『夜狼』のラウから仕入れることにした。

 そしてこの日は、ラウが状況を話に拠点にまで来ていた。

 

「――今のところは、あまり賛同するパーティは少ないということだね」

「ああ。そもそも冒険者なんてのは流れものだからな。ヘディンはダンジョンがあるからい付く者も多いが、それだっていつ離れることになるかわからん。町に定着するクランに入ろうと考える冒険者は少ないさ」

「そういうことね。でも稼げるとなればその考えも変わるものだよね?」

「そうだな。だから本音としては様子見というのが一番なのだろうさ」

「様子見ね。流れに乗り遅れて組織の運営に関われないということも見越しているかな?」

「それもあるだろうな」


 どうせ組織に属することになるのであれば、ある程度の発言権は持ちたい。財政を握れるならなおいいだろう。

 とはいえ新しくできると噂のクランは既にいくつかのパーティが参加していて、最初の運営に関しての発言権を得られるとは思えない。

 そうしたトップたちの意見にただただ従うだけの状態になるのは勘弁と考えるのは当然だろう。

 もっともそれは、クランに入れば稼げると分かればすぐに流れるほどの考えだろうが。

 

 そもそもヘディンにいる冒険者は、大きく分けて三つのグループになる。

 一つはヘディンに定着して活動する冒険者で、これにはラウを含めた元孤児たちも多い。

 二つ目はダンジョンでの稼ぎを狙ってきているグループで、最後の三つめは他の依頼でヘディンに入って来ているグループになる。

 三つ目のグループに関しては、他の拠点があったりするのでヘディンに長居することはなくひと月もせずに移動してしまうので今回の話は関係ない。

 

 数でいえば二つ目のグループが多いのだけれど、そもそもヘディンという町に愛着があったりするわけではないので、稼げないと分かれば町を出て行くこともある。

 逆に一つ目のグループは、町そのものから離れられないとか町に愛着があるために長い間冒険者として活動して、後に何かの仕事を見つけて町に定着し続けることになる。

 男爵が作ろうとしているクランは、主に二つ目のグループを狙って声をかけているようだ。

 クランに属すれば稼げると示すことができれば入って来る冒険者もいるはずなので、その狙いは間違っていない。

 

「――俺たちみたいなのはそもそもの縁があったりして、もとからあるクランに入っていたりするのが多いからな。声をかけても意味がないと思われているのだろうさ」

「あれ? そうなんだ。でもラウやカールは、特別どこかのクランに入っていたりしないよね?」

「それはそうなんだが、子供のころからの繋がりは馬鹿にできないからな。現に俺たちはどこのクランにも入っていないが、昔ながらのクランとの繋がりはあるからな」

「準会員みたいな感じに扱われているってことか」

「ああ。そう言われるとしっくり来るな。ただ複数のクランと関係があるから節操がないとも言われるがな」

「それはそのクランが認めていればいいんじゃないのかな? 外野がどうこう言っても仕方ないだろうに……と、ここでラウにそんなことを言っても仕方ないか」

「俺たちも関係があるクランもお互いに利点があるから利用しあっているだけだからなあ」

「それは別にクランとの関係に限らず、合同探索をしたりする冒険者パーティ全部に当てはまるんじゃない?」

「確かにそれもそうか。まあ、それを言っても反発されるだけだがな」


 複数の冒険者パーティが集まって組織を作るというのは、何も男爵が初めて考えたわけではなく昔からクランという形で存在している。

 ヘディンには町ができたころからあるようなクランも存在しているので、生まれも育ちもヘディンで冒険者をやっているような者はそうしたクランに入ることも多い。

 俺たちはいつヘディンから別の町に出ることになるか分からないと考えていたので、クランに入るという選択肢は検討されることもなかった。

 ヘディンの町には、カールやラウのパーティのようにクランの間を渡り歩いて上手く立ち回っている者もそれなりの数、いたりする。

 

「――少し話が逸れちゃったね。とにかく今のところ大きなクランになる様子はないってことでいいかな?」

「そうだな。いつ立ち上がるかは分からないが、ひと月以内であれば五十人超えれば御の字じゃないか?」

「何も知らずに町に入って来る冒険者のことを考えればそんなものってところかな」

「そういうこった。もっとも今回の件はそろそろ噂として大分出回ってきているからな。そうした噂を集められない時点でお察しだろうな」


 今のところヘディンにいる冒険者たちには、あまり好意的ではない方向で例のクランに関する話がされている。

 それもあって後ろ盾に貴族がいてもあまり急拡大することなく、現状で落ち着いている。

 ダンジョンに潜るのに冒険者から話を集めるのは基本中の基本であるため、そうした噂話すら集められないパーティはその程度しかないとラウは切って捨てた。

 もっともそんな情報すら必要としない強いパーティもいるのだろうけれど、そうしたパーティが立ち上がったばかりのクランに参加するとは思えない。

 

 とにかく現時点で新しいクランに参加する意思を見せている冒険者は全部で二十人ほど。

 それが多いのか少ないのかは意見が分かれるところだけれど、クランとしては中規模の組織にすらなっていない。

 五十人に近くなってくると中規模とは言えるだろうが、俺自身はさすがにそこまで大きくなることはないと考えている。

 その理由は簡単で、今王都で議論されているはずの規制の話が施行されるとメインとなる男爵の勢いがそがれてしまうためだ。

 

 サポーターの扱いが保証されて無茶な利用方法ができなくなるのであれば、それは今までと変わらない存在になる可能性が高い。

 もしかするとサポーターの重要性をしっかりと理解できていて、一から育てる気概があるのであれば変わって来るだろうけれども残念ながらそんな感じは全くしない。

 現時点で力のあるサポーターを集めて馬車馬のように使うことしか考えていないので、稼げたとしても一時のことだけ終わるはずだ。

 そうした情報は諜報部隊から得たものなので、クランが立ち上がった後も大きくずれたりすることはないだろう。

 

「――そうだ。折角だから中央でサポーターの扱いについて議論がされているという噂を流しても面白いかもね」

「それは……いいのか?」

「構わないよ。今頃アンネリが子爵に話をしに行っているはずだし。いずれ知られることだからね。ただしあくまでも話がされているだけってことにして」

「それはそうだろうな。決まっていないのに決まったかのように話をすると処罰されてもおかしくはない」

「そういうこと。噂の出どころは中央から来た商人からってことにすれば良いんじゃないかな?」

「なるほど。内容が内容だけにそこまで広がるとは思えないが……やってみよう」

「そこまで無理に広めようとしなくてもいいから。あくまでもちょっとした牽制のつもりだからね」

 

 本当に必要な情報はアンネリを通して子爵に伝わるので、町に流す噂は『もしかしたら本当なのか』と思わせるだけでも十分だ。

 それだけでも町にいる冒険者たちには牽制になるはず。

 今は新しいクランに入ろうかと検討している冒険者の動きをためらわせることだけで十分だろう。




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