(6)情報
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本格介入すると決めた翌日、早速情報部隊から今回の件のカギとなるヘッジ男爵とヘディン子爵に関する情報が入ってきた。
予想通りといえば予想通りだけれど、ヘッジ男爵はサポーターとして使われることになる人材についてはあまり深く考えていないらしい。
サポーターを使う冒険者をうまくコントロールして、そこから上がって来る収益にだけ目が向いているそうだ。
わかりやすいといえばわかりやすいが、巻き込まれる方はたまったものではないだろう。
ちなみにサポーターを使う組織に所属する冒険者は、トムに手を出してきた例のパーティになりそうだということもわかっている。
一応それ以上のランクの冒険者にも声をかけているようだけれども、今のところあまり色よい返事はもらえていない。
自由を標榜する冒険者だけに、貴族の手が入った組織に属する気にならないというのは当然だといえる。
ヘッジ男爵もそこは理解できているのか、断られ続けていることに対しては特に文句も言っていないそうだ……少なくとも今のところは。
対するヘディン子爵については、今のところは戸惑いが一番大きいといったところらしい。
こちらはサポーターをうまく活用してダンジョンの攻略を出来る限り進めたいという思惑があるのだけれど、既に子爵自身で一度試して失敗した過去がある。
そのため一度は男爵の提案も断ったのだが、あまりの熱意に押されてひと先ず返答を保留にするということで一度目の話し合いを終えている。
ヘディン子爵が戸惑っているのは、何故そこまで男爵が前のめりになっているのか理解出来ないためだ。
少し懸念するところがあるとすれば、男爵が失敗したとしても成功したとしても子爵にとってはあまり大きな損失にはならないので、試しにやらせてみる方に気持ちが傾いていることだろう。
子爵としては何せずにダンジョン攻略が進んでくれるのであれば、言うことは何もない。
男爵のお手並み拝見といったところだろう。
男爵の作る組織で使われるサポーターがどんな扱いになるのかまでは今のところ目が向いていないのか、あるいは気付いていて目を瞑っているといったところか。
肝心の新しい組織の要になる冒険者については、例のパーティを始めとしてあまりよろしくない連中が集まりそうな気配になっている。
サポーターのことは気になっていたけれども、自身のパーティの素行があまりよくなく声をかけられることがなかったパーティたちだ。
一つの組織に属することは気に入らないけれども、お試しで入ってみて一度サポーターを利用してみたいという動機がほとんどのよう。
ちなみに面白いところは後から声をかけられた連中は、組織の頭になるのが男爵だということまで知らないことだろう。
これは貴族の手足になることを嫌う冒険者が多いので、敢えて隠して勧誘活動をしているためである。
そんな状態でいざ組織がスタートした時に逃げ出すパーティが多くなるのではないかと思わなくもないけれど、入れてしまえばどうとでもなると考えていそうだ。
それらの情報を纏めて整理してから、拠点のリビングに皆を集めて話をすることにした。
「――というわけで、三者三様。はっきりいえば、上手く組織が立ち上がってもすぐに瓦解しそうな感じではあるね。何か質問はある?」
「勿論あるわよ。そもそもどうやってそんな情報を手に入れたのよ。まだ一日しか経っていないのよ?」
「具体的な方法は秘密かな。ちょっとだけユグホウラの眷属に手伝ってもらっただけ」
ちょっとだけというのは謙遜でもなんでもなく本当のことで、諜報部隊の数人を動かせばこの程度の情報はすぐに手に入れることができる。
力のある眷属が蜂やら蜘蛛やらを百体単位で生み出して潜入させればいいので、早々に見つかることはない。
付け加えると殺虫剤なんかを使ってもほとんど意味はなさず――というよりもそれらの目を潰すためには、人族に対して影響が出そうな毒を使わないと意味がなかったりする。
「ちょっとねえ……。まあ、いいわ。そこを突いても今は意味ないから。それはともかく、ちょっと突けばすぐに壊れてしまいそうな関係に見えるわね」
「本当にね。もっとも子爵なんかは変に自分の手を入れて責任を負うようなことになりたくないと考えているみたいだけれど」
「そういうことね。一歩引いてみているからこそ、のらりくらりと躱しているという感じかしら」
「そうだね。一応、他家が関わるから中央にも連絡を取ろうとはしているみたいだけれど」
「貴族が関わるとはいえ、冒険者パーティが幾つか纏まって
「それもあるだろうね。中央にお伺いを立てたうえで許可されればそれでよし、されなかったとしても男爵に対する言い訳にするんじゃないかな?」
「貴族らしい立ち回りと言われればそれまでだけれど……ヘディン家らしくない気もするわね」
「アンネリもそう思う? 俺もそう思ったよ。孤児を使うことになにかあるのか、それとも別の思惑があるのか……その辺りはもっと詳しく調べないと駄目かな」
「そこまでする必要があるのかとも思うけれど、そこは私が言うことではないわね。それにしてもヘディン家ね……」
アンネリは、そう言ったっきり何かを思い出そうとする顔になった。
「ヘディン家に、何かあった?」
「それを思い出そうとしているのだけれどね。……あっ! そうか。それもあったわね」
「何か思い出した?」
「思い出したというか、身近過ぎて忘れていたというか……。私のお母様がここの出身だということは知っているわよね。その時の話で思い出したことがあったのよ」
「まさかと思うけれど、ヒルダさんが『激流』だった時に若き子爵から声をかけられたことがあるなんて話じゃ――」
「凄い! ビンゴよ」
「……あまり嬉しくないなあ。まさかその時の話がトラウマになっているなんてことはないよね?」
「まさか。……そんなことは……」
途端に歯切れが悪くなったアンネリ。
若きヒルダに声をかけて玉砕してしまった子爵が、孤児に対して何らかの思いを抱えているとすると少し話が変わって来る。
ヘディン家は過去にサポーターを上手く使おうとして失敗した経緯があるらしいけれど、それと関係している話なのかもしれない。
あまり推測で話を進めるのは駄目なので、あくまでも想像の範疇で止めておくことにした。
「子爵の心に闇があってもなくても関係ないか。それよりも今は、折角中央を利用しようとしているのだから、それを使うことはできないかな?」
「確かにね。子爵への返答に、サポーターに対する扱いを明記する法か何かを作って示してしまえばいいのよね。それが出来るなら」
「はい。というわけでして、アンネリ辺境伯令嬢様の出番でございます」
「もう。止めてよ。――それは良いとして、確かに私の出番ね。というよりもお父様に頑張ってもらうことになるのだけれど」
「あまり時間はかけていられないのだけれど、大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないかしら? 前の話でも法に関しては王家に伝えておくって言っていたから。準備は進んでいるはずよ。あとはそれに合わせて子爵に伝えるだけじゃないかしら」
「さすがだね。それじゃあこっちは男爵たちがどう動くのかを見守っていればいいかな。勿論子爵からも目は離さないけれど」
「そうね。暴走しないとも限らないし」
こちらが今一番怖いのは、男爵が子爵の言葉を勝手に解釈して暴走することだ。
特に『組織を作る前の事前訓練』と称して、勝手に冒険者パーティたちが動き出すことに注意を向けないといけない。
それはカールたちもやっていることだけれども、監視の目があるのとないのとでは事前に打てる手が変わって来る。
とにかくサポーターに無駄な犠牲を出すことだけは避けなければならないので、そのために動くのが第一になるだろう。
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※子爵の心の闇と大げさに言っていますが、ちょっとしたトラウマのようなものだと考えてください。笑い話的に言っているだけです。
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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