(5)本格運用

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 < Side:キラ >

 

 サポーターに男爵家が介入して来ようとしている問題だけれど、もし懸念されることが起こりうるのであれば本格的に介入することに決めた。

 一番の理由は、自分の目の届く範囲にいたサポーターたちが無碍な扱いをされることを無視できないから。

 ただそれ以外にも今回の件に介入しなかったとしても、いずれは注目されることになるからという理由もある。

 冒険者ランクがBになって、今まで以上に周囲から耳目を集めることになった。

 結果的に預かっている子供たちやハロルドに目が向き、そこから芋づる式に常に一緒にいる眷属に注目が集まるだろう。

 注目が集まってすぐにユグホウラとの関係が疑われるようになるわけではないけれども、いつかは必ず公になると考えている。

 ばれない可能性も高いかも知れないが、これまでの経験から考えてもずっと隠し通すことなど不可能だろう。

 少なくとも現時点でばれているはずのノスフィン王国の王族や辺境伯から、貴族層には少しずつでも伝わっていくと思っている。

 何も手を打たずにいても広まっていくなら折角の機会を利用して、行動の制限をするのではなく自分の好きなように動いていこうというわけだ。

 その上でユグホウラとの関係が広まっていくならそれはそれで構わない。

 ノスフィン王国の王族にも俺の考え方や人となりはある程度伝わっているはずなので、解禁してもそれなりの対処に動いてくれるはずだという打算もある。

 

 本格的に介入することに決めたので、早速これまで控えめにしてきたことを積極的に動かすことに決めた。

「アンネ、ちょっといい?」

「勿論いいわよ。何?」

 長い年月のお陰か、完全に妖艶なお姉さまという雰囲気になったアンネを呼ぶと即座に反応して近寄ってきてくれた。

「シルクやクインに、本格的に諜報部隊を動かすように言って。アンネもね」

「あら。いいのね?」

「いいよ。折角だからノスフィン王国とか周辺国を丸裸にしてもらおうかな?」

 俺がそう言うとこちらの本気度が伝わったのか、アンネの特徴的な目つきが変わった。

 その目つきにどこか嬉しさが混じっているような気がするのは、決して気のせいではないだろう。

 

 今一番欲している情報は孤児たちに手を出そうとしている男爵の情報だけれど、それ以外の情報も欲しいと言った以上はこれから先もユグホウラを本格的に動かしていくことを意味している。

 その意味が分からないアンネではないので、そんな目になっているのだろう。

 情報を集めたからといってユグホウラを使って軍事的に介入するわけではないけれど、いつでもそれが出来る状態にしておくというのと同義だといっても過言ではない。

 俺が指示をしていなかったからといってもユグホウラが全く各国の情報を集めていなかったわけはないだろうが、それは当然のことなので気にする必要はない。

 

 大事なのは俺の個人的な理由のために、ユグホウラを動かすということだ。

 今の俺は世界樹の精霊ではないので眷属たちは俺のために動く必要性は全くないのだけれども、アンネやラック、ルフの顔を見ればしっかり動いてくれることはわかる。

 非常にありがたい限りではあるけれども、逆にいえばこれから先もユグホウラの名前を背負って生きて行かなければならないともいえる。

 それはそれで自由が無くなるともいえるのだけれど、眷属たちがいる限りは大したことではないと考えている。

 

 そんな俺の決意が伝わったのか、ここでラックが確認するように聞いてきた。

「拡大路線に転換いたしますか?」

「いや。それはしないよ。折角ある程度安定しているんだし。ただ必要があればいつでも方針転換できるようにはしていてほしいかな」

「なるほど。畏まりました。それも含めて本部に伝えておきます」

 今のユグホウラはホームにある本部に情報を集めて、各方面の運営を決めている。

 今のところは人族の国家と対立している地域はないのでそこまで本格的に動いているわけではないが、過去には国家との戦争なんかもあったりしてしっかりと機能していたらしい。

 折角上手く行っているらしい統治方法なので、こちらからあーだこーだと口を出すつもりはない。

 

「今の世界情勢は良くも悪くも安定しているみたいだからね。余計な波風を立てて騒がしくするつもりはないからね」

「余計な波風を立てられた場合は?」

「ユグホウラに直接何かしてきたとしても、それだけで情勢が揺らぐわけじゃないでしょう? むしろこちらが関係せずに大戦に発展するほうが危ないと思うけれどね」

「それは、確かに」

 

 戦力にほとんど差がない場合は長い間対立してお互いに疲弊していくということもあるけれど、ユグホウラに関してはたまたま敗戦したところで大きく揺らぐことはない。

 むしろ転移装置を使ってすぐに動員できる軍隊で、ちょっかいを駆けてきた組織なり国家を即座に潰すことが出来る。

 ちなみにこの世界で人族が国家を成立させているのは、ユーラシア大陸の中央と南部側とアフリカ大陸の北側だけになる。

 それ以外の地域は、厳しい気候や大量に存在している魔物の存在によって町どころか村を成立させることすら難しい状態だ。

 実のところユグホウラが成立する前は、人族が魔物によって勢力圏を縮小させられていたという現実があったらしく、むしろ今の方が拡大傾向にあるともいえる。

 それが良いことなのか悪いことなのかは分からないが、一気に勢力圏拡大が出来る状態ではないことは確かだろう。

 

「ちょっと話が逸れすぎてしまったね。とにかく本隊を積極的に動かすつもりは今のところないよ。必要もないしね」

「ヒノモトがある限りは人族が絶滅することはないでしょうけれど、この辺りはどうなるかわかりませんからねぇ……」

「あら。守護獣がいるのに、そこまで魔物に対する反発が強いんだ。テイマーだっているだろうに」

「人族の言うことを聞く魔物は良い魔物で、聞かない魔物はもれなく討伐対象らしいですから」


 何とも人族らしい思考回路に、思わず納得してしまった。

 これがあるから一周目の時にも積極的に人族を支配しようとは考えなかったのだ。

 時に『お前のものは俺のもの。俺のものは俺のもの』とどこか聞いたフレーズを本気で思い込むことが出来るのが人族だともいえる。

 まあ、今の俺はそんな人族の一人なのだけれど。

 

 そんな人族とユグホウラの関係は横に置いておくとして、今は目先の問題を解決することが先になる。

「余計なことをしないでまともに運用してくれたらいいんだけれど……そうはいかないんだろうなあ」

「サポーターを使った組織、ですか。上に立つのがその貴族だとしても、実際にダンジョンに行くのは冒険者ですからね」

「どの冒険者をその組織に引き入れようとしているのかが、まず第一の問題ってところかな」

「そうですね。どうせ法律を作ったところで、ダンジョン内に入ってしまえば死人に口なしでしょうから」

「そんなんでよく奴隷制度を上手く回せていると思うけれど……やっぱり責任の所在の有無は大事だろうね」


 ダンジョンに潜る際に奴隷を使って人の壁を実行しようとする冒険者が少ないのは、そうした噂のある冒険者に対して奴隷商人が奴隷を売らなくなるからだ。

 それは奴隷を肉壁にしたと判別した時点で、その冒険者に奴隷を売った商人にも責任が生じると記されていることが大きい。

 今後の話し合い次第では、サポーターを使っている組織なりのトップにそうした責任を負わせる必要も出て来るだろう。

 それを飲んでまでサポーターを組織的に運用するうまみがあるとその貴族が考えるかは、今のところ神のみぞ知るといったところだろう。




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m(__)m

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