(4)事前連絡

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 < Side:アンネリ >

  

 私たちと同じBランク冒険者のカールから話を聞いた私は、早速父である辺境伯へと連絡を取ることにした。

 これから起こるかも知れないことについて私が全面に出ることになった場合、辺境伯の意思だと勘違いされる可能性もあるわ。

 それも含めて辺境伯家としてどういうをするのか、しっかりと確認を取っておかなければならないから。

 父に連絡を取って対応を決めることは、ちゃんとキラにも確認をしていて同意も取れている。

 このことで辺境伯家との整合性が取れずにすれ違いが起こるなんてことになれば最悪なので、伝えておかなければならないことは伝えておきたい。

 ちなみに事の次第では辺境伯家と縁を切る覚悟も持っていたりするけれど、そこまではキラには伝えていないし実際に起こるまでは秘密にしておくつもりよ。

 

 預かっている通信具を使って連絡を取ると、父はすぐに応答してくれたわ。

 辺境伯である父はそこまで暇ではないはずなのだけれど、この通信具を使って連絡を取るとすぐに出てくれることが多い。

 それだけキラのことを重要視しているということなのでしょうけれど……気持ちはよくわかるわ。

 返礼品と称してあんな貴重品を大量に送る相手を無下に扱うことはあり得ないでしょう。個人としても王国の一貴族としても。

 

「――何だ? 何か問題が起こったか?」

「正確に言えば、起こるかも知れないといったところだと思います、お父様」

「それは良かった。ではその起こるかも知れないという問題はどんな内容だ?」

 そう言って先を促してきた父に、私はカールから聞いた話をそっくりそのまま話すことにしたわ。

「つまり何だ。どこだかの男爵家が、ヘディンにいる孤児たちを乱暴に扱う可能性があるということか。それの何が問題なんだ? へティン家とは話はついているのだろう?」

 貴族にとって町にいる孤児は、領地に税金を落していない無法者でしかない。

 将来的に払えるように可能性があるために孤児院などで養ったりしているが、そこから外れて勝手な行動をしている孤児にまで意識を向ける貴族はほぼいないわ。

「何が問題か、ですか。……そうですね。キラが気にしているといえば伝わりますか?」

「む。…………そうか」


 私の言葉に、父はそう言ったっきりしばらく黙ってしまったわ。

 よその町にいる孤児のことなどその街を統治している貴族家に任せればいいと、貴族としては真っ当な考えをしていた父だったけれど、さすがにその一言は無視できなかったらしい。

 私としてはキラの名前を使うことに多少のためらいはあるけれど、そのためにもわざわざ事前にキラに確認を取ったのよ。

 個人的にはダンジョン前で顔見知りになっていた可能性のある子どもたちが無碍な扱いをされてほしくないというのは同じ気持ちなのだから。

 

「一応言っておきますが、キラはサポーターの運営に貴族の手が入ることは問題視しておりません。ただ過去にあった奴隷の扱いのように、人としての尊厳すら守られない可能性があることを危惧しているだけです」

「言っていることはわかる。……わかるんだが、それを守らせることなどできるか?」

「出来るのではありませんか? 少なくとも戦闘奴隷はそういう扱いになっているはずです」

「あれはあれでグレーなところがあるんだが……確かに何もないよりはましか。妥協点はそこでいいんだな?」

「恐らくそうなるでしょう。ただし話の流れでどうなるかはわかりませんが」

「どういうことだ?」

「そもそもヘディンの町にいる孤児の話ですよ? 子爵家が過去に一度も手を入れなかったとお思いですか?」

「それは確かにそうだな。……ヒルダに聞いてみたほうがいいか」

「はい。それもあってご連絡しました」


 私の答えを聞いた父が、再び黙り込んでしまったわ。

 父とヒルダの中は悪くない……というよりもむしろ仲が良いといっても良いでしょう。

 貴族の正妻がいるにも関わらず後から割り込んだ形の母が未だに良い関係を保っていられるのは、間違いなく正妻であるロジーヌお義母様のお陰よ。

 しっかりと父との関係を保ちつつ自分の立場を確保しながら母との関係も認めているのだから、まさしく貴族の夫人といったところなのかもしれないわね。

 

 そんな父と二人のお母さまの関係性は横に置いておくとして、父が黙り込んでしまったのは別のところに理由があるわ。

 元がヘディンの孤児だったお母様は、この話を聞いて当然のようによく思われないでしょう。

 私は噂程度にしか聞いていないけれど、過去に子爵家とひと悶着があったという話を聞いたこともあるし。

 もしかすると過去に子爵家がサポートの関係で動いて断念したというのは、その話と関係しているのではないかと思ったくらい。

 

 もしそうなら父が知らないはずがないとも思うのだけれど、それもあって黙ってしまっているのかもしれないわね。

 過去にお母様との関係で因縁のようなものがあるのであれば、下手に伝えたくないと考えるのはよくわかる。

 とはいえ少し迂遠に感じるのは、今のキラの様子を知っているからかも知れないわ。


「――お父様。これは助言になるかはわかりませんが、一応お伝えしておきます」

「……なんだ?」

「この件に関しては、キラは本気で動いているということですね。少なくとも冷蜂蜜酒クールミードを謝礼として用意するくらいには」

「……どのくらい用意しているのか、聞くのも恐ろしいな。わかった。こちらも覚悟を決めよう。――それから王家にも動いてもらうことになるかも知れん。それも伝えておいてくれ。どうせこれから子爵家と話をしに行くのだろう?」

「それは……よろしいのですか?」

「構わん。どうせ冷蜂蜜酒クールミードが動くとなれば、黙っていることは不可能なのだからな。最初から巻き込んでしまったほうがいい」

「王家に対して随分と乱暴だと思いますが……」

「気にしなくてもいい。これは王家から言われていることだからな。冷蜂蜜酒クールミードが手に入るならいつでも動く用意があるということだろう」

「……言われてみれば、ユグホウラの商品はそういう扱いでしたね」

「アンネリ。どうも例の彼はその辺の感覚が大幅にずれているらしいから、お前がしっかりとしないと駄目だからな。そのあたりの品を気軽に出されると、下手をすれば今回の件以上の騒動になる可能性もあるからな」


 しっかりと父からお小言を頂いてしまったけれど、確かにこれに関しては言い返すことはできなかったわ。

 あまりにキラがごく普通のように謝礼として出すと言ってきたので受け流していたけれど、父の言うとおりに扱いを間違えれば大騒動に発展しかねないから。

 ダンジョン探索で使っている魔道具の数々で感覚がマヒしかかって来ていたけれど、これは改めて認識を元の状態に戻さないといけないわね。

 いっそのことキラがそうした騒動込みで開き直ってくれればそれも必要なさそうな気もするけれど……少なくとも今は駄目ね。

 

 とにかく王家云々は別にして、父の意思は確認することができたわ。

 今後は、これを使って子爵との話し合いもできるはず。

 私がするべきことは、孤児たちのことでキラが暴走することがないようにすることよ。

 場合によっては子爵にもキラのことを伝える必要性が出て来るけれど……子爵は魔物の恐ろしさを十分に理解しているはずなので大丈夫でしょう。

 

 こう言っては何だけれど孤児のことで変に意地を張って、ユグホウラの魔物を動かすような事にはしたくないはず。

 もしそれでも貴族としての利益を考えると言うのであれば……どうなるのかはキラ次第でしょうね。




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m(__)m

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