(2)他人との関係性

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 結局カールたちはこれ以上進むのは止めておこうと判断して、先に進むことはしなかった。

 稼ぎ的には前回の方が上だったのだが、これは第七層にある例のエリアで周回討伐をしなかったからである。

 もし同じように三回討伐を繰り返してしていれば、先の階層に進んだ分稼げただろう。

 カールたちに言わせれば、稼ぐためだけに潜っているのではないので枝根動可に頼って稼いでも意味はないということらしい。

 本当に稼ぎたいだけなら特殊エリアでの周回を行ったほうがいいのだろうが、どのチームもそこまで金に困っているわけではないらしいので今回は見送りになっていた。

 あの場所での周回はサポーターの訓練としてもあまり役に立たないそうなので、そういう意味では回避したというのも理解できる。

 俺たちにとってはいつでも来れる場所で、眷属たちを使えば幾らでも討伐ができることが分かっているのであまり魅力的な場所ではない。

 稼ぎにこだわる必要性も無いので、彼らの判断を可として攻略を進めていたわけだ。

 

 というわけで、第八層まで進めた今回の合同探索はカールたちにとっては前回に続き成功だったといえる。

 一番大きな成果はやはり新しい層に進めたことだけれど、何よりもサポーターたちの成長が思った以上だったようだ。

 彼らにとってハロルドは初めてみる顔であり、実際にサポーターとしての仕事は初めてといことで最初は舐めていた。

 ところが冒険者だった過去もあってかすぐにコツをつかんでしまい、人並み以上の働きができるようになったのを見て目の色を変えて訓練に励むようになったと。

 

 サポーターたちの成長もあり、カールたちが一々口を挟むことも少なくなって、戦闘に集中できたことが先の階層に進むことが原動力になったというわけだ。

 稼ぎ自体は前回よりも少なくなったわけだけれど、彼ら的には色んな意味で納得のいく結果だったと言えるのだろう。

 俺たちとしても他チームとの連携を考えるという意味においては、十分に勉強になっている。

 何よりも他チームと組む上での暗黙の了解的なルールを話として聞くことができるのは非常にありがたい。

 

 そして探索の諸々を終えて拠点に戻ってきた俺とアンネリは、ハロルドから一つの疑問を投げかけられることとなった。

「――こんな質問をしてもいいのかわかりませんが……」

「なんでもいいから言って。俺たちだと気づけていないことがあるかも知れないから」

「はい。では、ご主人様たちがそもそも合同探索をする意味があるのでしょうか? そもそも他チームと組むことはないのではありませんか?」

 そう言ったハロルドの視線が眷属たちに向けられていることから、彼が何を言いたいのか十分に理解できた。

「おっと。本当に根本的なことから来たね。その質問に真面目に答えてしまうと、そもそも俺が冒険者をやること自体に意味がなくなってしまうんだよね」

「そうよねえ。私はともかくキラは確実に守られるでしょうから」

 常に周りにいるラックたちの強さを理解しているアンネリが、ごもっともと言いたげに何度か頷いていた。

 

「はっきり言ってしまうと、眷属の皆は俺が行けと言ったらいくらでも魔物を狩ってくれると思うよ。その魔物の魔石だけ十分稼げるだろうしね」

「いえ。さすがにそこまでは……」

「いや。ごめん。別にハロルドを攻めているわけじゃないんだ。折角だから自分がやっていることをしっかり確認しておこうと思ってね」

 ハロルドも俺の立ち位置についてまで聞こうとは考えていなかったのだけれど、ちょうどいい機会なのできちんと現在の行動の根っこをしっかりと確認しておくことにした。

 その意図を感じることができたのか、ハロルドも黙って話を聞くことにしてくれたようだった。

 

「まず、ラックとかルフとかに魔石を稼いでもらうことはできるけれど、それでお大尽よろしく遊びまわる気にはなれないというところかな。それに魔法に関してはそこそこ使えるみたいだからそれを伸ばしてみたいというのもある」

「そこそこどころじゃないと思うけれど……」

 微妙な表情でアンネリが茶々を入れてきたけれど、それを無視して話を続けることにした。

「結果として俺と皆の関係が周りから見れば歪に見えたりするかもしれないけれど……そこはまあちゃんとした関係ができているからこそ出来ていることだと納得するしかないかな」

「はい。それは皆さまを見ていれば分かるので、こちらから何かを言うつもりはございません」

「うん。ここでようやくさっきの質問の答えになるけれど……一言で言ってしまえば、トムを通じて関係性ができたから――かなあ」

「関係性……ですか」

「そういうこと」

 

 ハロルドの言うとおりに、俺たちであれば無理に合同探索という形で下層を目指さなくても先に進むことは出来る。

 それをしていないのは、そもそも何が何でも下層の探索をしようと考えていないということと『朝霧の梟』や『夜狼』との関係性ができたからだ。

 これはアンネリやヘリにも言っていないことだけれど、二周目にヒューマンとして生まれたのに一周目と変わらずに眷属たちだけに囲まれて生きていく意味がないということもある。

 折角人族として生まれたのなら、他の人族とも関わって生きて行くつもりだ。

 勿論、無理に関係性を作って行こうとは考えていないけれども、アンネリから始まって今できている関係性は無理やり作ったものではないと思っている。

 

「折角できた繋がりだからね。変に拒絶する必要もないから。幸いにして生きていくためのお金は十分にあるからね」

「彼らを利用するつもりもないと?」

「そもそも利用するのとされるのは、人が関りを持って生きていく以上はどうしたって発生するんじゃない? どんなに親しい間柄であったとしても」

「……そこまでお考えでしたら、私から言うことはもう何もございません。差し出がましいことを申し上げました」

「いいや。ハロルドであればこのまま黙ってやり過ごすこともできたでしょうに、わざわざ聞いてきたということは俺のことを信頼してくれているからだよね」

「おー。ここでキラの人たらしが発動しましたか」

「アンネリ。混ぜっ返さないで」

 

 俺とハロルドの間に何とも言えないくすぐったい感情が生まれたことを察してか、アンネリがわざとらしく茶化すようなことを言ってきた。

 どうも最近のアンネリの立ち位置が、笑いで空気を和ませる系になってきているような気がする。

 会ったばかりの頃はお嬢様然としたところが前面に出ていたのだけれど、今のような関係性も悪くないと思っている。

 別にどっちがいいというわけではなく、どちらもアンネリらしく見えるので無理に矯正するようなつもりは全くない。

 もっともアンネリの場合は俺がどうこう言ったところで我が道を進むはずなので、こちらから何かを変えるようなことを言うつもりはないのだけれど。

 

 とにかく折角できた関係性をこちらから壊すつもりは全くない。

 プレイヤーという特殊性のお陰で隠さなければならないことは沢山あるが、彼(彼女)らそれを受け入れてくれているのでそれに甘えさせてもらうだけだ。

 その代わりトムのように何か不測の事態が起これば、できる限り助けることはしたいと考えている。

 その手助けがどこまで出すかは流れに身を任せて――ということになってしまうけれども、それはそれで一つの選択肢として有りだと考えている。

 つまりは今のところカールたちとの関係性を切るつもりはないし、望まれるなら合同探索も続けていくつもりだ。




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m(__)m

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