第7章

(1)再びの合同探索

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 ハロルドやオト、クファを迎え入れてからひと月が経った。

 その間に冒険者ランクが上がったりしたが、基本的にやっていることは変わっていない。

 特にオトとクファに関しては、基礎的な勉強から始めているのでダンジョンに潜れない日も多い。

 とはいえまだまだ体を動かしていた方がいい年齢であることには違いなく、何度かトムの指導を受けながらサポーターとしての訓練も行っている。

 そのサポーターとしての訓練だが、オトとクファだけではなくハロルドも受けるようになっていた。

 ハロルドに関しては別にダンジョンには潜らなくてもいいと言っておいたのだけれど、当人がやる気を見せたというのとサポーターの話をすると興味を示したので一緒に潜るようになっていた。

 よくよく話を聞けば、最初は戦闘奴隷として買われていたようで剣を持たせればそれなりに動けていた。

 とはいえ当人曰く「私はそこそこにしかなれませんでした」ということらしく、サポーターとしてなら動けるのではないかと考えたそうだ。

 

 当人にやる気があるのであれば無理に止める必要もなく、また普段拠点で行う仕事もそこまでの量があるわけではないので好きにさせることにした。

 ハロルドも拠点の管理がメインの仕事だということは理解しているので、そこを怠ったことはない。

 さらにはトムの教育もしっかりとやれているので、文句のつけようがないくらいに働いてくれている。

 その働きぶりを見て「むしろあの値段だと安かったのでは」と思わず呟いた呟きに、アンネリも驚いた様子で頷いていた。

 

 そしてそんなハロルドの規格外ぶりに驚いたのは俺たちだけではなく、再びの合同探索を行うことになった『朝霧の梟』と『夜狼』のメンバーも同じだった。

「――やれやれ。何というか、トムの時にも驚いたが才能のある連中には才能のある人材が集まるようになっているのか?」

 ハロルドが夜食の用意をしている手付きを見ながら、カールがそう聞いてきた。

「まだ一月くらいだけれど、ハロルドに関しては才能というよりも当人の努力という気もするけれどね」

「そうなのか……?」

「何をやっても器用にこなせる人はそれなりにいると思うけれど、ハロルドはその典型だと思う」

「なるほど。それに努力が相まって、今ああなっていると。――ダンジョン探索に限らず食料の現地調達は基本中の基本だが、それにしても手際がいいな」

 

 俺やカールが見ている先では、ハロルドが昼間に飼った魔物を見事に捌いて調理している。

 しかも単に焼くだけではなく、ちゃんとした『料理』になっているのは執事としての訓練が生きているのだろうか。

 どちらかといえば執事が料理するイメージはなかったのだけれど、そのことをヘリに聞くと「そんなことはない」という答えが返ってきた。

 そもそも男の料理番は珍しくはなく、下級貴族だと色々な職を回り持ちしたりするので料理を学ぶこともあるそうだ。

 辺境伯家でも専属の料理番が用意できない可能性のことも考えて、正式な執事になるためには料理の一つや二つは出来るようになっているらしい。

 さらにその上の執事長になるにはどんなスキルを身に着けているんだと思わなくもないが、いわゆる家事に関する万能職のようなものだと考えることにしている。

 

「仮拠点も用意してしまったし、完全に俺たちのやることが無くなったな。下手に入ると邪魔になりそうだ」

 ハロルドは手際よく料理の用意をしながらも、その横にいるトムに指示を出している。

 結婚が早いこの世界において三十代半ばのハロルドがそうしているところを見ると、親子のように見えなくもないのだろう。

「トムも最初は必死に喰らい着いていくって感じだったんだけれどね。今ではちゃんと言われたことは出来るようになっている……かな?」

「あいつも孤児の中では器用な奴で知られていたんだが……妙なところで才能が開花したな」

「才能という意味では、サポーターをやっていた時から分かっていたことでは?」

「まあな。あいつほど動ける奴は知らない……と思っていたからな。ハロルドが来るまでは」

 もともと冒険者として多くの魔物を倒してきた経験があるからなのか、ハロルドはサポーターとしてかなり動けるようになっている。

 最初の内はパーティの邪魔をしないように気を使いながら動いている様子だったのだけれど、今ではトムと変わり映えしない動きが出来るようになっている。

 

 ――なんというかべた褒めといっても過言ではない俺とカールの会話に、一息つけたのかハロルドが混ざってきた。

「ご主人様、カール。それくらいにしてください。あまり調子に乗らせるとよろしくありません」

 そう言ったハロルドの視線は、トムに向いていた。

「ああ~。ごめんごめん。カールがあまりに褒めてくれるもんだから、ついね」

「俺のせいか!? ――コホン。まあ、いいか。それよりも聞きたかったんだが、あの結界? ――はどれくらい持つんだ?」

 

 今現在俺たちは、ヘディンダンジョンの八層に来ている。

 さすがにここまで来ると『朝霧の梟』や『夜狼』ものんびりするわけにも行かずに、寝ずの番をすると最初は言っていた。

 俺はそれを止めて、枝根動可を使って結界を張っていた。

 

「うーん、そうだねえ……。多分、この辺りの魔物だと近寄って来ることもないんじゃないかな?」

「……は? それはお前、本当か?」

「多分だけれどね。どうにか頑張って近づいてきても、ようやく傷をつけられるくらいだから安心して寝てていいよ。心配だったら見張りをおいてもいいと思うけれど」

「……仲間と話し合ってどうするか決めるよ」


 魔物が攻撃して来ても傷一つつかないとは言えなかったが、それでも信じられなかったのかカールは難しい顔になっていた。

 はっきり言ってしまえば、領土ボスクラスの魔物が出てこられると全く意味がないものになってしまうのだけれど、さすがにこの辺りにそこまでの強さの魔物は出てこない。

 どうにか破ることができるだろうエリアボスクラスでさえ出てこないのだから、一晩やそこらでこの辺りの魔物が植物の結界をどうにかできるとは思えない。

 もっともそこまで説明したとしても、カールたちが納得できるかどうかは別問題だ。

 

 今回の合同探索で八層にまで来たのは、前回の探索の経験と俺たちがBランクに上がったという話を聞いたからだそうだ。

 一応予定では九層も目指すことになっているけれど、実際に行くかどうかは彼ら次第ということになるだろう。

 パーティメンバーは戦闘についてこれているようだけれど、残念ながらサポーターの面々が上手く動けているように見えない。

 さらに下層に行くとサポーターの中から犠牲者が出てきそうな気配なので、今いる層で訓練を続行する可能性もあり得る。

 

 それらのことを踏まえて今夜の食事の際に今後の予定を決めることになっている。

 稼ぎのことを考えればさらに下層に行く一択なのだけれど、サポーターに犠牲者を出してまでやるようなことでもない。

 さらに現実的なことを言うと、サポーターに犠牲が出るとその治療費だけで下層に潜った分の稼ぎが吹っ飛んでしまうことも考えられる。

 そう考えると、無茶をしてさらに下に潜る意味はない。

 

 正直にいえばまだまだ余裕を持って魔物を倒すこともできるのだけれど、俺や眷属の力を使って攻略を進めても合同探索としての意味はなくなってしまう。

 そのため今後どうするのかは、基本的に彼らの意思で決めてもらうことにしている。

 それにアンネリも同意しているので、俺たちが話し合いに口を挟むことはないだろう。




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m(__)m

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