(10)『大樹の頂』

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「Bランク?」

「はい。かねてより懸案に上がっておりましたが、今回改めて問題ないだろうと判断されましたので」

 探索から戻ってダンジョン内で討伐をした魔物の魔石やら素材を処理するため冒険者ギルドへと向かった。

 そこで受付の一人に、いきなり俺たちがBランクとして昇格することを伝えられた。

 ちなみに残念ながら伝えてきたのは美人な受付嬢ではなく、女性冒険者向けらしいショタっぽい男性だった。

 それは別に良いのだが、伝えてきた内容がいきなりすぎて頭が追い付かない。

 そもそも俺たちはCランクどころか、最近ようやくDランクになったばかりなのでいきなりBランクにと言われた理由が分からない。

 冒険者ギルドにも飛び級制度があることは知っていたけれど、そんな話は欠片も出ていなかったので自分たちに関係があるとは思っていなかった。

 

 詳しく話を聞いてみると分かったのは、ランク昇格についてはもともと検討されていたそうだ。

 その理由は、例のモンスターハウスの件だ。

 見つかった事例も初めての現象だったということもあるのだけれど、あのモンスターハウスにいるモンスターを倒して現象を確認できるという時点で評価がされていたらしい。

 実際に倒しているのは俺やアンネリ、ヘリではな眷属たちなのだが、たとえその事実が広まったとしてもそれだけ強い魔物をテイムしているということになるので評価は変わらない。

 

 なんでもあの部屋の調査がヘディン家から冒険者ギルドに委託されるようになって、調査のための冒険者を検討する際に俺たちのランクが問題になったそうだ。

 そこまで高くないランクにも関わらず、モンスターハウスに沸いている魔物を倒しきっていると。

 あの場所にモンスターハウスがあることは以前から知られていて、一筋縄ではいかないことも分かっていたので慎重を期してたまたまいたAランクパーティに依頼をしたそうだ。

 そのAランクパーティはモンスターハウス内の魔物を討伐し切って調査は成功したのだが、その際にBランク上位でもギリギリだろうと言われたらしい。

 

 結果としてその後もAランクパーティに依頼されることになったのだが、結果としても俺たちが報告していた例の現象が確認できたらしい。

 総合するとモンスターハウス内の魔物たちを四~五回ほど殲滅すると、あのボス系魔物が出て来るそうだ。

 モンスターハウスを放置したままでいるとどうなるのかはわかっていないが、今では要観察地域(部屋?)になっているとのこと。

 とにかくその件で俺たちのランクについて、冒険者ギルド内で昇格すべきだという意見があったらしい。

 

 もともとその意見がくすぶっていたところにとどめを刺したのが、Bランクパーティである『朝霧の梟』と『夜狼』からの報告だった。

 合同探索で俺やアンネリの実力を目の当たりにしたカールやラウが、どう見積もってもBランク以上はあると証言したそうだ。

 例の合同探索でいつにない成果を上げてきた両パーティに、不思議に考えたギルド職員が問いかけたところ俺たちの名前が出てきたと。

 今回はモンスターハウスを攻略できるという間接的な情報ではなく、現役冒険者が直接目撃した情報なのですぐに昇格が決定したらしい。

 

 どちらか一方だけの情報でとどまっていたらそのままだった可能性が高いけれども、両方揃ったお陰で職員からの反対意見もほとんど出ることなく決まったそうだ。

 合同探索から数日空いているのは、俺とアンネリ、ヘリが揃ってギルドにきたタイミングがこの日だったからだそう。

 アンネリやヘリはともかく、俺が色々と動き回っていてギルドに来る機会がなかったので遅れたというわけだ。

 昇格の報告が多少遅くなったからといって、怒るつもりはないのだが、中には文句を言う冒険者もいるのだろう。

 

 冒険者ランクについてはほとんど気にすることなく活動してきたが、ギルド側から昇格の誘いがあった場合は断るつもりはない。

 すぐにその場で構わないと答えたのは良いのだけれど、ここで一つ問題になったことがある。

「チーム名を決めてくれって言われてもねえ……」

「今まで棚上げしていたのに、ここで来てしまったわね」

「いっそのことランク昇格、断るか」

「それをすると昇格以上に恨みを買うけれど、良いのね?」

 全くもってよく無いので、アンネリからの突っ込みには無言で答えた。

 見た目だけで判断されてBランクにふさわしくないと突っかかって来る冒険者はいるのだが、それ以上にギルドから直接誘われているのに断ることでの恨みを買うことの方が多い。

 多くの真面目な冒険者たちはランクを基準に頑張っているので、ギルドから望まれての昇格を断ると何様だと考えるのだろう。

 

 それはそれで返り討ちにしてしまえばいいと一瞬物騒なことも考えてしまったけれど、さすがにそれは八つ当たりが過ぎるので素直にパーティ名を考え始めた。

「……うーん。中々思いつかないな。アンネリとかヘリはなんかないの?」

「駄目よ。あなたがリーダーなんだから、パーティ名くらいはあなたが考えて」

「私が決めるようなことではありません」

 ささやかな抵抗としてアンネリやヘリに振ってみたが、見事に躱されてしまった。

 それにしても、いつの間にか俺がリーダーという扱いになっているのだけれど、アンネリは本当にそれでいいのかと思わなくもない。

 

 そんな考えが顔に出ていたのかは分からないが、アンネリがピンポイントな答えを言ってきた。

「ラックとかルフとか、あれだけの恋人を連れまわしているのに、私が今更リーダーになれるわけがないでしょう?」

「……なにか一部誤解があるような……いえ。なんでもありません」

 何故かアンネから鋭い視線が飛んできたのを感じて、慌てて否定をした。

「ほら。いいからさっさと決めてしまいなさい」

「うー…………本当に名前を決めるのって、苦手だ……」

 思えば眷属たちの名前を決めるときもさんざん悩んでいた記憶が残っている。

 

 ――十分ほど悩んで幾つかの候補の中から最終的に選んだパーティ名は『大樹の頂』という名前になった。

 大樹というのは勿論世界樹のことで、その頂を目指すという実に安直な名前に落ち着いた。

 安直ではあるがわかりやすいということで、アンネリやヘリもそれなりに満足そうな顔になっている。

 眷属たちは『大樹』と入っている時点で気に入ったのか、何も言ってこない。

 

 この時点で世界樹を匂わせるような名前を付けてもいいのかと一瞬悩んだのだけれど、それはもう今更だろうと考えないことにした。

 そもそも辺境伯や国王には知られていることなので、むしろ納得してくれるはずだ。

 もっとも辺境伯はともかく、国王に一冒険者パーティの名前が報告に上がるかは分からない。

 これは恐らく連絡を取っているだろうと思われる辺境伯のさじ加減だろう。

 

 とにかくパーティ名が決まったので、改めてギルドへと報告に向かった。

 手続き自体はすんなりと終わったのだが、名前を報告した際に少しだけ珍しそうな顔をされたのは想定の範囲内だろう。

 そもそも冒険者パーティの名前は、勇ましいという点で動物系の名前をつけることが多く、植物を前面に押し出した名前は珍しい。

 それはアンネリから言われて分かっていたので、職員の顔を見ても何もせずに済ますことができた。

 

 ギルドでの手続きが終わったことでBランクということで確定になったわけだが、特に何かが変わるということもない。

 少しばかりギルドからの義務的な依頼を受けることにはなっているが、それはもともとあった予定の中に組み込めるようなものでしかなかった。

 そういえる時点でおかしいと他の冒険者からは突っ込みが来そうだけれども、あくまでも胸の内で考えていることなので白い目で見られることなく新しいカードを受け取ることとなった。




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※理由はよくわかりませんが、ここ数日一周目と二周目の作品が週間ランキングが上がっているという報告が届いております。

それもこれもフォロー&評価していただいている皆さまのお陰です。

本当にありがとうございます。

m(__)m


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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