(9)細々としたこと

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 < Side:キラ >

 

 何となく慌しいと思える日が過ぎて、一人の奴隷と二人の子供を迎えてようやく日常の生活が戻ってきた。

 ハロルドは思っていた以上に使える人材で、しょっぱなからトムの指導に大いに役に立ってくれている。

 お陰で俺自身は、オトとクファの指導に力を入れることができている。

 あと少し驚いたのが、ハロルドはもともと冒険者として買われた奴隷だったことで、ダンジョンにも潜った経験があるということだった。

 必要があればダンジョンにも潜ると言われたが、答えは保留にしてある。

 現状執事としての仕事はトムの教育と家事関係くらいなのであまり仕事が多いとは言えないのだが、それに加えてダンジョンにも潜ってもらうというのはちょっと働き過ぎではと思う。

 

 その当人から奴隷など使い潰すことも珍しくないのにと言われてしまったが、さすがにそんなことをするつもりはない。

 ましてやハロルドはしっかりとした技術……というか礼儀作法が身に着いた奴隷という希少な存在なので、使い潰すなど勿体なすぎる。

 この辺りの周辺国家では、下手をすれば貧乏貴族家ですらまともな礼儀作法を身に着けるのは難しいのだからどれだけ希少な存在かわかるだろう。

 アンネリでさえそんな奴隷がいるのかと驚いていたくらいなので、まず同じような存在は出てこないと考えていいはず。

 

 ちなみに肝心の礼儀作法については、この辺りの周辺国ではどこも似たり寄ったりの形式で行われている……らしい。

 これらの知識はアンネリからの情報なので、大きく違っていることはないだろう。

 それらの話を聞いたハロルドには、安心してトムへの教育をしてもらっている。

 ついでにトムやクファに対しても教えることを提案されたので、それも了承しておいた。

 

 ハロルドによるトムへの教育が始まったことで、こちらは安心してオトとクファへの指導が始められるようになった。

 俺の中での魔法の重要技術はやはり魔力操作なのだけれど、そのまえに体内にある魔力を感じ取れるようにならないとどうしようもない。

 そのため基本中の基本である魔力を感じ取る方法から教えることにした。

 子供たちの体で魔力がどう感じるのかは分からないが、そこまで大きな違いはないだろうということとオトとクファの魔力を感じ取ることは出来るので、どうにか教師としての役もこなすことができている。

 

 魔法を使うための第一歩である魔力を感じ取る方法は様々あるらしく、アンネリやヘリにも聞いてみたが人によって違っているということだった。

 本当なら技術として確立した方法があるならそちらを教えたかったのだけれど、ないのなら仕方ない。

 時間がかかってもいいからと安心させつつ、二人にはゆっくりと覚えてもらうことにした。

 そもそも基本中の基本である自らの魔力を感じ取ることは早々簡単に出来ることではないらしいので、気長に出来るように待つことにしている。

 

 そんな生活を一週間も続けて行けば時間の余裕も見つけることができて、ようやくダンジョンに潜る目途もつけることができた。

「ごめんね。本当はもっと早めに潜りたかったんだけれど……」

「あら。キラが謝ることじゃないでしょう? 私も納得して受け入れたんだからこれくらいは当然よ。むしろ早かったんじゃないかしら?」

「そこはハロルドに感謝だね。あそこまで優秀だとは思わなかった」

「それは私も思うわ。今だってオトとクファの様子を見ながら拠点の管理をしてくれているしね」

 

 今回のダンジョン探索は、トムが来る前のいつものメンバー(ただしシルクとアンネが入れ替え)とサポーター役のトムという構成になっている。

 将来的にトムが家令や執事としての役目をこなせるようになれば、ハロルドと入れ替えになったりすることもあるだろう。

 オトとクファは、そもそも魔法が使えるようにならないとダンジョンに潜らせるつもりはない。

 サポーターとしての訓練をするためにダンジョンに潜って、魔法の訓練が疎かになっては意味がないから。

 魔力の感知ができるようになってある程度自然に魔力操作ができるようになるまでは、二人がダンジョンに入るのはお預けになる。

 

 今拠点では、ハロルドが拠点の管理をしつつオトとクファが訓練に励んでいるはずだ。

 ハロルドは魔法について教えることはできないが、見張りくらいは出来るので二人がさぼっていないかしっかりと見守ってくれているはずだ。

 そしてそのハロルドから解放されたトムは、のびのびとした様子でダンジョンに潜っていた。

 もっともその言動はしっかりと矯正されていて、以前のような自由奔放な感じはなくなっている。

 それはそれで寂しい気もするが、トムの本質は変わっていないように見えるのでこれはこれで有りだと考えている。

 

 そんなトムが、そういえばという感じで聞いてきた。

「ところでご主人様。今回はどれくらいまで潜るのでしょうか?」

「ああ。そういえば言っていなかったっけ。といってもそこまで具体的に決めていたわけじゃないんだけれどね」

「そうね。今日はとりあえず泊まりなしで往復できるくらいのんびりととしか話していなかったわ」

「そうですか。ではあまり稼げなさそうですね」

「まあ正直、稼ぐつもりでは潜っていないからなあ……。冒険者としては駄目なんだろうけれど、俺たちはこんなもんだってことで納得して」

「いえ、申し訳ございません。別に意見するつもりはなかったんです」

 

 そう答えたトムを見ながら「申し訳ない」なんて言葉遣いができるようになったのかと、妙なところで納得していた。

 ハロルドの教え方が良いというのも勿論あるのだろうが、トムがかなり賢いからこそこれだけ短期間で変われたのだろう。

 アンネリと目配せをしながら、その成長を参観日に来ているお父さんお母さんのごとく感じ入ることになった。

 

 俺がオトとクファの教師をしている間、アンネリはダンジョンに潜っていたのでその腕がさび付いたということはなさそうだった。

 俺自身も魔力操作の訓練は欠かしていなかったので、魔法の腕が落ちるということは無い。

 そのことに気付いたのか、アンネリが感心した様子で話しかけてきた。

「本当に魔力操作の訓練だけで大丈夫なのね。以前と全く変わらない……どころか余裕さえあるように見えるわね」

 微妙に例のボス討伐で成長したのを見抜かれながら、それには気付かれないように曖昧に頷き返した。

「まあね。さすがに月単位で魔力操作の訓練だけで終わらせたら駄目だろうけれど、一週間くらいで戦闘の感が鈍るなんてことは無いよ」

「戦闘もそうだけれど、魔法そのものもよりスムーズに使えるようになって見えるわよ?」

「それは魔力操作の訓練のお陰だろうね。一週間で見て分かるほど実力が伸びたりはしないだろうけれど、腕が落ちることはないだろうし」

 これは本当のことなので自信を持って教えることができる。

 

 俺が魔力操作を大事にしていることはプレイヤーの魔法使いたちにも広まっていて、そこから様々な検証が行われていた。

 今話したことは、そうした検証の上で得た知識の一部になる。

 世界樹の妖精だった一周目と違って、二周目は基本的には人族なのでそうした知識は非常に役に立っている。

 これほど短期間で領土ボスを単独で倒せるようになったのは、魔力操作の訓練の勿論あるがそれらの知識を役立てることができたお陰だ。

 

 そんな会話をしつつ久しぶりのダンジョン探索を楽しんだ。

 いや。命がかかっているダンジョン探索を楽しむというのはどうかと思うけれど、実際に楽しかったので仕方ない。

 それに今回は上層をうろついただけなので、そこまで命の危険を感じる場面がなかったということも影響しているはず。




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m(__)m

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