(8)元執事奴隷の独白

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 < Side:ハロルド >

 

 新たな主が決まった。

 正直なところ貴族家の元執事としての経験が役に立てる主の下につけるとは考えていなかったのだが、どうやら新たな主――キラ様はそれに近い仕事を望まれているようだ。

 もっとも聞く限りでは、最初に行う重要な仕事というのが私とは別の奴隷の教育というのだからあまり期待はできないか。

 そんな甘いことを考えていたのだが、どうやら貴族も相手にすることもあるようで、礼儀作法も含めて本格的に必要になることがわかった。

 常に傍にいるアンネリ様が貴族の一員ということにも驚いたが、トムの言動を許していることにはさらに驚いた。

 私が知る限りでは、貴族の者など体面を気にすることが重要であり元孤児の奴隷と口を聞くことすら汚らわしいと避けるのも珍しくはないのだが。

 

 そもそも私が奴隷でありながら執事の一人として貴族家に仕えることができていたのは、今は既に無くなってしまった貴族家の先代様に買われたからだ。

 もともとその貴族家は先々代様が冒険者から成りあがって貴族として召し上げられて、先代様が小さな領地を盛り立てた家だった。

 それため最初は家令としての仕事よりも、冒険者としての仕事を求められたくらいだった。

 奴隷として買われた時には戦闘の才能があるかなんてことは分からなかったが、幸いにして私にはそれなりのものがあったようでどうにか先代の目に止めることができていた。

 私の冒険者としての才能はそこそこまでしかないと分かったところで冒険者としての活動はほとんどしなくなっていたが、その頃には既に家令としての教育も受けていてそちらで家に残ることができた。

 それがようやく数えで二十歳になるかどうかだったが、それから十五年ほどで執事の一人として認めてもらえるようになっていた。

 とはいえ元奴隷が上がれるのもそこまでで、さすがに執事を纏める立場である執事長になるのは無理だっただろう。

 

 私を取り立ててくれた先代様が亡くなって、その息子が当主になってからがその家の斜陽が始まった。

 甘やかされて育ったのがあだとなったのか、当主様は自分に意見をする者たちを遠ざけるようになった。

 さらに既に周りから食い物にされていた家でありながら贅沢な暮らしは捨てられずに借金を重ねながらそれまで通りの生活を続けていた。

 それだけならまだしも、何をどういう経緯で受けたのかは分からないが格上の立場の貴族家の甘言に乗って、国内での反乱の手助けをするような仕事にまで手を出していたらしい。

 この頃になると先代様の頃に活躍していた私のような者たちは完全に遠ざけられていたので、詳しく知ったのは後になってからのことだ。

 とにかくその反乱は起こることなく事前に王の耳にまで届いてしまい、結果として私が仕えていた家は当代で途絶えてしまった。

 

 仕えていた家が無くなってしまえば、私のような元奴隷が活躍できるような場所はない。

 ましてや当代が反乱に関わっていたということで、奴隷に戻された私はその国からも放逐されて別の国で売り出されることになった。

 それでも面倒な過去のこともあって中々買い手がつかなかったようで、むしろ奴隷商人から嬉しそうに買い手が見つかったと言われた時には驚いた。

 聞けば新たな主人は貴族ではなく冒険者になるということである意味で納得はできたのだが、私のような技術を身に着けた奴隷を購入できるだけの資金があることが今のご主人様の不思議だろうか。

 私を買った奴隷商人も仲介した奴隷商人も不思議だと考えてはいるようだったが、大切な顧客の一人であることには違いなくあまり深く追及するのは止めているようだったが。

 

 ご主人様の資金の出どころは、奴隷として買われた私が追求しても意味はない。

 売られた先が犯罪組織のような場所であれば問題にもなりそうだが、さすがにその程度のことは奴隷商人たちはしっかりと調べ上げる。

 そうしないと国から目を付けられる結果になるので、商人たちも必死になる。

 ということはご主人様は犯罪組織との繋がりは認められなかったということで、それが逆に奴隷商人たちを戸惑わせているともいえる。

 ご主人様の資金の出どころについては、長く仕えていればいずれ知ることもあるだろうと、私自身はあまり気にしないことにしている。

 そもそもご主人様に怪しい繋がりがあれば、いかに側室の子とはいえ貴族の娘が一緒に行動することを許すとは思えない。

 もっともこの考えは、アンネリ様のご身分を知ってから思いついたのだが。

 ご主人様に後ろ暗い何かがあれば、私がどうこうするよりも先にアンネリ様のご実家が動くことになるはずだ。

 

 ある程度奴隷商人の店で話をした後は、その足でそのまま孤児院へと向かうことになった。

 なんでも、ご主人様の弟子候補となる孤児を迎えに行くとか。

 ご主人様は他では見ない類の神官系の技術が身についているようで、その孤児たちはその才能の片鱗が見えているらしい。

 魔法を使える者たちが孤児を育てることはよく聞く話なので、特に疑問に思うこともなくご主人様に言われるままに後を着いて行った。

 

 今は町に来たばかりでほとんど出歩きもしていないのでご主人様が案内するような形になっているが、早く町の地理を覚えてこちらが案内できるようにしないとならない。

 ご主人様方は冒険者で、この町にあるダンジョンに潜っているようなのでしばらく町を離れることもないだろう。

 そういえば、昔取った杵柄で一応ダンジョンにも潜った経験があるのだが、ご主人様は私にもそれを望まれるのだろうか。

 そう疑問に思って孤児院への道すがらに聞いてみたが、好きにしていいと簡単な答えを貰ってしまった。

 

 奴隷の身としては命令していただいたほうが気が楽なのだが、どうやらご主人様は奴隷であっても当人の気持ちを重視されるらしい。

 よくよく話を聞いてみればやる気がない者を下手にダンジョンなんかに連れて行っても、邪魔になることはあっても役に立つかはわからないからという答えを頂いた。

 確かに言われてみればその通りなのだが、肉壁として気楽に奴隷を購入していく者たちに是非とも言い聞かせてほしい内容だ。

 もっとも私がこれまで見てきた限りでは、奴隷を肉壁としか見ないような冒険者が高ランクになるということはほとんど無いようだが。

 

 孤児院に着いて二人の子供を引き取ることになったが、書面上での手続きは終わっていてあとは迎えに来るだけという状態になっていた。

 今後もしご主人様が孤児たちから弟子なり人手を取るようなことがあれば、私が手続きをしたりするのだろう。

 今回は孤児院側でやってくれたようだが、今後もそうだとは限らない。

 短い間の会話で感じたことだがどうもご主人様は気まぐれなところがあるようなので、孤児院に属さずに自分勝手に生きている子を引き取ることもあり得るかもしれないのだから。

 

 とにかく孤児二人を引き取ったあとは、ご主人様たちが普段過ごしている家へと案内してもらった。

 冒険者らしく六人パーティで住んでいても大丈夫な造りの拠点ではあるが、今の人数だといささか狭いように感じられる。

 一応今のところは何とか大丈夫という部屋数はあるのだが、もし今後人数が増えるようであれば引っ越しも考えるように提案したほうがいいだろう。

 ご主人様はこれ以上増える予定はないと仰っていたが、アンネリ様の様子を見てもその言葉に限って言えばあまり信用できそうにはない。

 

 それはいい。いずれはご主人様の持つ資金を把握して、余計な無駄遣いをしそうな場合は諫めなくてはならなくなるだろうが、それは執事としての仕事の範疇だと考えている。

 それよりも問題なのは、子供たちを排除した上で行われた話し合いの最中に明かされた内容だ。

 ごく普通の人族だと思っていたラック様やアンネ様が、実は魔物が姿を変えた状態だというのはどういうことですか!?




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m(__)m

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