(7)執事候補

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 討伐した魔物の魔石から大量の魔力を得られるということを書き込むと、完全に雑談板になっていた掲示板が少しばかり騒めいていた。

 魔法使い系の一部は知っていた知識だったようで、それ以外の人族プレイヤーは知らなかったらしい。

 何故そんな差が出たかといえば、魔法操作の訓練をしっかりできているかどうかで分かれたように見える。

 しかも知っていたプレイヤーの中からは、討伐した魔物によって得られる場合と得られない場合があるというところまで調べている人もいた。

 あの特異な現象は、格上か同等くらいの相手の魔石を得る際に起こるらしい。

 それを聞いた他のプレイヤーの中には、格上相手に挑むのは――と尻込みするプレイヤーもいた。

 いくら二周目のプレイができるといっても、もうすでに数十年近く暮らしてきて多くのしがらみを得ているプレイヤーがほとんどだ。

 そうした関係もできているので、本当の(?)ゲームのようにジャイアントキリングを目指すのをためらう気持ちもよくわかる。

 

 俺よりも詳しいプレイヤーがいるらしいのでそれ以上のことはその人たちに任せることにして、その後の掲示板は眺めておくだけにした。

 目新しい情報もなかったので、単純に久しぶりの掲示板での盛り上がりを楽しんで見るだけで終わった。

 もうそれ以上のことは出てこないだろうと適当なところで引き上げたけれど、後で知る事になるが実際色々な推測が並んだあとはいつものように雑談に変わっていた。

 ここ最近のプレイヤーの動きは、いい意味でも悪い意味でも停滞期に入っている。

 

 掲示板の確認を終えてから世界樹周辺にある建物で一泊したあとは、レオの背に乗りながらのんびりとヘディンへと戻った。

 ただし「のんびり」というのはレオを基準にした感覚で、実際にはかなりの速さで移動している。

 行きよりもゆっくり目で戻っているために、気分的には「のんびり」になっているわけだ。

 しかも人目のつかない山中を移動しているので、普通に考えればあり得ない速度での移動となる。

 

 そんなこんなで予定通り三日でヘディンの拠点に戻ることができた。

 そして拠点に戻るなり、トムが近寄ってきてこう言ってきた。

「ご主人様。院長とガイオ様から準備ができたと言伝を受けております」

 トムが近づいて来る前にヘリから背中をポンと押されていたところが見えたけれど、気付かなかったことにしておこう。

 

 それよりも予想よりも早いと言うべきか、ボス戦前に動いていた件が揃って準備ができたらしい。

「そうか。今日はもう遅いからいきなり訪ねるのは止めにして、明日の午前中にガイオのところに、午後から孤児院に行くとしようか」

「はい。二つともいつでも来てくれと仰っていました」

 それにしてもトムの敬語の使い方がスムーズになっている。

 この三日間でかなり仕込まれたようだね。

 

 そんなことを考えていた俺に、アンネリが近寄ってきて確認する様子で聞いてきた。

「私もそれでいいと思うけれど、大丈夫? 少し疲れているように見えるけれど」

「あれ。そんな風に見えるか。大丈夫、大丈夫。確かに少し疲れているけれど、一晩しっかり眠ったら回復するよ」

 一応そんなそぶりは見せないようにしていたつもりだったけれども、何故かアンネリには見破られていたようだ。

 ただ少し離れた位置にいながらもしっかり話を聞いてたヘリが驚く様子を見せていたので、アンネリにしか気付かれていなかったようだ。

 トムも驚いてアンネリを見ていたしね。

 

「それならいいわ。それよりも予想通りというべきか、予想外というべきか、例の男爵の横やりが入ったみたいよ」

「あらら。それでも予定通りに進めるんだ」

「お父様に言われたとおりに、辺境伯の名前を出しておいたから。孤児院の方は既に手続きを進めていて今更変えられないって事情もあったみたいだけれど」

「なるほどね。それにしてもまた辺境伯の名前を使う羽目になったか……」

「言っておくけれど、新しい返礼品はいらないからね。お父様もどうやってお返しするかって悩んでいたみたいだし。――いくら何でも出しすぎなのよ。ここで名前を使うくらいならいくらでも使っていいそうよ」

「うーん。必要だと考えた分出したつもりだったんだけれどね。――まあ、いいか。お陰で変な横やりが入らずに済んだんだから」


 辺境伯との関係はどんどんとはまり込んでいっている気がするが、どちらかといえばはめているのはこちら側のような気もする。

 あの程度の贈り物だけで名前が借りられるようになるとは、本気で思ってもいなかった。

 ユグホウラにとってはごく当たり前に手に入る物だということもあるけれど、二周目を開始するまでヨーロッパ側とはあまり交易もしてなかったこともあってか高級品になっていたらしい。

 はっきり言ってしまえばもっと出そうと思えば出せるが、折角なのでこれから先もしばらくは貴重品としての価値を保ってもらうつもりでいる。

 

 今のところあまり派手に動くつもりはないけれど、絶対身を隠し続けるつもりもない。

 いずれは表に出ることもあるだろうと考えていることは、既に眷属たちには伝えている。

 それがいつになるかは分からないし、表舞台に立たないままこの地域を抜けることもあり得るだろう。

 その時にアンネリとの関係がどうなっているかは、今のところ分からない。

 

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 翌日。

 予定通りに、まずは奴隷商人であるガイオの元を訪ねた。

 既にこの時間に来ることは伝えてあったので、ガイオも準備を進めていたのか既に彼の傍には一人の奴隷が立っていた。

 その奴隷が、今回購入することになる執事候補ということだろう。

 少し驚いたのは黒髪黒目で、少し懐かしいと感じる組み合わせだったことか。

 今の俺自身も黒髪黒目なのだが、他人だとその組み合わを見るのは珍しい。

 もっともヒノモトに行けば珍しくない組み合わせなのだけれど。

 

 ガイオは元の奴隷商人との間の手続きも既に終わらせていて、あとは俺に引き渡すだけとなっていた。

 今更ガイオが裏切るとは思っていないが、後金を払えば全て終了となる。

 その前に新しい奴隷――ハロルドとのあいさつ程度の会話も済ませている。

 立場があるからなのかは分からないが、今のところは必要最低限のことしか言葉にしていなかった。

 

 その時の会話も特に問題なかったので、ガイオに手続きを進めてもらってそのまま購入することになった。

 後金の支払いも済ませたので、あとは拠点に連れ帰るだけになる――のだけれど、その前にもう一つやることがある。

「ハロルド。来てもらったばかりで悪いけれど、今日はもう一か所行くところがあるからそこに付き合ってもらうよ」

 ハロルドがいかにも奴隷という服装でいたなら服屋へ直行していたのだが、ガイオが気を使ってくれたのか商売の範疇なのかは分からないがしっかりとした服を着ているのでこのまま移動しても問題ない。

「……私は構いませんが、どちらに行かれるのでしょうか?」

「孤児院。たまたまなんだけれど、弟子候補になりそうな子たちを引き取りにね」

「弟子候補ですか。ご主人様ですと魔法使いとしての――ということになりますか?」

「だね。トムは当然のこととして、もしかするとその二人に対しても教育してもらうことになるかも知れないね」

 

 正直なところ俺が思うままに二人を育てると、常識知らずのまま育ってしまう可能性がある。

 それも含めてハロルドとは色々と話し合う必要があるだろう。

 とにかく細かい話はあとですることにして、今は孤児院へ向かうのが先だとガイオの店から出ることになった。




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m(__)m

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