(6)討伐後
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何とか領土ボスは一人の力だけで倒すことができた。
ただし結果は勝利で終わったけれど、反省すべきところはたくさんある。
それは拠点に戻る最中にでもじっくりと考えることにして、今は倒したボスから魔石を回収しないといけない。
既に周囲では素材を求めて幾人かの眷属が採取に励んでいるけれど、魔石の回収だけは避けて行われている。
魔石は討伐した者が得るべきもの――そういう考えがユグホウラには根付いているので、特に単独で倒した場合は討伐者が回収することになっている。
勿論、戦いを終えた者が全て回収するための体力が残っているとは限らないので、絶対ではないのだけれど。
戦いの余韻で全身がプルプルしているが、それでも魔石を回収するくらいの力は残っているのでそちらに向かう。
俺が近づくと、回収班の眷属の幾人かが魔石のある場所から離れて別の場所へと向かっていた。
取るべき魔石は既にむき出しになっていて、あとは軽くナイフを入れて回収されるだけの状態になっていた。
回収班が敢えてその状態で残しているのだが、すでにこの状態にできている手際の良さはこれまで幾度も同じようなことを繰り返してきた結果だといえる。
とにかく魔石に向かってナイフを入れて、体とくっついている部分を切り離してから手に取って持ち上げる。
その魔石が魔物の体から十分に離れて俺自身の体に近づいたその瞬間、思ってもみなかったことが起こった。
魔石を手に取って持ち上げているということは、当然のように直接触れている部分がある。
そこから大量の魔力が伝わって体の中に入ってきたのである。
そんな現象が起こるなんてことは聞いたこともなかったので、かなり驚いてしまった。
その様子を見て慌てた様子でラックたちが近寄ってきたけれど、短く「大丈夫」とだけ返しておいた。
その後は魔石を持ったまま無言になって、体の中に入って来る魔力を整えてきちんと循環できるようにしていく。
これに似た作業として、世界樹の中に来た歪みを整えて魔力を調整するということを散々一周目の時にやってきたので手慣れたものだ。
人の体でやるのは初めてのことだったが、扱っているのが魔力ということもあってか、そこまで大きな違いもなく流れるように作業できている。
魔石から取り込んだ魔力の分、俺自身の魔力が増えていくのを感じていたが、今はそれについては深く考えずにしっかりと流れ込む魔力を取り込むことだけに集中していた。
体感的には十分程度その状態が続いただろうか。
ようやく魔石から流れ込む魔力が収まって、体の中にその魔力が充満していることがわかる。
完全に自分の魔力として馴染むののにはもう少ししっかりと魔力操作をしていかなければならないけれど、とりあえず急激に増えた魔力が暴走するという自体はなくなったはずだ。
他からの魔力を大量に取り込んだからなのかは分からないが、若干体の動きに違和感があるように感じるけれどもそれもすぐに解消するだろう。
そんなことを考えながら息を整えていると、近寄っていたラックが話しかけてきた。
「――主、大丈夫ですか?」
「うん。心配かけてごめん。もう大丈夫だよ」
「それは良かった。何があったのか伺ってもよろしいですか?」
「そうだね。簡単に言ってしまえば、恐らく魔石から魔力が流れ込んできて進化できた……と思う。勿論、君たちに起こる進化とは別物だろうけれどね」
「なんと。我らで言う進化に相当する変化が起こったということでいいですか?」
「たぶんだけれどね。……魔石から流れ込んでくる魔力を無理やり取り込んだからかなあ……」
「ご主人様、もっと詳しく」
半ば呟きのような俺の言葉に、アイが食いついてきた。
魔物のように見た目の大きな変化は起こっていないが、取り込んだ魔力の分だけ体自体にも変化が起こっている。
あくまでも直感的に感じていることだが、そう大きく外れてはいないだろう。
魔石から流れ込んできた大量の魔力を取り込んだ結果、その魔力を扱うために体が順応したといってもいいかも知れない。
より具体的に簡単に言ってしまうと、これまで意識して身体強化を行っていたことが、余りある魔力を使って意識せずに強化できるようになっている。
それも起こった変化のうちの一つでしかないが、それだけでも普通の人族からすればあり得ないような変化と言える。
そんなことが体に起こったのは、魔石から流れて来た大量の魔力のお陰だと断言できる。
ただし、全ての人族が魔石を得ればそんな変化が起こるというわけではない。
当たり前のようにやっていたけれど、まず流れ込んでくる大量の魔力を体に取り込むための魔力操作が自分自身でできなければならない。
さらにこれは恐らくだが、魔石から魔力を得るためには今俺自身が行ったように討伐した魔物から直接採取しなければだめだと思う。
何故なら魔物から魔石を採取して魔力が流れ込んできたのに驚いていた時の魔力は、取りこぼしてしまっていたからだ。
恐らく流れ込む魔力に気付かずにそのまま放置していると、体を通過するだけしてそのまま外に放出してしまうのだと思われる。
一度に多くの魔力が流れ込んでくるので、その魔力を操作するための魔力操作の技術が必要になるというわけだ。
それらの話をじっと聞いていたアイは、最後にポツリとこう聞いてきた。
「――取り込んだ魔力による質の変化はどうですか?」
「それに気づくのはさすがアイだね。どうだろう。さすがにそれは、これからちゃんと調べないと分からないかな。ただほとんどは今の俺の体質に寄っていると思う」
「私たちが属性魔石からその性質を取り込むのとは、また違うのでしょうか?」
「それはどうかな。違うと断言できるほどまだ確認できていないかな。ただもしかすると体が丈夫になっていること自体、元の魔物の性質を取り込んでいるのかもね」
「巨人系は身体強化がメイン。確かにそう言われるとおかしくはないですね」
「そういうこと。あくまでも今回から得た情報だけでの推測でしかないけれどね」
「でも多分、大きくは外れていないと思います」
俺が同意すると、アイも納得した様子で頷いていた。
はっきり言ってしまうと後半の推測は、新しく領土ボスを倒して確認しないと分からない。
例えば鳥系の魔物を倒すと空と飛べるようになるのかといわれると、それはそれで違うような気もする。
となるときっちりと確認するためには最低でも数体は領土ボス倒して確認しないといけないだろうが、残念ながら今はそんな時間はない。
それに一人で領土ボスクラスの魔物を倒せることが世間に知られると騒ぎになるのは目に見えているので、しばらくは隠しておくつもりでいる。
今後のことについてはともかくとして、ようやく落ち着けたので今は領土ボスに勝てたことを喜ぶことにした。
それは眷属たちも同じだったようで、何故かこの後世界樹周辺にある本拠点に呼ばれてちょっとした宴を開くことになった。
いつの間にそんな準備をしていたのかと思うような料理やら飲み物が準備されていて、騒ぐ気満々だったということがわかる。
勿論眷属たちが自分のことのように喜んでくれるのは嬉しいので、その宴に参加して素直に一緒に喜んだ。
とにかく無事に領土ボスは倒すことができた。
自分の力で倒すことができるだろうと見込みがあったからこそ挑んだのだけれど、あくまでも予想であって実際にはどうなるか分からないところがあった。
それがその予想通りに倒せたことで、今後の活動においても役に立てることが出来るはずだ。
そんな確信を旨に、ホームを後にして少し掲示板で書き込みをしてからヘディンの拠点へと戻った。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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