(4)隙間の時間を狙って

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 トムの教師役とオトとクファについての話は進んでいるが、具体的に当人たちが来るのはまだ少し先のことになる。

 その空いた時間を使って、とあることをしたいと考えていた。

「ラック、二、三日中に戻ってこられる距離で、領土ボスクラスの魔物はいないかな?」

 今いる場所は俺の私室で、眷属たち以外にはいないので秘密にしたい話も出来る。

 問われたラックもそのことを理解しているのか、ユグホウラに関することを交えて答えてくれた。

「領土ボスクラスですか。それでしたらいっそのこと転移装置を使って移動したほうが早いでしょう。レオの背に乗れば一番近い場所まで数時間で行けますから」

「転移装置か……。攻略中のところに向かうってことかな?」

「そうですね。いるかどうかも分からない相手を探し回るよりも、よほど早いと思います。それにこの辺りで戦うと、色々と影響が出るのでは?」

「確かにそれもそうか」

 領土ボスクラスの魔物ともなれば、国家単位で監視していてもおかしくはないはずだ。

 そんな監視の目がある場所に行くのは、不都合が多すぎる。

 

「――転移装置を使って行くとしたらどの辺りになるの?」

「さて。人目につきにくいとなれば、阿弗アフリカ蒙古モンゴルの辺りがよろしいかと思います」

「なるほどね。それにしても阿弗はともかく蒙古もまだ攻略が進んでいなかったんだ」

「ファイはともかくとして、他は攻略をほとんど進めていませんでしたから。こちらに突っかかって来た場合は除いて」

「なるほどね」

「一応確認ですが、主が戦われるということでよろしいですか?」

「そうだね。そのつもりだよ」


 領土ボスを求める理由は言っていなかったが、その目的はしっかりとラックには伝わっていたようだ。

 勿論ラックだけではなく、この部屋にいるルフやアンネにも伝わっているだろう。

 ちなみにアンネは、合同探索の二日後にはシルクと交代していた。

 

 この時点で領土ボスクラスの敵と戦ってみようと考えたのは、ようやく魔力操作が納得のできるところまで成長できたからということが大きい。

 一周目の時と比べればまだまだ伸ばせるところはあるのだが、ここらで実戦で使ってみないとイメージ通りに人族の体で動けるかが分からなくなってしまう。

 一応ダンジョン探索で戦闘は行っているのでそこまでイメージと差があるとは思えないが、それでもやってみないと分からないことはあるだろう。

 今まで領土ボスクラスの敵と直接戦ってはいないが、イメージだけでいえば十分に相手が出来るはずだ。

 そのイメージを確信に変えるためにも、弟子や部下を迎える前にしっかりと戦っておきたい。

 

 それにもし今の俺がそこまで強くなっていないのであれば、間違いなくここにいるラックやアンネ、ルフが止めてくれるだろう。

 それもなしに話を受け入れてくれているということは、少なくともワンパンでやられてしまうということはないはず。

 いざとなれば自分たちが助けに入ればいいという考えもあるだろうが、それも込みで思いっきりやらせてもらうつもりでいる。

 

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 領土ボスと戦うのは一人でやるつもりだが、数日離れることはきちんと他のメンバーに話しておかなければならない。

 そのためどこに向かうかはラックに詳細を検討させることにして、俺はアンネリに少しの間ヘディンから離れることを話すことにした。

 トムも連れて行くつもりはないので、アンネリに頼むことも忘れずに話しておいた。

 

「――それは別に構わないけれど、いきなりどうしたの?」

「もう一人の奴隷とオトとクファが来るとなったら今まで以上に忙しくなりそうだからね。今のうちにやっておくべきことを済ませておくことにした」

「そういうこと。やっておくべきことというのが気になるけれど……聞かないほうが良さそうね」


 アンネリやヘリは俺がユグホウラの関係者であることは、既に分かっている。

 そのためそちら方面で何かがあるのだろうといい方向に誤解してくれた。

 別にユグホウラに戻って仕事をするつもりはないのだが、いずれはそういうこともあり得るのでそう思わせておいても構わない。

 今は呑気な冒険者として活動できているが、ずっとこのままでいられるとは考えていないのだ。

 

「俺がいない間ダンジョンに遠征するつもりなら魔道具の馬車とかもおいていくけれど、どうする?」

「何日か戻ってこないといっても数日中には戻るのでしょう? それなら必要ないわよ。どうせいけても浅いところでしょうし」

「そう。それなら置いていくのは止めておくよ。ダンジョンに潜るんだったら気を付けてね」

「ありがとう。無茶をするつもりはないわ」

「ああ、そうか。どうせだったらクインかシルクを呼んでおこうか? 多分来てくれると思うよ?」

 クインはともかく、シルクの実力は例のモンスターハウスの件でアンネリも十分に理解している。

「それはいてくれるとありがたいけれど……本当にいいの?」

「別に構わないと思うよ」

 そう言いながらちらりとアンネに視線を向けて確認をしたが、彼女はすぐに頷き返してくれた。

 眷属たちは遠距離の場所にいても通話できるので、話を聞いて確認を取ってくれたのだろう。

 

 俺の提案を聞いたアンネリは、恐らく本人も気付いていないだろうがわずかにホッとした様子になっていた。

 それを見るとやはり一人でダンジョンに潜ることに、多少なりとも不安に思っていたのだと思う。

 このタイミングで領土ボスと戦うことを決めた俺と同じで、一人でやっていたいと思うもののやはり不安はあるということだろう。

 ちなみにこの会話はヘリも聞いていたが、やはりアンネリと同じような顔になっていた。

 彼女はアンネリの護衛という役目もあるので、負担も大きいと考えていたはずだ。

 

 アンネリとヘリが安堵の表情を浮かべる中、トムが一人不安そうな顔をしている。

「あの、ご主人様。俺……私も一緒に行くのは駄目ですか」

「うーん。本当は連れて行くべきなんだろうけれどね。ちょっと今回は駄目かな。クインかシルクが来た時にちゃんと言っておくから大丈夫だよ」

「ですが……」

「自分では役に立てないと考えているんだったらちょっと間違っているかな。そもそも今の段階でトムが何か出来るとは考えていないから。心配しなくてもそんなことで見捨てたりしないから」

「キラ、その言い方はどちらかといえばトムを追いつめているわよ。トム。今のあなたはやることがたくさんあるでしょう? 主と一緒にいたいという気持ちは分からなくはないけれど、まずはやるべきことをやっておくことよ」

「そうですね。せめて礼儀作法くらいは身に付けないと、誇れる家令にはなれません」

 俺が言い過ぎだと考えたのか、アンネリとヘリがそれぞれ思うところを口にしていた。

 先ほどの強めの言葉は敢えて言ったので、この辺りのフォローは非常に有難い。

 

 アンネリとヘリの助言を聞いて、ようやくトムは納得した様子で頷いていた。

 折角の機会なのだから俺がいない間に家令としての実力をつけて驚かせようとも言っていた。

 確かにそれは楽しみだと付け加えると、トムもやる気になっていたのか目に力が籠っていた。

 どうも自身の落札にかかった金額の大きさがトムを追いつめているようにも見えるが、できればあまり気にせずに頑張ってほしいところだ。

 もっともそう簡単にいかないことは十分に理解している。

 

 俺が留守の間に来るのはシルクになったので、ほぼとんぼ返りという感じで戻ってきていた。

 それと入れ替えるように俺はレオの背に乗って、ここから一番近い転移装置のある地域へと向かう。

 人の体でレオの背に乗るのは慣れたもので、ほとんど揺れを感じることなく目的地につくことができた。




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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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