(3)孤児院長
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合同探索から数日後、拠点にカールが来て孤児院長と面会する準備が整ったと連絡がきた。
そもそも孤児院長に会うために事前に繋ぎを取ってもらうなんてことをする必要もないと言われればそれまでだが、オトとクファを預かることになる可能性があるのできちんと筋は通しておきたい。
孤児院長が孤児たちに対してどんな考えを持っているかはわからないが、それでもオトとクファのために出来ることはやっておきたい。
最終的にオトとクファをどうするかは、孤児院長との話し合いで決まるはず。
孤児院に残したまま時折教えるのでも構わないし、完全に引き取ることにして弟子として育てることになる可能性もある。
この時点ではっきり決めていないのは、孤児院長がどういう態度に出るか分からないからだ。
もっとも同じ孤児院出身であるトムやカールと事前に話した限りでは、よほどのことがない限りは弟子として引き取ったほうがいいと言われている。
この世界のこの時代、孤児が養子や弟子として引き取られることは非常にまれで、他の子たちからすれば羨ましがられるような待遇らしい。
カールに案内されながら目的の孤児院に到着した。
「思ったよりも寂れていない感じかな?」
「ここはまだましだからな。年長の孤児のほとんどはサポーターとして稼げているから食費が浮いた分を建物の保守に回せる」
「ここはということは、他は違うってこと?」
「……ひどいところだと管理者が孤児の稼ぎを巻き上げるところもあるらしい」
「それはまた」
ひどいと言えばひどいのだが、この辺りだとありがちな話ともいえる。
一応ヘディンの町にある複数の孤児院には子爵家から毎年一定額の寄付があるらしいが、それすらもポッケナイナイしてしまうこともあるとか。
それでよく子供たちを育てられるなと思うが、見かねた住人達がこっそりと食事を食べさせたりすることもあるそうだ。
これは別に子爵家の運営がひどいというわけではなく、そもそも孤児院の運営自体はそれぞれが独立して行っているからこそ起こることでもある。
それならいっそのこと子爵家ですべてを運営してしまえばいいと思わなくもないが、それはそれで問題が起こるので実現には至っていないそうだ。
当然ながら孤児院は各町にもあって、それぞれに貴族家が存在している。
ヘディン家は一つの町しか管理していないのでそこだけを見ていればいいのだが、他の貴族家はそういうわけにもいかない。
町が増えれば当然その分だけ管理する孤児院も増えるということになり、とてもではないが直轄で管理する余裕などないのだ。
ノスフィン王国はそこまで宗教の力が大きくないので別だが、他の国ではよくあるように宗教関係で管理しているところもあるので、貴族家(行政)で管理するという意識にならないということもある。
とにかくオトとクファがいる孤児院は、そこまでひどい扱いをされているわけではないということはわかった。
もっともそれは、トムを見ていれば分かることではある。
そしてカールに案内されるままに孤児院の中に入ると、そこでは一人の老人が頭を下げていた。
周りでは小さな子供たちが不思議そうな顔をして見ていることから、その老人が孤児院長であることはすぐに見当がついた。
「院長。とりあえず頭を上げてもらわないと、話ができないぜ」
「カール。そなたは相変わらずだな。礼を施すべき相手にはきちんとしろと何度も教えてきたであろう」
「わかったわかった。とにかく中に入ろうぜ。いつまでもここにいるわけにもいかないだろう」
その会話からカールもどこか孤児院長を苦手にしているということがわかった。
苦手にしているというよりも、強く言うことができないというべきだろうか。
やはり子供のころから育てられた相手には、あまり強く出ることはできないということなのかもしれない。
そんな見ようによっては微笑ましい場面を経て、俺たちは客人を迎えるための部屋に案内された。
そこで一通り自己紹介を終えてから、本題であるオトとクファの話に移った。
「――私も一通りカールから話を聞いておりますが、オトとクファを引き取りたいという話でしたか」
「おや。引き取るかどうかはまだだと思っていたのですが……。まずは院長様がどう思われるか話を聞いてみたいと考えていただけです。二人の将来のことでもありますから」
「……二人に才能はないと?」
「いえいえ。いきなりそこまで飛躍されなくてもいいと思いますよ。そもそも人が人の才能を完璧に見分けることは出来るのでしょうか?」
「カールの話では、あの二人は特別なものを見ることができると言っておりましたが?」
「それは本当のことですよ。そうですね。魔力が人よりも多いからといって、必ずしも全ての人間が一流になれるわけではないのと同じことです」
「結局は努力次第だと」
納得した顔で頷く院長に、その通りですと頷き返した。
才能があるないなどは、結局のところその結果を見て周囲が判断することになる。
今の時点でオトとクファに才能があるかどうかなど、分かるはずもない。
ただ分かっているのは、二人に緑の魔力が見えていてそちらの道に進むための能力があるというだけのことだ。
話を聞いて納得したのか、固かった院長の表情がフッと緩んだ。
「――才能がある子だからこそ自らの手で育てておきたい。そういう考えだと思ったのだがな」
「私もまだまだ道半ばですからね。緑の魔力が見える使えるからといって何ができるのか、はたまたできないのか。手探り状態ですよ」
「それでもなお子を求めるのは、何故だ?」
「勘違いされては困りますが、別に何が何でもあの二人が欲しいというわけではありません。あくまでも二人が望むならという条件ですよ。来たくもないの来られても、折角の力を伸ばすなんてことはできませんから」
「確かに、道理だの。一応こちらで確認は取ったが、二人ともあなたのところに行くことを希望しておる。――そのことを踏まえてどうされるつもりですかな?」
「そうですね。二人が望んでいてあなたの許可が得られるのでしたら、しっかりと弟子として育てていくことを約束します。そちらの道が駄目だったしても食べるのに困らないようにはするつもりです」
「…………そうか」
俺の言葉を聞いた院長は、そう言ってからしばらくの間考えこむように両目を閉じしてた。
やがてその目を開けた院長は、何かを決断したような顔になって頭を深々と下げた。
「こちらとしても二人の子を預かっていただくことに異存はありません。是非ともよろしくお願いいたします」
「そうですか。こちらこそよろしくお願いします」
会う前は色々と想像していた院長だが、会ってみれば子供のことを考えて行動していることはすぐにわかった。
そうでなければ小さな子供たちに囲まれるなんてことにはなっていないだろう。
あの場面を見たからこそ、オトとクファを安心して引き取れると決断できた。
その後の話し合いで、これからどうするかの話を聞けた。
話を聞いて意外に思ったのは、孤児院から子供を正式に引き取るには、ちゃんとした行政手続きを踏まなければならないということだ。
この辺りでは人頭税が当たり前に徴収されているが、孤児たちにはそれがない。
ただしその孤児を引き取る際にはきちんと手続きをしたうえで、しっかりとその税を納めて行かなければならなくなる。
俺の場合は身分が冒険者なので払う必要はないのだが、身元を保証する上での手続きは必須ということだ。
当然ながらそれらの手続きにはお金(手数料)が必要になるのだが、そこまで高いわけではないので問題はない。
とにかくオトとクファを引き取るのはそれらの手続きを終えてからということなので、ひとまずオトとクファは連れて帰らずに拠点へと戻ることになった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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