(2)都合がよすぎる展開

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 今のところ目先にある問題で一番大きいのはオトとクファのことだが、もう一つの問題も残ったままだ。

 それが何かといえば、今はヘリに教えてもらっているトムに対する教育のことである。

 俺から見れば十分だと思うのだが、アンネリからすればヘリも貴族を相手にするにはまだ不十分なところがあるらしい。

 何をどうすれば不十分なのか、一応話に聞いてはみたものの、あまりよくわからなかった。

 となると誰かを呼んで教育させる必要があるのだが、それを誰に頼むかで待ったを掛けていた。

 当初は辺境伯から適当な人材を紹介してもらおうかと考えていたのだが、そもそもトムの問題で面倒をかけたのでそこまでするのは憚れる。

 本音でいえば、トムの教育に辺境伯への息がかかった人間を使うと、余計な思想まで押し付けられかねないという問題がある。

 となると他の誰かに頼むということになるわけだが、その適当な人材がそうそう簡単に見つかるはずもない。

 

「――あの……そこまでしてもらわなくても、私は十分ですが……」

「ダメダメ。折角振り切るって決めたんだからちゃんと考えないと」

「本当にそうね。でも家を使わないとなると結構面倒よ?」

「問題はそこなんだよなあ。いっそのことガイオにでも探してもらおうか」

「それはまた一気に振り切ったわね。そんな都合のいい人材がすぐに見つかるとは思えないわよ?」

「まあね。駄目だったら駄目だったでしかたない。時間がかかってもいいからある程度までは探してもらおうかな」

「あなたのお金だから止めないけれど、本当に振り切っているわね」


 トムを買うまでは奴隷には見向きもしていなかったのに、と続けたアンネリに、俺は誤魔化すように笑い返した。

 一人手に入れれば二人も三人も変わらないとまで言うつもりはないが、トムを返品するなんて真似をするつもりがない以上は色々と環境を整えてあげたい。

 そのために利用できるなら新しく奴隷を手に入れても構わない。

 さらにいえば、拠点を管理する侍女とかメイド的な存在もいた方がいいと考えていたのでちょうどいいといえばちょうどいい。

 そこまで能力を持った奴隷となると貴族家にいた元執事とかにならないと駄目だろうが、そんな都合のいい奴隷がすぐに手に入るなんてことは考えていない。

 

 ――と、今後の予定の決める雑談の時に、そんなことを話していたんだけれどね……。

「えっ!? いるんですか?」

「おりますね。ただこの店にというわけではなく、私の知りあいの商人の店にいるという話ですが」

 駄目もとでも話を聞いてみようとガイオの店に来てみたのだが、あっさりと問題が解決しそうな話をされてしまった。

 なんとトムの教育と屋敷の維持管理という目的に適いそうな人材が奴隷としているらしい。

 

 詳しく話を聞いてみれば、その奴隷は他国の貴族に使えていた元執事らしい。

 本来であれば貴族に仕える執事ともなれば、その家で代々仕えているはずなのだが、その人物は気まぐれで奴隷から育てられたとのことだ。

 元奴隷ということで身よりもなく、貴族家の取り潰しと同時に売られたようだが持っている能力が高すぎるためにその分値段もするせいで、誰も手を出せずに色々な奴隷商人に声をかけて結果になっていると。

 そもそも他国の貴族に仕えていたということもあって、本来欲しがるはずの貴族家は間者スパイであることを疑われて手を出しづらい状況だそう。

 

「――なんとも都合のいい人がいたもんですねえ……」

「全くですな。私もあなたから話を伺うまでは、客などつかないだろうと考えていたのですが」

「もしかしていないと返信してしまいましたか」

「トムの話が持ち上がる前のことです。変に期待を持たせるわけにもいかないですからな。ただもしかしてと思って相手方に確認するとまだ残っているとのことでした」

「……さすがは商人と言っておきますか」

「ハハハ。そう言ってもらえるとありがたいですな。問題があるとすれば、その奴隷はこの町にはおらず首都にいるということですがどうされますかな?」

 

 ヘディンの町で受け取ることもできるが、当然のように町を移動する移送費は余分にかかる。

 移送費をケチって、こちらが首都まで迎えに行くこともできるそうだ。

 

「首都か……」

「いっそのこと行ってみる? まだ行ったことないって言っていたわよね?」

「そうなんだけれどね。オトとクファのことが無ければ、すぐにでも行くって言えたんだけれど……」

「それもあったわね。タイミングが絶妙に合わないわね」

「仕方ない。さすがにこっちから頼んでおいたのを待たせるわけにもいかないし、移送費がかかってもいいからこっちに送ってもらおう」

「よろしいのですかな?」

「構わないよ。それに交渉はあなたにしてもらうつもりですし」

「私が、ですか。手間賃がさらに乗りますが?」

「それは当然でしょう。さすがにただで動いてくれなんて言いませんよ。ただ出来る限り安く抑えてほしいですね」


 人の値段なのでケチをつけるつもりはないが、変にぼったくられても面白くない。

 同じ商人同士であればある程度の相場も分かっているだろうし、特殊過ぎる案件だけに専門家に任せてしまったほうがいい。

 その専門的な知識を使って交渉してもらうのだから手間賃くらい払うのは当然だ。

 中にはそれすらも惜しむ人もいるらしいけれどね。

 

 俺が手間賃もきちんと払うと同意したところで、早速値段の見積もりをしてもらうことになった。

 今回は相手がいることなのですぐにその値段になるというわけではないが、大きく外れることはないだろうとガイオは言っていた。

 奴隷など手にれるつもりはなかったので相場なんてものがある事すら知らなかったので、その辺りは完全にお任せになる。

 それでもトムの時と比べれてむしろ値段が下がっているので、そのくらいで収まるなら構わないと言っておいた……のはいいのだが、ここでガイオに少しあきれたような視線を向けられてしまった。


「この調子であなたに奴隷を買われてしまうと、相場が大きく変わりそうですな」

「いや。いくらなんでもそれはないでしょう。個人で買える範囲なんてたかが知れていますよ」

「無論、冗談です。しかし前回も今回も特殊な事情があるとはいえ、さすがに大丈夫ですかな?」

「このくらいならまだ大丈夫ですよ」


 奴隷は冒険者も買うことがあるので、ガイオはそちら方面にも情報を持っているのだろう。

 俺たちがダンジョン潜ってどの程度稼いでいるのか、ある程度把握できているはずだ。

 そこから考えるととてもではないが払える値段ではないはずなので、不思議そうな顔をしている。

 俺の資金がどこから来ているのかはアンネリさえも知らないので、さらに他人であるガイオは推測することすらできないのだろう。

 

 とはいえこちらからわざわざ教えるつもりはないので、ただ黙って笑って誤魔化しておいた。

 その意図はすぐに通じたのか、ここらが引き際だと判断したガイオはすぐに話を本題に戻した。

「それでしたらすぐにでも手紙を送ります。遅くとも半月後には到着すると思いますが、大丈夫ですかな?」

「今のところ町を離れる予定はないから大丈夫だね。これで予定も埋まることだし」

 ダンジョンに潜っている可能性はあるが、その場合は数日待たせても大丈夫だと言われた。

 奴隷が購入される前はしっかりと奴隷商人が管理をしておかなければならないが、ガイオの店に預けておけば問題はない。

 そういう融通が効くからこそ、交渉も含めて同職間に任せてしまったほうがいい。

 

 いずれにしても、なし崩し的に奴隷を増やすことになってしまったが一緒に着いて来ていたアンネリには不満は無い――どころか何故か満足そうにしていた。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る