第6章

(1)今後のこと

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 合同探索から戻った翌日には冒険者ギルドから見積もりの結果が知らされて、前日に決めた大筋の分配に従って細かい内容が決められた。

 チーム内で換金せずにそのまま手に入れると決めていたものはそのまま戻してもらい、残りは換金してから大筋通りに三つのチームに分配された。

 きちんとサポーターたちの分もしっかりと引かれてから分配されたわけだが、その額はこれまでの活動と比較してもかなりの上になった。

「毎回これだけ手に入るのであれば、できる限り合同探索したがるのもわかるなあ」

「やっぱり人数が多いと効率も段違いなのでしょうね」

 拠点に戻る道のりで俺とアンネリがそんなことを言うと、トムが意味ありげな視線を向けてきた。

「トム。言うべきことはしっかりと言わないと主人には伝わりませんよ」

 そんなトムに『指導』したのは、すっかり教師役になってしまったヘリだ。

 

「は、はい! ――えーと、俺……私は何度か合同探索に参加したことがありますが、そこまで儲けが出たという話は聞いたことがありません」

「え、そうなの……?」

「こっちを見られても分からないわよ。私も初めてのことだもの」

「多分ですが、集魔の罠で三度も戦えたのが大きいかと。普通は、一度戦って引きますから」

 集魔の罠というのは、例の魔物が一度に襲って来る場所のことだ。

「あー。今回はまとめて一気に倒せた数が多くなった分、儲けも増えたと」

「はい。あそこの魔物は素材は安いですが、増えた魔石の数の分の儲けが大きくなったのかと思います」

「なるほどね」


 十五歳になっていないはずなのトムだが、しっかりと利益について考えられていることに驚く。

 もっともこの世界では元の世界――というか日本に比べて成人が早い分、思考の成長も早く感じられる。

 勿論、考え方が子供のまま成長して大人になる者もたくさんいるようだが。

 

 それにしてもこの場面でのトムの助言は非常に助かる。

 いきなりこの時代に生まれた俺は当然のこととして、貴族の一員であるアンネリも微妙に一般的な感覚とは違った考え方をしている。

 特にヘディンダンジョンに関わる冒険者については、俺たちよりもトムの方が詳しいかもしれないほどだ。

 そんなトムからの助言は今の俺たちにとっては必要なものであり、これから先他の冒険者と関わっていく場合に大いに役立ってくれるはずだ。

 トムが来てくれたのは俺からすれば軍全の出来事ではあったが、既になくてはならない存在になっているとさえ思っている。

 

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 ギルドから拠点に戻ったあとは、少し今後のことについて話すことにした。

「――今後のことと言われてもね。もともと何か定まった目標とかがあったわけではないわよね?」

「確かにね。ただ何か目標のようなものを持って動いていた方が良いかと思ってね。いや。目標というよりも方針というべきかな?」

「方針、ねえ……」

「例えば俺の場合だと、おざなりになっている製薬なんかをどうするのかとか。きちんと決めておかないと、このままずるずると棚上げになったままになりそうじゃない?」

「そういうことね。ただ漫然と『ダンジョンに行く』じゃなくて、明確に目的を持って生きていくということか」

「いや。そんな大げさなものじゃなくてもいいんだけれどね」

「いいじゃない。そのほうが分かりやすいだろうし」


 元々考えていたことからすると生きる目的というと大げさすぎるのだが、そこまでいかなくとも直近の指標となるべきものはあった方がいい。

 そうでなくとも、生きていくだけならダンジョンに潜って魔物から魔石を得るだけでどうとでもなる世界だ。

 ただただ漫然と生きていくだけならそれでもいいのだが、折角なので時間がかかってもいいから何かしらの成長を目指すべきだ。

 俺の場合は、そうでなければわざわざ生まれ変わった意味がないともいえるのだが。

 

 というわけで、各々が今後の短期的な目標を上げていくことになった。

 そこまで細かいことは決めていなかったのだが、何故か話の流れでそういうことになっていた。

 といっても各々が悩ましい表情をしていたのはほんの十分程度のことで、すぐにやるべきことは決まってしまった。

「私とヘリは、魔物との戦いで使える手数を増やせるようにする。トムはとにかく使用人、できれば側近としてすぐにでも動けるようになる。……それで、キラは?」

 ……俺以外は。

「――製薬関係のこともあるし、手数を増やしたいのもそうだな。オトとクファのことも考えないといけないし……あれ? なんかやること多くない?」

「うん。キラの場合、何か見つけるたびに手を出すからそうなるのよね。流されているともいえるけれど、必要なこととも言えるから何とも言えないわね」

「……なんだろう。世の理不尽を感じる」

 できればユグホウラのことも考えておかないとならないだろうし――妙にやることが多い気がするのだが、アンネリの言うとおりにそのほとんどが自ら首を突っ込んだ結果ともいえる。

 

 あれもこれもと手を付けるのは愚策だと分かっていても、どれも必要でありやってみたいことに違いはない。

 アンネリたちもいることからダンジョンに潜ることが第一目標だとして、それ以降も順番をつけて行った方がいいだろう。

 となるとダンジョンのことを除いて今一番優先度が高いのは、やはりオトとクファのことだろうか。

 今すぐどうこうなるわけではないだろうが、カールの動きによっては数日で孤児院に行くことになる可能性もある。

 

 そこまで考えた俺は、ふとトムを見てあることを思い出した。

「そういえば、トムはオトやクファと同じ孤児院だったんだっけ。院長ってどんな人?」

「どんなと言われても……他の院と比べても子供たちのことをきちんと考えているって話でした。私にとってはそれが当たり前で実感はありませんでしたが」

「身内であればそう思うのも当然か。それにしても周囲には評判がいい人みたいだね」

「そういえば、サポーターの制度を作ったのは昔の院長だって話もありました」

「おっと。ここでそんな話が出て来るのか。制度を作ったってことは、一から考え出したってことかな?」

「いえ。考えたのは当時の孤児出身の冒険者だそうですが、孤児たちを使うように許可したのは当時院長になったばかりだった院長だったとかなんとか」

「なるほどね。子供たちを飢えないようにするために許可したともいえるけれど……」

 その先は口には出さなかったが、皆には意図は通じたようだった。

 

 穿った見方をすれば、サポーターとして孤児たちが活躍できるようになれば孤児院としてはそれだけ子供を育てるのに使う費用を安くすることができる。

 その浮いた分の金を自由に使えるようになれば、贅沢もできるだろう。

 もっともこれはあくまでも想像の範囲であって、実際にその院長があくどいというわけではない。

 そもそもトムの話を聞く限りでは、孤児たちがサポーターとして稼いだとしても寄付などの実入り自体が少ないのでそこまでの贅沢が出来るようになるわけではない。

 

 孤児院長がどんな人物だとしても、今回はオトとクファを受け入れるための話し合いでしかない。

 現金をせびられるならそれはそれでよし。そうでなかったとしても今後の影響は最小限にしておきたい。

 元孤児の育て親だからといって色々と口出しされたらたまったものではないからね。

 なんて難しいことを考えているが、そもそも院長がそんな裏のありまくる人物でなければ話し合い自体はそこまでもめずに終わるはず……だと思う。




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m(__)m

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